「やれない理由ではなく、やれる方法。」– マネージャーとしての考え方
SEKAI NO OWARIに関わっていた時、一番大変だった経験は、間違いなく初めての野外ライブ「炎と森のカーニバル」(2013年)だ。
ある日、ボーカルのFukaseが「夢で見た世界を実現したい」と提案してくれた。
その世界は、30メートルの巨大樹がステージの中心にあり、その下でメンバーが演奏している景色だった。
早速、当時のライブスタッフにこの話を相談した。
しかし、チームの回答は、それは絶対に不可能ということだった。
とはいえ、純粋なセカオワメンバーは、簡単には納得しない。
全ての可能性を検証して、どうしても出来ないとなるまで、彼らは諦めない。
数度のなぜ出来なくて、どうやったら出来るのか?という会話のやりとりを経て、スタッフサイドから出てきた提案は高さ15メートルの樹のステージだった。
メンバーのイメージの半分である。
なぜこれしか出来ないのか、これが限界な理由の説明を受けたが、メンバーは腑に落ちない。
ミーティングは着地点の見えぬまま、次回へ持ち越しとなった。
数日後、メンバーから携帯電話宛に画像が送られてきた。
なんだろう?と思って、ファイルを開くとそこには、30メートル以上ある建造物の例がいくつも添付されていた。
「これは30メートル以上あるし、これも30メートル以上ある。だから、僕らのやりたいことが不可能だ、出来ないっていうのが納得出来ないんです。」
まっすぐな彼ららしいと思った。
そして、彼らの意見が正しいと思った。
やったことがないは、出来ない理由にはならない。
不可能ですは、説明になっていない。
絶対に簡単ではないけれど、まだまだ実現の可能性を探れるポイントはあるはずだと信じ、再度打ち合わせを行った。
メンバーのやりたいと、スタッフのやれない。
メンバーの出来ると、スタッフの出来ない。
このやり取りの数ヶ月。
平行線の打ち合わせ。
何度も書いているが、僕はスタッフはあくまで一般人だと思っている。(勿論自分も含めて。)
一般の、いわゆる普通の感覚と常識で、クリエイターが生み出す世界や景色にブレーキを踏むこと程、罪なことはない。
そういう罪な人は、この業界(少なくともクリエイターに関わる部分から)から去るべきだと、本気で思っているくらいだ。
可能性を広げサポートするのがスタッフのあるべき姿なはずだから、可能性を壊すのは最悪な害でしかない。
もちろん、いろんな理由で出来る出来ないはあると思うし、それはお互いフェアに話し合えばよいだけだ。
フェアに話し合わず、スタッフ側の常識で出来る出来ないの判断をして、クリエイターの可能性にフタをすることを、僕は我慢できない。
「やれない理由ではなく、やれる方法」を一緒に模索したい。
再度ライブチームに相談した。
相談というより、もはやお願いに近い。
スタッフのほぼ全員が出来ないと言っているのに、やりたい、叶えたい一点張りのマネージャー。
側からすると、頭がおかしいと思われても仕方がなかった。
でも、出来ない訳がないと思っていた。
出来る方法が必ずあると信じていた。
諦めたら、SEKAI NO OWARIの才能と可能性を殺してしまう。
それだけは、絶対に許せなかった。
好きな漫画、スラムダンクの安西先生も言っていた。
「諦めたら、そこで試合終了ですよ」と。
どれだけ頭がおかしいと思われても、最後の最後まで諦めなかった。
「やれない理由ではなく、やれる方法」。
その話し合いを重ねる中、問題をひとつづつ検証していくと、やれない理由の後ろに、こうやったら出来るかもという、小さいながらも実現出来る可能性がいくつか見えてきた。
多分、あのライブに関わって下さったスタッフの皆さんには、かなりのカロリーと通常ではあり得ない大変な苦労をおかけしたと思う。
だけど、おかげさまで、最終的には30メートルの樹がステージ上に現れた。
メンバーやチームがこんな風にしたいと描いていたイメージボードと、同じ光景が目の前にそびえ立っていた。
可能性を求め続けた結果、Fukaseの頭の中にしかなかった世界をこの世に実現出来た。
そして、この「炎と森のカーニバル」を経て、SEKAI NO OWARIのライブは評判となり、またこの時の彼らの「ファンタジー」という世界観を表す形容詞となり、一気にスケールしていくきっかけとなった。
実現を叶えてくれたスタッフの皆さんには頭があがらないし、感謝しかない。
そして、その後、評判になっている「炎と森のカーニバル」を、関わって下さった方々が「あれは俺が作ったんだぜ!」とあちらこちらで話してくれているというのを聞いて、誇らしかったし、とても嬉しかった。
この実現のために、僕がやったことなんて、ほとんど、何もない。
強いていうならメンバーの可能性を信じて、諦めなかっただけだ。
たくさんの優秀なスタッフの方々が、自分たちの常識を超えて、前代未聞のステージを作り出してくれた。
チーム全員が一丸となって、メンバーだけが見えていた景色向かって、ブレーキを踏まず、今までの常識に囚われず実現する方法を模索した結果、生まれた世界。
あの空間は、きっと、他のライブでは体験したことがないような時間と場所だったと思うし、あの時の思い出や感動は、お客さんの中にずっと生き続けてくれていると、僕は信じ、願っている。
一時は、一人もスタッフ側の味方がいなくなるほど、無謀な提案だったかもしれない。
だけど、実現出来たことで、SEKAI NO OWARIの可能性が開けた。
この大きなターニングポイントを経て、絶対にクリエイターの可能性をスタッフが踏みにじっちゃいけないと、僕は強く確信した出来事だった。
諦める選択は簡単だ。
そして、不可能を可能にすることはとても難しい。
でも、不可能を証明することの方がもっと難しい。
諦めずに可能性を手繰り続けたら、そこには希望がきっとあるということを、セカオワメンバーは教えてくれた。
https://twitter.com/Ryota_Shishido ラストラム→TOKYO FANTASY→RED 主に音楽関係のマネージャー 新しい才能との出会いを求めています。 音源やプロフィールはツイッターのDMかinfo@red.jp.netまでお気軽にお送りください!