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『天才はあきらめた』第4章〜を読んで


ネタバレ含みます。

第1章〜3章の感想を書いた日から、結構経ってしまったが、やっと読み終えたので、感想を書いていく。




ここまで本を読んでいて腹を立てたことがあっただろうか、そう振り返らさせられるような本だった。


この本の作者の山里という人物は、俺にはあまり理解できないタイプの人間なのかもしれない。周りに迷惑をかけ、そのことときちんと向き合わないこの男の『ハリボテの自信』は、自分には気色悪く見えて、罵りたい衝動に駆られた。


読み進めていくと、実際この男は、多くの人に罵られたり、バカにされたりしていることがわかる。そしてそのことへの復讐心をエネルギーとして、自分は進んできた、と作者はするのだが、復讐を誓うよりも前にまず自分の身に起こることを謙虚に受け止めてほしい、と思う。


なんだか同じようなことを、両親に対しても思っていた時期があった。「誠実に生きてほしい」と伝えると、「誰もが誠実に生きられるわけではない」という言葉が返ってきた。

当時の俺は、この言葉が卑劣な開き直りの文句のように聞こえて、まるで納得がいかなかったのだが、今は少し違った見方もできるようになったかな、と思う。


「私ができるのだから、あなたもできるでしょう」と言わないのが、「知性」だと今は思える。原理的に可能だからといって、生まれ持った特性もこれまでの歩みも違う他者に、それを押し付けても何も始まらないし、つまらない、と思えるようになり、納得感を演出しやすくなったかもしれない。


さて、この明らかに「クズ」に見える男の文章を読んでいると、コンビを組んでいるしずちゃんのことが憐れに思えてきた。確かプロレスとかもやっている人だったような気がするが、いわゆる「優しい人」で、和を保とうとして真実が言えず、この山里から多大な迷惑を被っているのではないだろうか、という気がした。


前の記事にも書いたが、こんな男も、周りの人間に恵まれる。「ちゃんとしたいい人」っぽい有名な先輩芸能人から可愛がられたりしている。周りの人間に生かされているのだ。罵られたり、バカにされたりしていることと、対照的である。


つまり、「いっぱい好かれたり、嫌われたりしている」のだ。なんて人間臭い生き方だろう、と思う。なんだかそんな生き様は、しんどいことも多いだろうが、寂しさとは無縁のように見えて、少し羨ましくも感じる。


誰がなんと言おうと、俺はこの人は「キモチワルい人」だと思う。それは、無理して頑張り続けているから。今の自分を受け入れ、自分で認めることができないから。


これは「誰もがなんとかすべきこと」のように俺は思っていたけど、それがどうにも出来ない人もいるのかもしれない、とこの本を読んでいて思えた。どうしても、自分が分からない、自信が持てない、という人も、いるのだなと思った。


最後は、「天才にはなれなかったが、少し今の自分を受け入れることができるようになったかもしれない」的なことが書かれて締められていた。芸人として実績を出せて、他人から認められるための客観的な何か、を持てたことも大きいのかもしれない。そこで、ちゃんと夢を終わらせてほしい。『ハナミズキ』のサビが聞こえる。


解説(?)はオードリーの若林が書いていた。この男も、山里に匹敵するぐらいめんどくさそうな男に見える。そして同族嫌悪なのだろうか、やたらと山里のことを敵視するような内容が書かれていた。

それ自体は、パフォーマンスのように見えたが、山里のことを褒めている部分もいくつか見られて、それが興味深かった。


まず、山里は天才である、としていた。これは、山里の自己認識とは真逆の見方である。同じ人間のことでも、見る角度によって見え方がこんなにも変わるのか、と思った。ちなみに、俺は若林の見方の方が正確なのではないかと思っている。山里は、あまり自分のことを客観視できるようなタイプではないように見えるので、他人から見た評価の方がまとを得ているのではないかと思う。


それと、「プライド」のことについても言及していた。「自分にあるプライドが、彼にはない」と。「傷を曝け出すことができる人間だ」と。


これは確かにそうなのかもしれない、と思った。あと、若林の文章も、かなり自分の弱みを曝け出しているようにも見えた。こういう芸人の「肚の見せっぷり」は、参考にすべきかもしれないと思った。だからといって、別に卑屈になったりする必要もない。ただ「今の自分を出来るだけ見せる」だけでいいのだ。





さて、色々書いてきたが、正直俺にとってはこういう人間は害悪だと思う。本を読んでいる分にはまだ笑えるが、実際こういう奴に出くわしたら、なんとかして距離を取るべきだと思う。自分のためにも、自分の大事な人のためにも。


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