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フェリーに乗ってみた


フェリー「はまゆう」に乗った。
片道丸一日をかけて横須賀と門司を往来するこの船は、郊外のイオンモールくらい大きな姿で夜の港にそびえ立つ。

埠頭で夜の出航を待つこと3時間。
案内が始まると、まるで小魚がクジラに吸い込まれていくかのように客の車たちが船に収まっていく。

エントランスなどはもはや一流ホテルのような絢爛ぶりであり、そうかと思えば所々の内装はファミレスのようでもあるこの客船は、レストランから露天風呂、サウナ、フィットネスルームまで申し分のない設備を持つ。

これが陸にある施設だったらたいしたことない、その辺のスーパー銭湯やフィットネスジムのほうがコスパええやんか、というのは見当違いで野暮な話である。

なぜなら、本来は著しく副活動を制限される移動の最中にありながら、本来は場所に留まることを条件とする諸活動を何不自由なく行うことができるからだ。

この「2枚抜き感」に、堪らない贅沢さを感じる。

莫大なエネルギーを使っていることを微塵も感じさせないほど、船は涼しげに大洋を移動しているというのに、自分が大汗かいて漕ぐバイクはその前進に一切の貢献を果たしていない。
清々しいほどの不毛。

勝手に、船旅はうまく富を蓄え、勤めを果たした老夫婦であることがドレスコートのようなものだと思っていた。

豪華客船はそのイメージに近いのかもしれないが、「はまゆう」の旅客は全く違う。
むしろ夫婦と思しき連れ合いは少数派であり、様子はサービスエリアに似たものであった。

圧倒的に多いのはひとり。次いで子供連れ。婦人3人。

たしかに、自分自身も贅沢な旅を考えて選んだわけではなく、「合理的な移動手段」がフェリーだっただけの話である。


航路を振り返れば、単に日本列島の半分をなぞった程度のはずだが、進めど進めど果てしなく水平線が続いていた。海はひろい。

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