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【小説】三津田信三『歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理』

【あらすじ】
瀬戸内海にある波鳥町。その町にある、かつて亡者道と呼ばれた海沿いの道では、日の暮れかけた逢魔が時に、ふらふらとあるく亡者が目撃されたという。かつて体験した「亡者」についての忌まわしい出来事を話すため、大学生の瞳星愛は、刀城言耶という作家が講師を務める「怪異民族学研究室」、通称「怪民研」を訪ねた。
言耶は不在で、留守を任されている天弓馬人という若い作家にその話をすることに。こんな研究室に在籍していながら怖がりな馬人は、怪異譚を怪異譚のまま放置できず、現実的ないくつもの解釈を提示する。あの日、愛が遭遇したものはいったい何だったのかーー。

【感想】
あらすじを読んで貰えばわかるように、著者の代名詞でもある「刀城言耶シリーズ」のスピンオフ的な一冊。

なぜ、原書房や講談社ではなく角川書店からの刊行になったのかと不思議だったけど、読んで納得。
確かに角川でもいいね。

内容はというと、うーん、、、って感じ。

刀城言耶の名前が出てきた時点で僕の中のハードルが上がってしまったのもあるだろうけど、それにしてもネタが小粒だったり、真相に面白味が感じられない短編が多かった。

あらすじにはいくつもの”解釈”を提示するとあるけど、本書は割と真っ当に本格ミステリをやっているので”解決”をすると言っても間違いでは無い。

各短編とも、冒頭で怪異譚が語られ、それを聞いた天弓君が安楽椅子探偵宜しく解き明かしていくという趣向。

事件自体は不可能犯罪が多数扱われていて、強烈な惹きのある謎も出てくる。
けど、その”解決”の面白さが本家「刀城言耶シリーズ」には遠く及ばない。

短編集なので各話ごとのクオリティに差があるかと思いきや、そこも割と一定。

本格ミステリとしての出来にあまり期待をし過ぎずに、登場する地名や人物たちが、どの三津田信三作品とリンクしてるのかを考えながら、肩の力を抜いて読むのがオススメ。

各短編の短評は以下に。

『歩く亡者』
表題作ではあるのだけど、このトリック既視感ある。
“凶鳥”とリンクしてる話なのかしら。
読んだの10年くらい前だから忘れてる。

『近寄る首無女』
これ、バカミス一歩手前よね。
もっと他に方法あっただろと。
ただ、ディクスン・カーリスペクトの短編と見ればこれはこれでありなのかも。

『腹を裂く狐鬼と縮む蟇家』
鍵のかかった檻の中で腹を裂かれた子供の死体。という割と強い謎ではあるけど、密室の解自体は拍子抜け。というか、まさかアレなわけないよな、、ってのが的中。
けど、何故家が縮むのか?というホワイダニットに対する回答は大好き。
まさに僕が刀城シリーズに求める異形の理論。

『目貼りされる座敷婆』
割と強固な密室が出てくる。
けど、犯人が分かり易い。
1人だけ行動が不自然すぎるって。
トリック自体は見抜けずとも、事件の構図はわかってしまった。

『佇む口食女』
トリを飾る書き下ろしの一編。
冒頭の怪異譚は本書の中で1番愉しめたかもしれない。
横溝感がすんごい。
事件の真相は、うん、、、

ラストになってとある趣向が明かされるけど、ミステリ的な仕掛けでもないので、ぼくは「ふーん」で終わってしまった。

早く刀城言耶シリーズの新作を読ませておくれ。

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