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コミュニケイティブな課題設定

※先に書いておきますが、今回は少し話が難しいです。今後、改めてブレイクダウンして、一つずつ解説していこうと思います。

前回の有料記事では「文章上達における高密度のエチュード」ということで、言葉の質量を高める鍛錬について書いた。

今回は、高密度のエチュードを調整する「コミュニケイティブな課題設定」について書こうと思う。創造における孤独は、醸造酒と酵母菌の関係性と似ているように思う。葡萄に付着した酵母の働きによってアルコール発酵が起こり、そこからワインが生まれるように、孤独な時間が思考を深め創造性を促す。つまり、頭の中でイメージを練っている状態は、醸造酒が時間をかけて発酵を起こしている働きと近い。耳を澄ませば、ぷつぷつと小さな気泡の弾ける音が聴こえてくるようだ。そのような静謐な熱狂は脳内で祝祭的な賑わいを見せる。

以前、「作家の書く小説は醸造酒であり、ライターの仕事は蒸留酒のようだ」と書いたことがある。ワイン、ビール、日本酒など原材料を発酵させて生まれたものを醸造酒と呼び、ブランデー、ウィスキー、焼酎など醸造酒を蒸留技術で精製したものを蒸留酒と呼ぶ。つまり、自身の体験やイマジネーションなどの原材料を元に発酵を促せば、それは詩や小説、エッセイなどの作品となる。ライターの仕事はその作り手の言葉や思想を蒸留し、エッセンスを抽出して文章に整えることである。

0から1をつくることと1をブラッシュアップして濃度を高めることは全く別の工程である。そして、それぞれに求められる専門的な技能は存在し、その研究と鍛錬は軽んじてはいけないものだと思っている。意識的なエクササイズによって、成果は明らかに変わる。殊にライター業は蒸留技術であるため、コントロールできる領域は大きい。

とはいえ、日々の鍛錬は辛いもので、誰もが求道的な姿勢をとれるわけではない。コンディションによって波がある。最も大事なのは常に自分自身を「良い状態」に整えることだ。

簡単な話、朝目覚めた時に「今日も書こう」と思えることであり、夜眠る前に「明日も書きたい」と思えることである。それが何より健全な心の状態であると言える。

それをコミュニケーションによって強化、加速させることが今回のポイントである。そこには、ソーシャルネットワークによって起きた価値の移動も関わってくる。ライフスタイルやメディアの多様化によって、求められるテキストのスタイルは変化している。ネット環境の進歩によって、私たちは質の高い娯楽を気軽に楽しめるようになった。Netflix、YouTube、Spotify、アプリのゲーム……もはや娯楽を消費するために私たちは日々の時間を追われている。さらにはSNSに時間を消費すると考えれば、時間はいくらあっても足りない。

何が言いたいのかというと、年々、紙の本を読むハードルが上がっているということだ。読みたくても読めない。10万字を超える文章と向き合うには、私たちには時間が少な過ぎる。それは紙の本だけでなく、ブログにおけるテキストにも言える。2000字を超える文章を読んでもらうためには、相当な力が必要となる。それは書き手が読み手を牽引する力と、そもそもの読み手の「読む力」(活字との親しさ)が求められる。

「ためになる文章」は変わらずに高い価値を維持してはいるものの、全体的な流れとしては、読みやすく、カジュアルに共感の得やすい文章が親しまれるようになった。それは読み手(消費者)の「時間」にやさしいからである。Netflix、YouTube、Spotify、アプリのゲームの隙間の時間でサクッと読めて、笑えたり、あたたかい気持ちになれるものでなければ、「読む」という選択肢の中にさえ入れてもらえないのだ。

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「繭が風を手に入れ、シルクとなった」 対話のこと、文章のこと、考えるということ。

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