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吉田塾日記#12【秋山具義さん】

クリエイティブサロン吉田塾

山梨県富士吉田市、富士山のお膝元でひらかれるクリエイティブサロン吉田塾。毎回、さまざまな業界の第一線で活躍するクリエイターをゲストに迎え、“ここでしか聴けない話”を語ってもらう。れもんらいふ代表、アートディレクターの千原徹也さんが主宰する空間です。第十二回のゲストはアートディレクターの秋山具義さん。

ドラマのポスター、本のカバー、ビルボード、商品のパッケージ、お店のロゴ、学校のコミュニケーションマーク……街へ出ると、具義さんが手掛けたデザインたちと出くわす。それは、“あたりまえ”のようにそこにあるのだけれど、その背景には膨大な想像力と技術の積み重ねがあった。

糸井さんに憧れて

中学生の頃、コピーライターの糸井重里さんに憧れ、広告の世界に興味を抱きはじめた具義さん。NHKの教育テレビで若者に人気を博した番組『YOU』で司会をしたり、週刊文春で読者投稿型のコピー塾で話題を生んだ『萬流コピー塾』を連載したり、広告だけでなくジャンルを越境して幅広い活躍をしていた糸井さん。そんな糸井さんの姿を見て、「広告をつくる人は、おもしろいことができるんだ」と思い、デザインの道を志す。

そして、具義さんは日本大学藝術学部を卒業し、広告業界に入って気付いた。糸井さんのようにおもしろいことをやっている人は、糸井さんしかいなかった。

秋山:中学生の頃から、糸井さんが好きだったので“コピーライター”という存在は知っていました。広告をつくる人は、おもしろい人なんだと思って入ってみたけれど、広告業界に入ってみてわかったことは、糸井さんみたいにおもしろいことをやっている人は、糸井さんしかいなかった。

『A.D.1996 PARCO』/『A.D.1997 PARCO』

広告代理店に入社し、アートディレクターとしての経験を積む日々。ある年、パルコの正月広告を手掛けることになる。ことばでの表現を省き、生き物(カメ/シロクマ)のビジュアルのみで世の中にインパクトを与えた。それは、動物から人類へ向けた哲学的な問いかけでもあった。そのドラスティックな表現が、多くの人のこころを揺さぶった。そして、翌年『A.D.1998 PARCO』にて、憧れの糸井さんとの共演(共作)を果たす。

アートディレクター秋山具義、コピーライター糸井重里。オラウータンが叫んでいる躍動感のあるビジュアルに、『心には、ワイルドを。』というコピー。

秋山:そこから糸井さんと仕事をご一緒するようになり、ほぼ日の立ち上げに呼ばれ、アイコンとなるサルのキャラクターを描いた。そして、1999年に独立する際に、糸井さんから社名をつけてもらった。

「デイリーフレッシュ」

「Dairy Fresh」は、「毎日、フレッシュ」ではなく、「新鮮な乳製品」という意味。「デイリーフレッシュ」は糸井さんナシには語ることができない。

オトナでコドモのアソビゴコロ

具義さんの頭の中は、常に遊び心であふれていて。お話を聴いているだけで、驚き、ときめき、ひらめき、笑ってしまう。それらの楽しい余韻の中に、不思議と懐かしさを感じるのは、子どもだった時の“自分”を思い出すのかもしれない。具義さんのデザインやアイデアを通して、子どもの頃の自分に会える。具義さんはきっと、子どもの自由な発想力と、大人の技術とロジックでデザインをつくっているんだ。

その一部を紹介しよう。

【DOLCE TACUBO】

秋山:代官山 TACUBOのスイーツ専門店“ドルチェタクボ”のネーミングを考えました。イタリアンのスイーツだから“ドルチェ”。発想の起点はSNSでハッシュタグを付けて投稿してもらうところから。ヒントは、イタリアのファッションブランドと日本の大スター。※ネーミング

“ドルチェ&ガッバーナ”と“木村拓哉”

ドルガバとキムタク

人気者を二つ足すと、最強になる。

DOLCE TACUBOは「ドルタク」って呼ばれるようになるでしょう?

【南青山七鳥目】

秋山:南青山七丁目にある焼き鳥屋さん。オープンして一年でミシュランの星を獲った名店。空き店舗を探していた大将から「店の場所が決まりました。南青山七丁目です」と連絡が来た。その響きがいいなと思って、「丁」を「鳥」に変えて、住所をそのまま店の名前にしました。※ロゴとネーミング

【KADOYAのアジフライ】

秋山:パッケージを手に取って見る人のことを想像する。たとえば、冷凍食品コーナーで、パッケージを手に取って裏の成分表を見ている人がいる。それが読み物になっているとおもしろいんじゃないかと、コピーライターにボディコピーを書いてもらって、読み物にしました。まるでコンビニの書籍コーナーで立ち読みしているような感覚で、冷凍食品のパッケージを読む。※パッケージデザイン

『カレーの恩返し』、『常葉大学のロゴマーク』では会場がわっと驚いた。その鮮やかさは、まるでマジシャンのよう。具義さんはいつでも、“驚き”と“わくわく”をデザインし、みんなを楽しませる。「気付いてもいいし、気付かなくてもいい」、そのさり気ないスタンスがエレガントで、見る人の好奇心をくすぐる。これぞ、遊び心。

