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知っている人より、知らない人の方が多い。 - ミーハー is No.1

音楽業界にゼロから入った僕は、あちこちにコネクションがあった訳ではなかった。
そのため、自分でネットワークを開拓すべく、ラジオ局に飛び込みでプロモーションしてみたり、雑誌の編集部の電話番号を調べ、直接電話をかけてアポイントを取ったりしていた。
また朝の情報番組のテーマソングに合うと思った曲が出来た時は、その番組が放送している朝の早い時間にテレビ局に向かい、あっけなく警備の方に門前払いされて(アポがないと絶対に中に入れない)ただの早起きをしただけの徒労に終わったり、わからないなりに一生懸命仕事のやり方を学んでいった。

セカオワを始めた時も、僕は彼らをみんなに聴いてもらいたかった。
こんなに凄い才能が、ここにあるんだよ!と、どんどん知らせたかった。
だったらマスメディアだ!と考え、シンプルにテレビの歌番組に出したいと思った。
師匠の村田さんに「テレビって、どうやったら出れますかね?」と聞いたら、「それは、テレビ側が出したいと思ったら出れるよ」という、至極真っ当な答えだった。

そんなある日、雑誌「日経エンタテインメント!」にNHKの音楽番組の偉い方のインタビューが載っていた。
当時、MUSIC JAPANという番組のプロデューサーだった石原さんという方の記事だった。
インタビューの内容は、「どんどん新しいアーティストを見つけていきたい」というものだった。
勿論他のことも話されていたと思うのだが、自分にとってのポジティブな情報だけ都合よく解釈した。

なかなかインディーズのアーティストは知名度もまだないので、テレビはかなりハードルが高い。
でも業界ルールのよくわからない僕は、とりあえず、行動を起こしてみた。
ラッキーなことに、そのインタビューには石原さんの肩書きと部署名も一緒に記載されていた。
だから、僕はNHKの代表電話番号を調べて、電話してみることにした。

プルルル プルルル

と何度かの呼び出し音の後、NHKの方が電話に出た。

こんな飛び込み営業電話、取り次いでもらえる訳はないと心の中では思いつつ、「音楽のことでお話がございまして、○○部○○プロデューサーの石原さんをお願いします。」と伝えた。

少々お待ちくださいの後、待つこと数十秒。

「はい、石原です。どなたですか?」

と、まさかの急展開、ご本人に直接電話が繋がった。

こっちからかけたので繋いでいただけて願ったり叶ったりなのだが、まさかこんな簡単に事が運ぶとは思っていなかったので、ドギマギしながらも突然の飛び込み電話プレゼンを開始した。

お会いしたこともない、どこの輩ともわからない、飛び込み営業の僕の話を真摯に石原さんは聞いてくれた。
そして「面白そうなバンドだね〜、聴いてみたいから音源送ってもらってもよいかな?」と言って下さった。
電話が終わり、即準備して、その日の内に音源を郵送させて頂いた。

ちゃんと届いたかな?聴いてもらえたかな?とドキドキモヤモヤしながら、約1週間が経過した。
そして、反応を伺うべく、またNHKの代表番号から電話をした。

そうすると、また当たり前のように電話に出てくれて、「あ、聴いた、聴いた。ちょうど連絡しようと思っていたんだよ。良いバンドだね。○月×日って空いてる?MUSIC JAPANの次回の収録日なんだけど、どうかな?」と、石原さん。
この瞬間、初めてのテレビ出演が決まった。

僕はきっとすごくラッキーだったと思うし、石原さんの来るものを拒まない広い器のおかげで、このまさかの展開が起きた。
でも自分で無理だと思って行動していなかったら、このきっかけには絶対に繋がらなかった。
有難いことに10年近くマネージャーをやってきて、今は知り合いを辿っていけば会いたい人に会いやすくはなったし、逆に会いたいと言ってもらえることも増えた。

だけど、原点は変わらない。
自分が関わる才能を、みんなに届けたい。
届いているか届いていないか、出会っているか出会っていないかは、その○×なだけだ。
だったら、その○をもっともっとどんどん増やしていくだけだ。
このプロモーションの一件は、届けたい、繋ぎたいという想いのままに行動していたら、運と縁が巡ってくるものだと学んだ素敵な経験だった。

どんなに有名なクリエイターでも突き詰めていけば、「知っている人より知らない人の方が多い。」と、僕は思っている。
これは名前だけを知ってるとか、名前だけを聞いたことある、という人は知らない人としてカウントした上で、本当にみんなが知っている状態というのはありえないくらいハードルが高い。
でも僕は自分が関わるならば、出来る限りクリエイターの魅力をほんの少しでも感じてもらいたいし、好きか、嫌いか、ジャッジしてもらえるくらい「知っている人」を増やしたい。
究極は、「知らない人」をゼロにしたい。

僕はミーハーで、ジャンルで言うとポップス、特に所謂J-POPが大好きだ。
でも、このミーハーの感覚は大衆に向いた時、自分の趣味趣向に偏らない大切なバランスだと思っている。

歳を重ねれば重ねるほど、自分にとっての「懐かしい音楽」が増えてくる。
そして、それらは思い出補正の影響もあり、アンフラットに自分に深く入ってきやすい。
ただ、そのノスタルジーフィルターとも言える思い出補正は、世間との感覚のバランスを曇らせると思っている。
「懐かしい」は個人に対しての影響力が強すぎるし、「懐かしい」の基準は(特に世代によって)みんなそれぞれ違う。
だから僕は、自分の思い出の音楽は、極力聴かないようにセーブしている。
聴くとしても、ライブ終わりとか、思いっきり浸りたい時だけにしている。
出来るだけ「今」の時代に生まれてきたものにフレッシュに反応出来る自分を保つために、心がけていることだ。

自分の感性が偏らないように意識的にバランスを取って客観性を保つ努力をした上で、自分が好きなクリエイターは、きっと、みんなも好きなはずだ!と、実直にそこは信じている。

この自分のミーハーな「好き」を素直にいつまでも伝え続けていきたいし、まだ見ぬ誰かに繋いでいきたい。
必ずその中に新しい出会いと、クリエイターのファンになってくれる出会うべき人たちが待ってくれていると信じている。

https://twitter.com/Ryota_Shishido ラストラム→TOKYO FANTASY→RED 主に音楽関係のマネージャー 新しい才能との出会いを求めています。 音源やプロフィールはツイッターのDMかinfo@red.jp.netまでお気軽にお送りください!