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エンプラSaaSにおける「プロフェッショナルサービス」の重要性とその理由

以前の記事で、エンプラSaaSの可能性について取り上げました。

継続してエンプラSaaSのトピックについて記事にしていきたいと思います。今回はエンプラSaaSで重要となる「プロフェッショナルサービス」という概念について取り上げたいと思います。

この記事はアカンバレンタインアドベントカレンダー2024 8日目の記事となります🍫

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「プロフェッショナルサービス」とは

ソフトウェア企業における「プロフェッショナルサービス」とは、ソフトウェア提供に付随して追加提供するサービスのことを指します。具体例としては、カスタマイズ実装や教育・研修支援、製品サポートなどが挙げられます。

数年前までコンサルなどの「プロフェッショナルサービス」は悪であるという思い込みがありました。これは僕だけでなく、少なからずソフトウェアビジネスを行う起業家や投資家も同じ様に考えているケースがあるのではないかと思います。

しかしながら、エンタープライズ向けに事業を展開するソフトウェア企業について知っていくと、この考えは間違っているのかもしれないと思うようになりました。

むしろ、プロフェッショナルサービスをうまく活用することでエンタープライズ市場を開拓し、大きく成長するスタートアップが存在することを認識し、プロフェッショナルサービスの提供は非常に理にかなった戦略であると考えるようになりました。

以降では僕自身がなぜプロフェッショナルサービスが重要だと考えるようになったのかを紹介していければと思います。

「プロフェッショナルサービス」は悪であるという神話

VCによるプロフェッショナルサービスの否定的な考えは 「蔓延した有害なSaaSビジネスモデルの神話」だとVCファンドWildcat Venture Partnersの創設パートナーであるBryan Stolle氏は述べています。

カスタマイズ実装やコンサルのようなプロフェッショナルサービスは質が低い売上とみなされ、スタートアップにおいては望ましいものではないと考えられることは少なくないです。これはSMB向けにソフトウェア事業においてはその通りなのですが、エンタープライズをターゲットにする場合は大きく前提が変わります。

Bryan Stolle氏の記事の中で主要な上場SaaS企業からのデータとして下記が紹介されています。

SaaS Myths (#1) — Great SaaS Companies Don’t Have Professional Services

立ち上げ初期(売上規模$5M想定)では平均して売上の3分の1がプロフェッショナルサービスから構成されています。最も高いWorkdayでは40%。成長段階でも平均して20%を超えているという結果となっています。WorkdayはIPO時でも34%がプロフェッショナルサービスで構成されています。

Earlybird VCのAkash Bajwa氏は「プロフェッショナルサービスが高品質のエンタープライズソフトウェア収益を生み出す」という記事の中で、プロフェッショナルサービスの重要性について、ソフトウェアビジネスを成長させる上で有望なGTM戦略となることを挙げています。

GTM(Go To Market)戦略とは、新製品やサービスを市場に投入するための計画やプロセスのことを指します。この戦略は、製品やサービスをどのようにして顧客に届け、市場で成功を収めるかを定義するものです。

「プロフェッショナルサービス」はエンプラ領域で有効なGTM戦略

プロフェッショナルサービスは非常にしっかりしたシステムをもつエンタープライズ企業への導入と複数年に及ぶリカーリング収益への架け橋として有効に機能すると、Benchmark CapitalのChetan Puttagunta氏はPodcastで言及しています。その際に、有益だと思う2つの事例としてVeevaとWorkdayを取り上げています。

エンタープライズ向けにソフトウェア提供を行う企業をいくつかピックアップして、一定の規模に至ったタイミングでのプロフェッショナルサービスの構成をみていきます。今回はWorkday、Veevaに加えSnowflake、Salesforceを比較します。事業規模で比較したかったため、売上が$1B(約1400億円)を超えた年(=N年に設定)を基準に前後2年の数字を比較しています。

4社を比較すると、WorkdayとVeevaが20%前後でSnowflakeとSalesforceが5-10%の間で推移していました。これは$1Bの売上規模での値を参照しているので、日本円だとWorkdayとVeevaが300億円前後、Snowflake、Salesforceが100億円前後がプロフェッショナルサービスから構成されていることになります。

それではプロフェッショナルサービス割合が高いから成長が遅いのか?というと、売上推移を比べるとSnowflakeの成長が際立ちますが、他3社についてはそこまで大きな乖離を見せているわけでもないです。強いて言えば、プロフェッショナルサービス割合が低かったはずのSalesforceが売上成長率は低めとなっています。(おそらく時代的な影響も多分にありますが)

このようにWorkday、Veevaはエンタープライズ向けで「プロフェッショナルサービス」を有効なGTM戦略として位置づけながら理想的な成長を実現しています。

日本でも「プロフェッショナルサービス」は有効なGTM戦略となるのか?

結論から言えば、「プロフェッショナルサービス」は有効なGTM戦略になると思います。

また前回の記事で日本のソフトウェア市場の9割はSIerの市場であると言及しました。

上記記事とはデータソースが異なるのですが、日本のソフトウェア・ITの市場規模は約15兆円と巨大な市場です。内訳を見ると、市場シェアの9割をSIerで占めています。SaaSはわずか7%です。

しかし、裏を返せばこのSIerの市場を切り崩していくことができれば、SaaSの成長余地は相当に大きいと言えます。SIerの主戦場こそ、エンタープライズをターゲットとする市場です。すなわち、エンタープライズSaaSの成長余地が非常に大きいと考えています。

エンプラSaaSの可能性、日本の10兆円超えのエンタープライズソフトウェア市場
日本のソフトウェア・ITの市場

従業員1000人以上の企業を対象とする調査で、DXを狙う企業の62.6%は「SIerが不可欠」だと明らかになっています。

さらに言うと、外資系ソフトウェアの直販とパートナーセールスの比率という観点でも日本はパートナーセールス(主にSIer)の比率が高いと言われており、UB Venturesの記事によると、Zoomの例ではアメリカで10%のパートナーセールス割合が日本だと70%であると言及されています。

System Integrators – the Key to Success for SaaS in Japan

このように日本の9割を占めるエンプラ向けの市場は単純なソフトウェア提供のみではなく、プロフェッショナルサービスをあわせて提供することに慣れており、より一層プロフェッショナルサービスを組み合わせたGTMが求められる環境であると言えます。

おわりに

「プロフェッショナルサービス」は日本のエンタープライズ向けの市場攻略において重要なピースになると考えています。今回は特に言及していませんがDXやデータ利活用文脈のスタートアップではアクセンチュアのように戦略部分をIT部分の販促費として扱うような市場開拓が今後増えていくのではないかなと思っています。

またエンタープライズ領域に関するテーマが好評であれば、次回以降では実際にどのような戦略で市場開拓を行っているのかやプロフェッショナルサービスの比率を下げていくためのプラットフォーム戦略などのテーマを取り扱っていければと思います。ぜひ、いいねやX(Twitter)等でシェアいただけますと幸いです。

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