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【小説】岡田秀文『治験島』

【あらすじ】

治験が終わるまで、出ることは許されない治験島。男性医師の不可解な転落死、島内で発見された女性の白骨死体…。新薬治験の現場で、いかに犯行が起こったのか。治験という“密事”を舞台に描く、ノンストップ・ミステリー。

【感想】

デビュー当時からミステリ色の強い作品を書いてきた著者だが、時代小説として売り出されていた為、なかなかミステリ読みの目に留まらずにいた。

ようやく認知されたのは『伊藤博文邸の怪事件』からだろうか。
地味な一冊ではあったが、本格ミステリとしてのツボを押さえた良作だった。
かくいう僕もこの作品で初めて著者を知った。

そして、シリーズ2作目となる『黒龍荘の惨劇』
これがすごかった。
悪魔的な発想で、首切り殺人史に新たな1ページを刻んだ。

ただ良かったのはここまでで、3作目の『海妖丸事件』は事件の構図こそ面白かったものの、細部に至っては粗が目立ってしまっていた。
シリーズ短編集『月輪先生の犯罪捜査学教室』もお世辞にも出来が良いとは言えないものだった。

そこから著者の作品はしばらく読んでいなかったが、お家芸の時代小説から離れて、初となる現代を舞台にしたミステリが出ると知って、気になって手に取ってみた次第。
今年は新刊を頑張って読んでいこうと決意もしたしね。

結果は、年末ランキングに絡んでくるようなミステリではなかった。

がっつり本格ミステリをやってはいるんだけど、事件の謎があまり魅力的でなかったり、いろいろ要素を詰め込みすぎて、結局読者に何を魅せたかったのかが伝わってこない。

毒殺という割と扱いが難しいテーマを扱ってはいるが、これは手堅く処理していた。
毒殺といえば入手経路の特定と混入機会の検討。
どちらも破綻なく纏まっていた。

しかし、転落死の真相も肩透かし。
白骨死体はどうかというと「あ、そう…」という感じ。

事件解決後に風呂敷を更に広げるという麻耶雄嵩『翼ある闇』スタイルを採ってはいるけど、あまりにも唐突すぎて面食らった。

麻耶のアレはロマンがあって堪らなく好きだけど、コレはなんか違う。
この土壌で、このワードが出てくるんだという異物感がすんごい。

治験という舞台設定は興味深いし、所々で「おっ!」と思わせてくれる部分もあった。
だけど、全体を俯瞰して見るとまとまりが無く、事件の構図にも面白みが感じられなかった。

著者の作品を次いつ読むことになるかは分からないけど、月輪シリーズが出たら間違いなく読む。
そのほかは、もう、読まないかも、、、

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