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良いDX、悪いDX...

僕はIT関連の事業をおこなっているので、ときどき企業グループの会合などに呼んでもらって、ちょっとした講演依頼を受けたりする。そういう時は、大抵は分かりやすくスマホの活用やAIやDXについて話をすることが多い。最近はZoomでの講演も多いので、「コロナ禍での…(生き残り策、とか事業の在り方、とか)」というのもある。

で、最近受けた内容がこれだ。「ぜひ、『中小企業のDX』について話をしてほしい。」

んーなるほど、と思った。というか、そのように依頼してきた方が、自分の尊敬する方でもあり、地域でものすごく精力的に事業をやられている方だ。周囲の経営者にも様々な触発されるような経験を与えたい、と思っているのだと思う。

そういう依頼者の方の意気込みが僕は大好きだ。おーし、やってやろうじゃないの、と思った。たまたま、その方と別の会社の方々の4名で話をする機会があり、DXについての話が出たので、そこで僕は思っていたことを口にした。

「DXというのは『目的』であってはダメなんですよ。それはなんとなく分かりますよね? 手段が目的化する、てよくあることですから。でもねDXというのは、『手段』であってもダメなんです。え? どうして手段でもないのかって? それを説明すると3時間くらいかかっちゃうから話しませんけど、とにかく、そういうDXは失敗します。」

すると、皆さん腑に落ちない顔をする。そりゃそうだ、だって僕が説明放棄しているんだから。でも、この話は本当に時間がかかるんですよ。

・・・とこれまでは都合よく言い訳をしていた逃げていたんだけど、そういうような説明が何回かここのところ続いたので、整理を含めて、このnoteにしたためようと思った次第。

一応断りを先に書いておくと、僕の頭の中はとっ散らかっているので、この後なぜか日銀の金融政策の話とか出てくるので、正直、意味不明な内容に見えるかもしれない。でも、比較に出すのに、全くもって同じようなことになるので、マクロ経済を聞きかじったことのある人なら理解してもらえるような気がする。そうでない人も、とりあえず読んでみて欲しい。結構腹落ちする内容だと思うので。


え、さて、突然日本の金融政策の話をしたいと思う。「インフレ目標」とか「インフレターゲティング」という言葉は日経とかにはよく載っているので、多分見たことがあるだろう。で、そこで日銀による「2%の目標」の実現が云々、ということがしきりと論じられている。

この言葉の最初の背景は、1998年に、あのノーベル経済学賞を受賞した、ポール・クルーグマンが書いた日本の経済についての記事に遡る。タイトルは「日本の罠」だったらしい。自分も当時読んで、アメリカの大学院で経済を学んで帰国直後だった僕は、「うわ!なるほど!」と興奮して読んだことを覚えている。

その中のキーワードは「流動性の罠(Liquidity Trap)」。バブル崩壊後、経済の刺激策として、日銀は金利を下げようとする(というか、下げた)。金利が下がると、お金を借りても利子が少なくて済むから、会社は設備投資のために積極的にお金を借りようとして、その結果、生産効率やら色々と良いことが段々と起きていって経済は上向く、というのが普通のストーリー。ところが、日銀がこれをやっていたのに、一向に設備投資が増えない。

なんで? というところにクルーグマンが指摘したのが「流動性の罠」だった。金利がある一定のゾーンにまで下がりすぎると、お金を貸し出す方(銀行とかですね)はメリットが見出せず、貸さない方向に動いてしまうので、結局企業による設備投資は行われず、経済刺激策にならない、という状態に日本はなってるよ、と指摘したのだ。(経済の専門家の方々、ここはかなり適当な説明になってますが、本旨はそこではないのでご勘弁ください。)

この論は当時賛否両論を巻き起こし、いろいろな人たちがいろいろな立場から検討や議論をしていた。ちなみに、僕が当時使っていた教科書によると、

この「流動性の罠」はケインズが当初から予言していたが、実際には60年経過した現在においても(筆者注:教科書の書かれた当時の「現在」)、実際にはこの現象が見られたことはない

R. Dornbusch, S Fischer, "Macro Economics Sixth Edition"

と書かれている。今、教科書引っ張り出してきて気がついた。超おもしろい!

ま、つまりは理論的にはあり得たけど、実際に世界で初めてその「罠」に引っかかったのが、何を隠そう、日本だった、という指摘をクルーグマンは行ったのだ。

そしてちゃんと、それに対する処方箋もクルーグマンは提示していた。日銀の基本的な仕事ってのは、経済が加熱した時に金利を上げて投資意欲を下げたり、経済刺激が必要な時は金利を下げてその逆をしたり、ということにあるけど、この「罠」に陥っている時には、その仕事を一旦放り出して、「近い将来、オレっち、物価が上がると思うから金利上げちゃうよ。そのためにお金をバンバン刷るから。したら物価高になるでしょ。そうねえ、高くなって経済が加熱しすぎてもいけないから何%くらいね」と表明することで、将来の「インフレ期待」を上げ、金利の低い今のうちに設備投資することを促進すれば良い、と言ったのだ。

