でっちあげ 福田ますみ著
事件から15年が経ち、とんでもない冤罪事件の詳細全てを余すことなく記したこの本を読み終えたとき、何とも言えない後味の悪さが残った。
2003年、福岡で起きた「教師によるいじめ」とされる体罰事件が、地元の新聞報道で明るみに出る。
アメリカ人の曽祖父を持つ小学3年生の児童が、「穢れた血め」と罵られ、悍ましい体罰を受け、しまいには自殺強要までされた。
この常軌を逸した行為が原因となって、PTSDを患った児童の親は、教員を相手取って訴訟する。
描写の詳細は本書に譲るが、臨場感たっぷりで書かれたシーンには慄き、目を背けたくなるあまり、思わず本を閉じてしまうほどだった。
マスメディア各社の報道は過熱化し、瞬く間に教師の残忍極まりない行為は全国に知れ渡ることになる。
と、ここまでは猟奇的なまでの差別感情を持つ一教員が起こした事件とされてきたが、事態は思わぬ方向に展開していく。
タイトルで察しがつく通り、この全てが”でっちあげ”だったのだ。
あまりにセンセーショナルな”いじめ”場面の描写でこの物語が始まったため、タイトルを忘れて被害者感情に浸りきってしまったのだが、次第にこの児童の両親がみせる、教員を貶めるための虚偽だらけの言動が暴かれていき、どんなラストになるのかと妄想が大きくなっていった。
それは半沢直樹を読むときに似た、最後は悪に大きな鉄槌が下って、爽快感を手に入れたい願望だったのかもしれない。
しかし、結末は前述の通りである。
いや、後味が悪い事件だったからこそ、マスメディアの恣意的な報道、それを鵜呑みにする一般社会、学校とPTAの歪んだパワーバランスなど、社会の負の側面に警鐘を鳴らすことができるのかもしれない。
信憑性も品位もないネットニュースやワイドショーではなく、ホンマモンのジャーナリズムとはこういうことだ、ということを叩き込んでくれたノンフィクション本だった。
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