伸縮自在のミスター・バブリー。

 教師の唱えるカタルシス効果と、医師の語る薬物治療方法は必ずしも相互関係にあるとは照明できない。科学者はいつでも探求を示し、夜は焼肉店で酒を浴びる。複雑な迷路のような街並みを一斉し、それが全て自身の物だと理解している偉人は少なかった。ミスター・バブリーはいつでも伸縮自在を誇りに思っている……。
 粗悪品を売りつけた小児科医と、それを見過ごしていた中間管理職の友人が、海の見える自宅で缶の酒を蹴り上げた。七メートル先の交差点の目の前で、蛆虫で出来ているサッカーボールほどの球体を視た瞬間に、すでに私は自分の体内の歯車が燃料切れを引き起こしていることに気が付いた。すでにスイッチは押し込まれた後で、赤い球体が回転を始めている。真っ暗な『自分』という住処の中に路線が少しも無く、あとはただ気体になったように、さまようだけだった。「あの老人の言うことは聞かない方が好い。養命酒よりも薄い味の話しかしない。それに、タルトはイチゴ味が一番美味しいことを理解していない……やつはチーズの乗ったケーキが美味しいと言っているんだ……」喫茶店でいつでも語っていた。
 輪郭すらも朧気な私は、オーロラ色の思考を振りかざす。まるで、高級な粘液ガソリンを辺り一面にぶちまけるようだった。汚い虹が掛かっているようにも見えていた。
「激しいのは脳内だけだった」
「それはお前のせいだろ?」誰かもわからない人型実態が口を歪ませる。「もう夜も深いし、明日はいつでも暗黒だし、さっさとベッドの汚い安全性に、その身を任せたほうが良い……」
 そして私は静かに起床した。まるでロボットが電源を入れられ、起動するように。清潔感のある廊下を歩く頭の中に思い浮かべたのは、無数のお地蔵さん。横に一列に並んでいるお地蔵さんの首元に布を巻きつける作業を無心で行っていた夜に、どうやら都市のほうでは大きな分裂が発生したらしい。「太陽があ! どうして惑星が犠牲になる必要があるんですか!」
 私は布団の上で激怒していた。まるでお湯が沸騰するような感覚。無重力の中で性行為をするのは可能なのか。
「アナタたちの朝食は、どうしていつも白色なんです?」
 私は白いダイニングテーブルの前に居る……。

 はじめに、体内で血液が循環しているのを感じる。骨の全てが走行中の電車のように揺れているのを感じる。
 脳裏には、学生時代の自己紹介の機会があった。確かに赤色の教室は目に悪いけれど、あんなにも節分らしい雰囲気で授業を行う必要はないだろう?
「先生に、何か質問ある人?」
「先生、どうして貴女の顔はいつも、そんなふうに何かしらの重りを背負ったような苦しい顔をしているのですか? どうして車のタイヤのようなドレスを着ているのですか?」
 暴力的美術センスと乾燥している味噌の味。それに伴う下着の香りを纏わせた三メートル・ペンライトが、医師の胸ポケット辺りに堂々と付着していた。
「私はいつでも病棟にいるから……」
 攻防戦を超えて、鉄くずの様相でやってきた汽車のような長方形の存在が、人知れず口を開いて語ったのは平和への近道に関する記述だった。「まるで見ない顔だけれど、どうしても規則正しい市警を雇う必要があった。雇用条件? ああ、もちろん木造さ!」
 冷たい煙を携える和服を着た商人が、いくつかの仲間と共に下山をしているところに、鳥類特有のまばゆい光がやってくる。商人らはそれに魅了されて、いつでもペットボトルの先端に下唇を付着させてしまう……。おおよそ美しいとされる港と砂漠の中間地点にある劣等が、皆の心に街並みを建設し、新しい中毒者を工場長のように生み出していく。「全てはしっかりとした工程の中で発生します」注射器を何本も刺した顔にはシミは無く、代わりに金属製のフォークを押し付けたような痕があった。「全てはしっかりとした工程の中で発生します」幼少期のような温かくおぼろげな記憶が、彼にもあるのだろうかと自惚れる。
「みんなで水に浸かりましょう。そして肩まで入りましょう」教師を気取る職員はテーブルの群れに対して柔らかい口調。「だって、それをすればいいんですもの! アルミニウムにも対応できるんですもの」教師は掃除のされていな便器に危機感を感じている。どうやら電波は受信したくないらしい。
「よく仰ぎ、よく食物連鎖を眺めること。それが胎児への一歩なのかもしれませんね。どうやら、進化系統に関する事実とは、どこのテレビ番組にも、どこのウェブサイトにも記載されていないようですから」
 研究員は衣服を脱ぎ始め、パンツの変わりの海パンを自慢する。誰かが通りかかると同時に海パンを少し下にずらし、大きなシンボルを見せつける。「どうだっ! このデザートイーグルを!」
「ああ……もう少しバレルの方を改造する必要がある……」ミスターは両手で丁寧にデザートイーグルを触っている。「さらに、水漏レ、アリ。と……」
「ああ待てよ。おれはいま、二日酔いの三日目なんだ……」所長はこみあげてくる吐き気を抑えるために、近くのテーブルに置いてあるボールペンの先端を自身の喉に突き刺した。
 中毒者はいつでも自身の性器に自身を持っている……。あとは架空の向上心だけで、実際の脳は最中構造のように空洞だった。そして、常に眼窩と眼球の大きさが一致しておらず、スカスカの眼窩にはあまり良いとは言えない菌がたまる。埃のような菌は眼球の動きを鈍らせ、やがて左右上下のどこにも動かすことができなくなる。
「なあお前、眼球が左右に動かせなくなる恐怖を知っているか? おれは知らねえ」喫煙室の灰皿が美女に見えている彼は、生まれつき眼球が左右に動かせなかった。そうするための神経が死んでいるのだ。「おれはこれを不便だと思ったことは一度もない。生まれつきだからだ」明白な愉悦の顔色で、美女に煙草を押し付けている。
 尿をかけられた兵士はたちまち重火器を捨て、有名なオペラ歌手の真似をしながら戦場を走り回る。まるで戦いを知らない無垢な少年のような、愉快で軽やかな走りだった。
「そんな状態で喫煙を行い、さらに、ええと、その、彼女の頭部に煙草の先端を擦り付けたことこそが、君に異常薬物の使用形跡がある証拠なのではないか?」
「だからって泥水を吸わせることはないでしょう?」木製の額縁で作成された大きな時計を入手した、ベテランのサンドイッチ技師。「記者だって、教授の行動範囲をしっかりとわかってて脱糞を繰り返したわけじゃない。それに、袋から取り出したパンが実際にはプラスチックの塊だったら、誰だって怒りを感じてしまうものです」手元の緑茶を後方に投げた。二重にしてある硝子扉が派手な音を立てながら吹き飛んだ。「空腹の前に出てきたものが、ただの塊なんですもの……」
「そんな研究ばかりをしているから、食事にすら恵まれないのでは?」助手は朝食を食べずに研究に没頭しているので、いつでも頬が、空気の抜けた風船のように萎れている。また、両目の下にはブラックコーヒーのような黒色のクマが発生している。「掃除機でも取り除けなかったんだぞ!」
 奴らはポリエステルで出来た体を、実際の自分の肉体だと思い込んでいる……。緑葉の無い公園だけを目の中に入れている……。
「おれは既存の文字列を改造していくのが好みなんだ……」黒いハットを被っているバブリーは、楽しそうに街中を闊歩する。

