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【小説】連城三紀彦『黒真珠』

【あらすじ】

果てしなくくりかえされる愛憎。反転する虚実。そして待ち受ける驚愕の結末――。
騙りの巨匠の大技が冴え渡る、これまで単著未収録だった貴重な恋愛×ミステリ短篇14篇を初書籍化。
文庫オリジナルアンソロジー、没後十年刊行。

【感想】

このクオリティの短編、掌編がこれまで一度も書籍化されてこなかったことにまず驚く。

解説でも「落穂拾いと侮るなかれーー」と言われているけど、まさにその通りで、連城の代名詞である反転がこれでもかと堪能できる傑作短編集。

特に収録短編の「ひとつ蘭」は連城三紀彦の傑作群《花葬シリーズ》に入れても何ら遜色のないクオリティの一編。

故人の作品であるため、各年末ランキングでどのような評価を受けるか分からないところではあるが、商業的な目線ではなく、フラットな目線で評価を下して欲しいところだね。

各短編の短評は以下に。

「黒真珠」
女同士が自尊心を護るため、繰り広げた舌戦の果てに訪れる反転。
一編目から連城三紀彦らしさ全開。

「過剰防衛」
たった7ページとは思えない密度。
醜悪な悪癖を持つ犯人の弁護を引き受けたがために、沼に沈んでいくであろう弁護士の今後を思うと遣る瀬無い。

「裁かれる女」
女弁護士と相談者の男の会話劇の中に仕込まれる数々の罠。
被害者、加害者、弁護士それぞれの印象が二転三転していき、ラストは何とも言えない余韻を残す。

「紫の車」
ミステリ的に見れば、真相は想像の範疇ではあるけど、女心なんてものは僕の理解を軽く超えてくるんだとラスト1ページで思い知らされた。

「ひとつ蘭」
傑作。
“木を隠すなら森の中”をこんな禍々しい構図で体現出来るのは連城三紀彦くらいだろう。
浮気、不貞が横行する物語の中で、僕はとある気持ちの悪い想像をした。
その僕の想像が、登場人物の口から語られたと思いきや、すぐに否定され、真相はそれより数段も後味の悪いものとなっている。
ここまで手の平で転がされてしまえば、もはや気持ちがいい。

「紙の別れ」
ひとつ蘭と対をなす短編。
ミステリ的面白さは然程でもないが、ひとつ蘭の前日譚であり、サイドストーリーでもあり、後日談ともなっている。

「媚薬」
なにやら不穏な雰囲気を漂わせていた所に、その元凶から真実が告げられると一転、温かく切ないストーリーに昇華する。
こういう話には滅法弱い。

「片思い」
いろいろと想像できるタイトルが秀逸。

「花のない言葉」
互いに妬み合う、盛りを過ぎた女性二人の過去と今を浮き彫りにする話だが、結末は爽やか。

「洗い張り」
真相は分かりやすいけど、手紙はダメだって。
分かってても胸にくるものがある。

「絹婚式」
めちゃくちゃお洒落で、気の利いた掌編。

「白い言葉」
たった4ページの中で、小さな気づきから想像もしなかった結末へと着地する。
見事としか言いようがない。

「帰り道」
予想の一歩先を行く結末。
確かにこっちの方が物語に奥行きが出るね。

「初恋」
夫の不貞を知る妻が、舅からのさりげない優しさに涙する。
ラストを飾るに相応しい、温かいお話。

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