エンプラSaaSの可能性、日本の10兆円超えのエンタープライズソフトウェア市場
先日、ALL STAR SAAS FUNDの2024年のSaaS業界「5大トレンド」の予想が実施されていました。その中でSaaS企業の変化として「エンタープライズシフト」が紹介されました。エンタープライズシフトとは、これまでSMBが中心だったSaaS企業がより市場と予算が大きい大企業(エンタープライズ)を狙う動きを指します。
SMBを席巻してエンタープライズ領域に切り込んでいくというのは、とても綺麗なストーリーです。しかし、個人的には多くの場合この戦略は非常に困難が伴うと思っています。なぜなら、SMB向けソフトウェア事業とエンタープライズ向けソフトウェア事業はビジネスモデルが異なるものであるからです。結局のところ、このストーリーを成功させるというのはゼロからエンタープライズ向けの事業を立ち上げるようなものとなると思います。
いちプレイヤーとしてエンタープライズ向けのソフトウェア事業に取り組む中で感じていることは、残念ながら国内におけるエンタープライズ向けのソフトウェア企業の情報は少ないということ。そのため色々な方法で情報をかき集めながら事業の構築を進めてきました。一番良かったアクションは、ベンチマーク企業の経験者に聞きたいことを根掘り葉掘りヒアリングすることでした。
こうした情報収集や実際の事業展開を通して、実感をもって「国内のエンタープライズソフトウェアの領域は相当熱い」と僕自身は考えています。そう思うに至った理由を書いていきます。
なぜ、エンタープライズSaaSなのか?
冒頭紹介したトレンド予想の記事で、ALL STAR SAAS FUNDの湊さんもエンタープライズ攻略を行う理由を以下のように述べていました。
上記記事とはデータソースが異なるのですが、日本のソフトウェア・ITの市場規模は約15兆円と巨大な市場です。内訳を見ると、市場シェアの9割をSIerで占めています。SaaSはわずか7%です。
しかし、裏を返せばこのSIerの市場を切り崩していくことができれば、SaaSの成長余地は相当に大きいと言えます。SIerの主戦場こそ、エンタープライズをターゲットとする市場です。すなわち、エンタープライズSaaSの成長余地が非常に大きいと考えています。
エンタープライズ vs SMB、顧客単価は10倍以上?
エンタープライズ攻略が進めば、大きな市場アクセスの可能性があることを述べました。では、具体的にエンタープライズとSMBではビジネスがどのように違うのでしょうか。
まず大きな違いは単価です。日本の大手企業は約1.2万社で、全体の0.3%しか存在しません。「(売上)=(顧客数)✕(単価)」なので、ターゲットを限定しつつ、売上を最大化するためには単価を高める必要があります。
エンタープライズ攻略を推進するベンチマークとして、今回はALL STAR SAAS FUNDでも紹介されていたSnowflakeとTreasure Dataを取り上げたいと思います。
↓下記2記事は本当に神記事なのでぜひ読んでください
まず、SnowflakeですがFY2023の平均顧客単価は約3700万円でした。ただし、IR資料の中で単価が$1M+(1.4億円相当)の企業数をKPIとして示している点からも平均単価を高めていこうとするスタンスが伺えます。
*1USD=140円で換算
Treasure Dataについては、非上場なのでIR情報は開示されていません。しかし現CEOの太田さんが2022年6月にPIVOTのインタビューで売上規模と顧客数について言及していたのでこちらを参考に算出します。上記のインタビューによると、Treasure Dataの売上規模は150億円のARRであり、約450社のクライアントが存在するとのこと。つまり、平均顧客単価は3300万円と算出できます。
さらに面白いポイントがあります。Snowflake、Treasure Dataは共に米国の会社であり日本では参考にならないと思われるかもしれません。しかしながら両社とも日本は非常に重要な市場となっています。
先程のインタビューでTreasure Data CEOは約半分が日本市場のレベニューで構成されていると述べています。また、今年Snowflake CEOが来日した際のインタビューでは「日本は米国に次ぐ2番目の市場」と言及されています。
その他、エンタープライズソフトウェア領域っぽいなと思いながら調査していた企業をいくつか取り上げると、SHIFTの顧客単価は5359万、PKSHA TECHNOLOGYのAI SaaS事業の上位50社は3500万円、エクサウィザーズのAIプラットフォームは3300万円と、近い単価感になっていました。
ただし一点留意しておくと上記はあくまで平均単価であり、SnowflakeのKPIで$1M+の顧客を追っているように実際はかなり分散が大きいと思います。
前田ヒロさんのブログで北米SaaS企業37社の上場時のACV(一顧客あたりの年間平均単価)の中央値は約200万円($14,449)と紹介されていたことからも分かるように、上記群の単価は10倍以上のかなり高い値となっています。ブログの中ではVeeva Systems (ACV $762K、約1億円)、WorkDay, Inc(ACV $612K、約8600万円)などが高単価に位置していました。
いちプレイヤー視点で実際どうなのか?
実はAcompanyも結果的に主要クライアント群の単価規模は同等以上となっており、上記のエンタープライズソフトウェアの単価感についてはかなり納得感があります。
なぜ10倍もの単価差になるのかというと、SMB向けでは単価がそこまで大きくなく、導入ライセンス数を伸ばしていくビジネスとなるため個別のカスタマイズを許容する余裕はありません。他方で、エンタープライズの場合は予算が上がってでもプロフェッショナルサービス(大抵の場合はコンサルとカスタマイズ開発)のニーズがあり、これに対応できないと導入は難しいです。
したがって、プロフェッショナルサービスに関連した費用と、エンタープライズ要件に耐えられる(SMB向けと比較して)機能リッチなサービスを提供することとなり、単価の違いに表れていると思います。
国内では比較的数少ないエンタープライズ向けのスタートアップだと認識する10Xの矢本 CEOは「SIerとパッケージベンダーの中間に勝ち筋はあるか / ハードシングみのある話を聞きたい」というPodcast回で、「エンタプライズ向けの業務を複数社に提供しようとすると、必ずSIとパッケージベンダーとSaaSの中間のところに事業が位置づけられていると思っている。Stailerもそう。混ざった中間点に答えがあると思っている。」と述べており、完全に同じ感想を持っています。
エンプラ向けのソフトウェア事業はステークホルダーが多かったり、予算のタイミングの兼ね合いなどでリードタイムが長い。会社規模が巨大なため社内チャンピオン等のキーマン発見が難しい。要件が厳しく、対応難易度が高い。といった難しさを日々痛感していますが、意思決定のロジックがクリアであったり、前述のように単価が大きい、キーマン層の認知が取れはじめると強力な優位性になる、そして何より市場規模の大きさといったメリットを感じています。
いちプレイヤーとして実感をもって「国内のエンタープライズソフトウェアの領域は相当熱い」と考えています。
おわりに
近年はスタートアップが非常に注目されている状況もあり、比較的ライトな領域は相当埋まってきているように思います。その中で、エンタープライズソフトウェアの領域はチャンスに溢れており、冒頭のトレンド予想と同様に今後かなりホットな領域となっていくと思います。
もしエンタープライズソフトウェア領域に関するテーマが好評であれば、エンプラで肝となるプロフェッショナルサービスについて、売上に占める割合や実際にどのような戦略でエンプラSaaSを立ち上げているのかなどを次回以降の記事で紹介したいと思います。ぜひ、いいねやX等でシェアいただけますと幸いです。
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