未来の“常識”をつくる

具義さんは発明家。目に見えるものをデザインするだけではなく、概念さえもデザインしてしまう。それは「今までになかった考え方、視点、イメージ」。具義さんがそれを世界に発表すると、それらはいつの間にか“常識”となる。そう、世の中の“あたりまえ”を変える。「秋山具義」はアーティスト。

【アミノサプリ】

具義さんがロゴとパッケージデザインを手掛けたキリンビバレッジの『アミノサプリ』。赤と白の印象的なビジュアルだ。すると、サントリーが『アミノ式』を出し、さらに追ってさまざまなメーカーが「アミノ〇〇」をリリースしはじめた。そのすべてが、赤色だった──アミノ酸の色が「赤」に決まった。

【マルちゃん正麵】

2011年に発売されたキンキラキンのパッケージデザイン。当時、業界全体として即席麺(袋麺)の売上が落ちていた。即席麵の購買層は、主婦がメイン。土日の昼に、冷蔵庫の余りものの野菜を使ってつくることが多い。

秋山:商品をカートに入れてレジに出す時、周りの人や店員さんになんとなく「この人、手抜き料理をしているんじゃないか」と思われることを気にして、カートに入れるのをためらっているのではないかと思った。だから、カートに入れても恥ずかしくないパッケージはどんなデザインかを考えました。

素材もツルツルとしたメタリックなものを選び、店内の照明を受けて映えるようにした。キンキラキンのパッケージが、手に取る人を少しリッチな気分にさせる。

5食パック売りがはじまったのもマルちゃん正麵から

秋山:僕も好きなのですが、女性はキラキラしているものが好きで。スーパーやコンビニでも光っていると目につきやすいですよね。カートに入れたり、レジに出しても恥ずかしくない。

結果的に、大ヒット商品に。それから他社の即席麵も次々とキンキラキンのパッケージになっていった。

秋山:僕がつくったデザインを、世の中が真似しはじめる。それが、デザインを続ける中で、快感的なもの。

最後に、講義に参加していたデザイナーを目指す美大生から質問があった。

──具義さんが今、学生だったら何をやっていますか?

美大生

この問いの答えが、「秋山具義」とはどういうクリエイターなのかを現わしているような気がした。

秋山:大きな企業に所属して、何かをやるとか、育ててもらうのではなく、自力で何ができるのかを考えると思います。SNSを使って何かを発表したり、あるいは、起業をするかもしれない。

あと、僕は英語が全然しゃべれないので、海外に行って語学力を身につけながら、その国の感覚で仕事をしてみるのもいいかもね。仮に日本にいたとしても、大きな組織に所属するというより、自分の力で模索して──それは作品づくりなのか何なのかはわからないけれど──そこから仕事が生まれる状況をつくってみたい。

僕たちの若い頃はデジタルがなかったので、ある種の徒弟制度の下、職人的に版下の技術を学んでいました。たとえば、広告をつくっても、『コマーシャル・フォト』や『広告批評』などの雑誌に掲載されないと誰にも見てもらえない状況だった。今は、インターネットがあり、SNSのさまざまなプラットフォームで発表の場がたくさんあります。自分でもどんどん発表して、おもしろければすぐに認められる時代だから、僕はちょっとうらやましいです(笑)

たとえば、ボッテガヴェネタのデザインのように蜜柑を編んでみたり、大根おろしでいろいろつくってみたり、さけるチーズをたくさん割いてみたり…Instagramでいろいろとやっています。

秋山:すると、国内だけでなく、海外でもおもしろいと思ってもらえるんですね。だから、とにかく今は「世界に向けて何を発表しようか、どうやったらできるだろうか」ということばかり考えています。

当時は、コンペに通って、有名にならないと認めてもらえないけれど、それって本当に狭い世界なんですよ。その世界では名が通っているかもしれないけれど、一部の人しか知らない。

今だったら、自分の力だけで世界にも行ける。デザインでも、音楽でも。昔とはずいぶん環境が変わったけれど、いろんな人に才能を見つけてもらいやすくなった。

千原:昔はレコード会社からデビューすることがセオリーだったけれど、今はYouTubeで発表して事務所よりも先に世界が認めますもんね。

秋山:今は可能性が無限だと思うから。ダメだったら次に行けばいい。だから、できる人は何でもやったほうがいい時代。サントリーの鳥井信治郎さんじゃないですけど、今の時代こそ、「やってみなはれ」の精神ですよ。

いかなる状況でも、可能性を導き出す。具義さんは、ずっと「これから起こるおもしろいこと」を考えて、未来をつくり続けている。だからこそ、新しい“常識”をつくることができるんだ。

千原さんが具義さんに訊ねた「これからの話」。二人のアートディレクターが考える表現について。それは、この場所に来た人だけの秘密。“未来”をつくる人たちの対話は、刺激的で、おもしろい。

そして、わたしも制作にかかわっている本塾の主宰、千原徹也さんの著書『これはデザインではない』、『クリエイティブの裏技。』のチェックよろしくお願いします。


「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。