「働く」の時間論11 動的平衡と社会
「働く」時間での「自分のための」時間を取り戻すためのキーワード、二つめは「動的平衡」である。
「動的平衡」とは生物学者の福岡伸一が提唱している生命観である。
こちらのホームページに動的平衡をイメージした動画があるのでぜひ見てほしい。
これは生命の定義というだけでなく、人間の生み出す社会についても同様のことが言えるのではないだろうか。
例えば、ほぼ日に掲載されている糸井重里とエジプト考古学者の河江肖剰のインタビューでは、エジプト文明が長く続いた理由について以下のように考察されていた。
河江はピラミッドを新しく作る際に都の場所まで移動させていた可能性について語っている。一度作り上げた都市を意図的に壊し新しく築き上げることで文明が長続きしたのではないかという。文明を維持するために崩壊を先取りし再構成を行なっていた点で、これは人間社会での動的平衡ではないだろうか。
翻って現代のビジネスでは「今ここにない理想」を追いかけ続ける状態となっている。しかしそれは絶えず崩壊をしながら形を保つ生命のあり方からかけ離れてしまっている。理想の状態を目指すというのは現在に何か瑕瑾を見出して補おうとする行為である。ビジネスではそれが「課題」と呼ばれ、「課題」を解決することがベースとなっている。
人が生きる時間は過去から未来へと流れる果てしない営みの一粒ではないか、ということを「働くの時間論⑨」で書いた。人の生きる社会は流れる時間の中で崩壊と再構築を繰り返しながら形が維持されていくものだとしたら、資本主義の中で絶えず成長が要求されるビジネスの現場は常に発展のみが要求される歪さがある。
「働く」時間を人が生きる本来の時間に戻すためには動的平衡の生命観をビジネスの現場に取り込むことが必要である。
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