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【LIVE REPORT】2021.5/19 渡辺翔太&Marty Holoubek Live@神戸BORN FREE

渡辺翔太とマーティ・ホロベック

渡辺翔太というピアニストの魅力を挙げていくと、枚挙にいとまがない。
ベーシックなテクニックの高さは言うまでもなく、
自分自身のサウンド=声を自在に操るようにピアノを鳴らす。
それはライヴでの最初のピアノタッチからも如実に表れる。固さのない、滑らかで美しいサウンドを放ち、我々を瞬時に魅了していく。

彼は若井俊也(ベース)、石若駿(ドラムス)とのトリオを軸にリーダーアルバムを2枚リリース、自己の音楽世界を鮮やかに提示している。
その稀有な才能を幾多のバンドがこぞって求めており、その活動は多岐にわたる。


ベーシストのマーティ・ホロベックも今や日本のジャズシーンにはなくてはならない存在だ。
アコースティック、エレクトリック共に逞しいベースサウンドと柔軟なアプローチで各方面からオファーが絶えない。
オーストラリアから縁あって日本に移住し、特に昨年は自身の初リーダー作『TRIO I』の発表、石若駿、細井徳太郎、松丸契との「SMTK」での活動、また西口明宏グループのアルバム『FOTOS』でも見事な演奏を残している。

日本のジャズシーンの最前線で特筆すべき活動を続ける2人のデュオを関西で聴ける日を首を長くして待っていた。そして、いよいよ関西を含むツアーが5月に企画された。
今回、ツアー最終日の神戸公演についての感想をここに記す。

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2021年5月19日(水)LIVE@神戸岡本BORN FREE

(SET LIST)
1.SMILE(Charles Chaplin)
2.NAGOYA NO IE(Marty Holoubek)
3.WA SOUL(Shota Watanabe)
4. NARUYŌNI NARU(Marty Holoubek)
5. SONG FOR THE SUN(Shota Watanabe)
6.BYE BYE BLACKBIRD(Ray henderson)
7.ドタキャン(Marty Holoubek)
8. GIANT ARMADILLO'S HIDEOUT(Shota Watanabe)

(Encore)
Closer(Marty Holoubek)


〈LIVE REPORT〉
「BORN FREE」は渡辺としてはさまざまなライヴで馴染みのある場所、対するマーティは初めての出演。BORN FREEのピアノは当日に調律も入り、万全の状態だ。
もちろん、検温、消毒、飛沫防止などのコロナ対策も万全。こちらはもちろん、各ライブスペースの尽力には頭が下がる。
緊急事態宣言の影響で当初予定から18時30分から19時45分までの1セットのみの演奏となった。

さまざまなアプローチが容易にできるこの2人はどんな演奏を披露してくれるのだろう。筆者のイメージとしては静謐な、じっくりと音を紡いでいくような演奏を想定していた。

だがその予想は良い意味で大きく裏切られた。

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演奏する曲のほとんどをそれぞれのオリジナルで構成するという2人がこのライヴの1曲目に選んだのはスタンダード中のスタンダード、“Smile
先に触れた通り、渡辺の最初の一音で心を持っていかれる。あたたかく、なおかつ繊細で純粋なピアノの音色が耳の奥に染み渡ってくる。
それぞれがありとあらゆるアプローチで名曲のエッセンスをさらに引き出していく。互いの音を確かめ合う、というよりも、音をぶつけ合っていくようなアグレッシブな演奏だ。
そのままマーティがツアー中に作曲した“NAGOYA NO IE”へ。マーティにとっての名古屋の家、それは渡辺の自宅の事だそうで、渡辺の家で食べたゴボウが印象に残っているとか。マーティらしい、ほっこりするエピソードだ。
日本の心を渡辺らしくマーティに伝えた“WA SOUL”は2人がそれこそ日本について語り合うような、デュオならではの会話のような演奏のキャッチボールが楽しい。
これまたマーティらしいリラックスした曲調の“NARUYŌNI NARU”でも、次から次にイマジネーションが溢れ出る。
これだけ自分たちの演奏の全てをぶつけ合えるのもお互いの信頼と実力を認め合っているからこそだし、相乗効果でより一層、それぞれの魅力が光っていた。
渡辺の楽曲、“SONG FOR THE SUN”は穏やかな曲調で、徐々に日が昇っていくような印象を受けた。じっくりと弾く渡辺に合わせて、マーティもベースを深く鳴らしていた。

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BYE BYE BLACKBIRD”の馴染みあるメロディが自由自在にリズムチェンジしながら、息もつかせぬスリリングな展開に。そこから自然とマーティが「SMTK」のアルバム『SUPER MAGIC TOKYO KRAMA』で披露した“ドタキャン”へ。この曲をデュオ形式で聴けたのは貴重だと思う。

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時短によって、1セットだからこそ魅力がギュッと凝縮されたライヴもいよいよ終盤。
GIANT ARMADILLO'S HIDEOUT”、大きなアルマジロの隠れ家、とは何とも珍しいタイトルだが、まだ曲名未定の際に、渡辺が愛知県西尾市吉良の名店「intelsat」で演奏したところ、演奏が終わってからマスターが命名してくれたそうだ。
曲名というのは不思議なもので、楽曲の情景を視覚的に想起させてくれ、本当にタイトルのような印象を受ける。
複雑に入り組んだ構成も渡辺の滑らかなピアノだから、すんなりと心に入ってくる。マーティの指先から生み出される力強いビートは、アルマジロの強固な鱗状の背面を思わせる。

アンコールの“Closer”は終幕にふさわしく、穏やかな曲調で渡辺とマーティの滋味深い音色をじっくりと味わせてくれた。

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ライヴレポート冒頭に記したように、静謐な雰囲気というよりも、互いにせめぎ合い、高めていくデュオ演奏だった。終演後の渡辺も、「ガッツリ演奏するでしょ?」とサラリと言ってのけた。

せめぎ合い、と言っても、変に力む事なく、とてもナチュラルに高め合っていくから聴いていて疲労感はない。ずっと聴いていたくなる。
新曲を含むオリジナル中心のセットリストながら、現時点でスタンダードのような自然な佇まいを持つ楽曲たちであったことも特筆すべき点だと思う。

抜群の相性を誇る2人だけに、ぜひ作品として記録してほしいと思ったが、期待通り今年の8月にレコーディング予定との事。近い将来のリリースが今から楽しみだ。

このツアーの開催もコロナ禍の影響で危ぶまれていたが、ツアー前に渡辺が「今やることに意味があると思い、決行しました」と力強く答えてくれた。
マーティの曲名よろしく、

NARUYŌNI NARU なるようになる

信念を持って行動すれば、自ずと結果はついてくる。演奏を通じて、なんだか2人に、そう言って勇気づけられたような気がした。

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