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全景千原009

千原徹也から語られる言葉は、常に自身の体験や感情を混ぜながら形になっていく。それは誰と話したとしても。それが「物語」の形式となるのは、外の世界が千原徹也の内側の記憶とリンクしているから。

全ての答えを、生まれてから今日までの〝積み重ねてきた毎日〟に見出す。まるで映画『スラムドッグ・ミリオネア』のように。その瞬間、幸福も不幸も、喜びも悲しみも、全てが輝きはじめる。物語は生きた分だけ増えていく。その時は気付かなくとも、その道すがらで分かることがある。まるで、答え合わせのように。

天性の物語作家

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千原
30代は特に感じなかったのですが、40歳になると想いが一周するんですよ。昔出会った人ともう一回出会ったり、忘れていたことをもう一回思い起こしたり。40歳を過ぎると、この「もう一回」が訪れはじめる。人生の巡り合わせは20年周期なのかなって感じます。

「久しぶり」とか「あの時のこと覚えています?」という会話は長く生きていないと起きないことで。20代は、その1回目を作っている最中なので持てない感覚なんですけど、それから20年経ち、40歳を過ぎた時に突然目の前に現れる。長く生きる意味とか、可能性ってそこにあるんじゃないかな。

嶋津
成功や失敗、あらゆる体験の伏線回収が起き始めるんですね。その考え方だと、年を重ねることも素敵だと思えてきますね。

千原
今、5歳の子どもがいるのですが、あと5年早くにいたら「もっと同じモノを共有できていたのに」って思いますよね。

映画『バックトゥーザフューチャー』が2015年で30周年を迎えました。あれって1985年の世界から2015年へ行く物語なのですが、それに合わせて改めて劇場公開されたんですね。「あと5年早くこの子が生まれていたら、僕がリアルタイムで見ていたものを一緒に見ることができたのに」という想いはありますね。「あと5年早かったらサザンの30周年ライブに行けたのに」とかね。

嶋津
千原さんが幼い頃、リアルタイムで見ていたものを今度は息子さんと共有できる。長いスパンでしか味わうことができない体験ですね。確かに長生きをする価値がある。

千原
だから人生80年というのは「うまくできているなぁ」と思いますね。出会った人と人生を共有するためには良い期間で。子どもが生まれ、成人して自分の道を選び、結婚してその子に子どもが生まれるのが見ることができるのがちょうど70~80歳くらいじゃないですか。そして、次の世代へと渡していく。その周期の中で自分の命が消えていくというのが。

それが別に子どもだけのことではなく、自分が残した作品や広告───それを見た若い人たちが次の世代を作っていく。新しい未来を見届けた時くらいにちょうど死んでいく。「人生ってよくできているなぁ」と。

子どもが生まれて、よりそういう気持ちが強くなりました。最終的には自分が成功することよりも、誰かに自分が残したものを喜んでもらえたり、影響を受けて行動を起こす人がいることの方が嬉しいんですね。人生というモノサシで見ると。

それこそ僕がおもしろい広告を作るより、うちのスタッフが成長していってくれる方が純粋にうれしいし。僕には「映画を撮る」という夢がありますが、それよりも僕の子どもがもっと大きな映画を撮ってくれた方が絶対にうれしい。自分が影響を与えたものに対して、次の行動が展開されていくということの方が歓びは大きい。

何のためにやりたいことをやっているのかというと、多分、それを見てくれている人が次に受け継いでくれるということのためなんですね。「今、映画の試写が見れる」という席が一つだったら、自分よりも子どもにその席を譲りたい。昔だったら、「自分が一番に見たい」と思っていたのが、変わってきている。そういうことなんだろうなって思います。

一つでもいいから、僕がやってきたことを見た人が「自分もこうなりたい」と思ってくれたら、それが一番幸せなんじゃないかなって。



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