 再度の接続。彼は磁石に磁石を接続する。「ほら、縮小だ。つまり、小さいってことなんだ」
 さて、ここからが本題です。と言わんばかりの顔をしているミスター・バブリーは、ようやく乾いた接続音を手元に宿した。金属の色をしたクリップを黒板に張り付けて、それから生徒たちに向かって自慢げな顔をして語り掛ける。ここは教室で、バブリーは教壇の上に両手を置いている。
「これがプールというものだけど、貴方たちにはまだ放浪が許可されていないの」右手にはパイプと同様の形をした指揮棒があった。しかしバブリーはそれをすぐに、教壇の上に置いた。「だから法律を蓄えて、貯水しておいて、硝子のお皿の上で生存本能を研ぎ澄ます実験を繰り返してほしい」
 伸縮自在のミスター・バブリー。やつは雪見だいふくの二つある開け口のどちらを使用するかを決める際、半日の時間を費やした。「凍った雪見だいふくを付属のプラスチック棒でひっくりかえすと、まるでたこ焼きを焼いている時の気分になる……」
 事情聴取では誰もが被害者の顔をする。「やつは真面目な手洗い警察だ」
 伸縮自在のミスター・バブリー。彼は発光させた懐中電灯をそのまま自分の顔に向ける。白い光が彼の平らな無表情を照らしたと思えば、彼はそのまま懐中電灯を顔に近づけていった。そんな様子を観察している人々は、最初は彼は、自分の顔だけに光が当たるように懐中電灯と顔の距離を調節しているものだと思った。しかし、懐中電灯が発する光の円形が彼の顔の輪郭よりも小さくなったのを見て、それは違ったと思い直した。
 懐中電灯は彼の手によって、彼の顔にどんどんと近づいていく。やがて懐中電灯が静止する頃には、懐中電灯のブラスチックの透明な表面と彼の右目に隙間らしい隙間は存在してはいなかった。まるで右目から懐中電灯が生えてきているようにも見えた。
「ああああああああっ! 光で右目が焼けるるるっ! 誰か助けてくれぇっ!」ミスター・バブリーは懐中電灯を握りしめたまま、バイオリンの音色のような高音で叫ぶ。そしてまず、自分が生首以外の何でも無いことに気が付く。黒色になった辺りを見渡すと、それだけで、錠剤だけが生きている生首に見えてしまう。
「死という概念を、赤色を使わずに表現することは可能なのか」そんな文言が、明確な意思を持って脳裏に現れる……。
「私は弱い人間なので、たくさんのお守りが無いと生きていけないんだ」
 ミスター・バブリーは、やはり伸縮自在。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?