・・・これが元々クルーグマンが言ったインフレターゲティングだ。将来のインフレ期待(現在の日本円の価値がベストであるという期待)が、ならば額面では同じでも最大価値を持っている今のうちに円を持って(借りて)おこうという活動に繋がり、将来、その活動の加熱によって利子が上がるのであれば、今のうちに(今の固定利子で)借りておいた方が良い、ということになる。

そうすれば、滞留していたお金が動き出し、設備投資も増え、循環すればすればするほど日本経済は改善される・・・と期待された。

・・・そこから時代は過ぎ、日銀は某政権のもと、ゼロ金利の中、お金をどんどん刷って作り出し、インフレを起こそうと異次元緩和政策を続けてきた。あくまで一時的な措置だ。日銀の役割は本来それじゃない。そして一方で、今、ようやっと出口から出るか?という議論がなされている最中だ。逆にいうと、30年かかってその悲願が達成されるか、という話になっている。

ただ、このクルーグマンの指摘の時点から、日銀、つまり経済領域のプロ集団から、この政策に関する話は、政治家、つまり政治領域のプロ集団による話へと変容していった。気がついた時には「インフレを2%起こす」ことが目的化しており、何でも良いからそれを実現しよう、という感じに変容してしまった。

おかしな話だ。確かにクルーグマンも当時説明していた。なぜ流動性の罠に落ちたか、その理由には、これから来る少子高齢化や社会不安という課題が日本の場合にはあったんじゃないかと。それらがある限り、これから縮小していこうとする経済に対して、誰も設備投資しないよね、と。

日本企業の経済の「空洞化」という問題はすでにしてこの時から起きていたのだ。なぜなら、日本は昔から「加工貿易国」であり、輸出産業によって成り立っていたから(自動車とかですね)、縮小する日本という市場に見切りをつけて、日本企業は海外に進出することによって利益の拡大と維持を図ったのだ。

その結果として、日本国内の景気は良くならない。それが、今の日本経済の姿だ。

じゃあ、日本は、どうすれば良いのか? ここからは持論を述べたい。

まず、インフレターゲティングというのは目的であってはならない。その結果起きた何事にも誰も責任を取らなくなるからである。

インフレターゲティングは、手段であってもならない。目的を含めた背景を考慮しなくなるからである。何も考えないところから出てきたインフレには良いインフレもあれば悪いインフレもある。

では、インフレターゲティングとは何であるべきか。ただの結果であるべきである。しかも、日本の将来期待、広がる可能性とそこにみんなで進もうとする意欲と明るい期待が投資を産み、内需を拡大させた結果としての2%でなければならない

つまり、ターゲティングとは名ばかりで、将来の明るい経済を国民が期待して良い2%のインフレが結果としてもたらされた、というだけのことにすぎない。

ここには金融政策も財政政策もない。一番大切なのは、日本の明るい将来を、国民が信じることができる、新しいビジョンであり、具体的な何か(端緒)であり、そのための伝統的な政策である。そして、それが加熱しないように制御できることだ。


さて、それではDXに話を戻そう。いやいや、DXとインフレ目標の話になんの関連性があるかって? ところがあるんですよ。っていうか、共通点を見つけちゃった。

上の話と比較しやすいように、先に僕の考えるDXのあるべき姿を以下に記す:

まず、DXというのは目的であってはならない。その結果起きた何事にも誰も責任を取らなくなるからである。

DXとは、手段であってもならない。DXの目的は「会社が現代に合わせた変革を行うことにより、より良い会社になること」であるが、下手をすると何も考えずにデジタルという言葉に囚われてしまうことで、結果として良い変革と悪い変革のどちらもありうるからである。

では、DXとは何であるべきか。ただの結果であるべきである。しかも、会社の置かれた現状を打破し、より良い会社を作っていこうとする皆の期待と努力による事業の変革プロセスに、たまたま現代にフィットするデジタルという手段が使われただけであり、本質は、事業そのものが変革していくことでより良い会社になったという結果であるべきである。

つまり、デジタルなんてことはどうでもよくて、それより大切なことは会社が良くなっているかどうか、ということにすぎない。

では、事業の変革とは何か。それは、事業の改善を超えて、モノ・ヒト・カネ・情報の4資源を使い方を全く異なる様式に変えた結果、これまでよりも良い事業となることである。

・・・ね? なんかほとんど「インフレターゲティング」という言葉を「DX」に置き換えただけで、ほぼ成り立っちゃってる。

そして、皆さんに恐ろしい指摘を最後にして、この稿を締めくくるとしよう。

インフレターゲティングも、DXも、どちらも、ポジティブな将来への期待や「そうなる、やっていこう」と思えるひとりひとりの気持ちが大前提となって、ようやく成功が見える「結果」だ。だからその、ポジティブな将来ビジョンが必要なのだ。

皆さん、この国の経済についても、自分の会社についても、将来の明るさを信じて、ポジティブな気持ちで、今、いられていますか? 今、僕らは意識を大転換しなければ生き残れない時代に到達したのだと思います。

では今日の話はこれでおしまい。明日も良い1日でありますように!


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