JR北海道の退職者激増ニュースから見える、労働市場の今と未来について
2023年4月3日付の報道で、JR北海道の自己都合退職者が激増したと報じられました。簡単に概要を説明すると、社員数6,000人強のJR北海道で、自己都合の退職者が2022年度は過去最高の232人に達しました。2011年度は19人だったのが2016年度には100人を突破。年々増加傾向にあるとのことです。
自己都合で、全体の3%程度が退職、これに定年退職が加わるので退職率は6~7%に達すると思われます。数年前からJR北海道は採用難に陥っており、昨年には約20年ぶりにベースアップを行ったくらいなので、この退職数は甚大な影響だと思います。この報道、JR北海道の退職者が増えたことが何を意味するのかを今回は解説します。
そもそも報道になるようなことなのか?
まずはこの点から話していきましょう。今回の事態が、なぜ報道になるようなことなのか。以下の2点がポイントです。
①地方の独占的優良企業で大量離職が始まった
②地方インフラの維持が困難になってきた
①について、関東、関西の方にはなかなかピンとこないかもしれません。地方においては、JRは地元を代表する企業です。特に北海道の場合は大手私鉄がないため、大手鉄道企業はJR北海道と、札幌の地下鉄や市電を運行する札幌市営交通だけです。
また北海道には地元の大企業も多くはありません。そのため、JR北海道に就職するということは、一つのステータスであり、「成功」でもあるわけです。また同規模、同条件の転職先が少ない北海道では、大手企業から転職することも少ない地域です。つまり、その地域で圧倒的に採用力、定着力を持っていた企業の凋落が始まったということです。
②は、こうした大量離職、採用難の結果、今後は事業の継続困難、質の低下が始まることが予想されるためです。豪雪時には運休が多くなったり、信号トラブルが増えたり、と少しずつ不便になっていき、最終的には事故を防ぐため、路線や運行本数の減少に繋がっていくでしょう。
私の以前の記事でも書きましたが、ついに地方のインフラ維持が困難になり始めたと言って過言ではないと思います。
企業は定着力を競争する時代に突入した
最近、大手企業の課題は「採用」ではなく「定着」に移ってきています。日本の場合、新卒一括採用であるため、ある種の椅子取りゲームになっています。つまり、とりあえず、どこかの椅子(企業)に座る(就職する)必要があるのです。そのため、ある程度の採用力を持つ企業は、ある程度の人員を確保することができます。
今回のように大量離職するということは、大量に採用できてもいるということです。なので、JR北海道は採用力はある企業であり、人員確保をできているということが言えます。しかし、昨今、その採用した人材を定着させることができない企業が増えてきました。
これは日本企業には由々しき問題です。
というのも、日本企業は新卒という「ど素人、もしくは学校や大学で知識だけ得てきた未知数人材」を採用し、一から仕事のスキル、企業文化、社会人マナーまで教えて、戦力として育ててきました。
一般的に、3年間は教育や人件費などのコストのほうが高く、4年目~5年目はトントン、6年目以降から回収が始まると言われています。回収にかかる時間は平均的に、3年程度はかかります。回収したころには10年目くらいで管理職候補になっているので、これまた辞められたら困ります。
つまり、新卒一括採用を行う日本企業においては、辞められることは損でしかないのです。そのため、教育コストのほとんどかからない中途採用を活発に行う企業も増えてきていますが、こちらも定着力がカギになります。
彼らは、今いる職場よりも居心地がいいか、やりがいを感じられるか、待遇がいいか、将来的な安定があるかを見ています。ある種、新卒社員以上に、定着力が問われるのです。
ブランドをはき違える企業、知名度に固執する企業、「定着を考えない企業」のこれから
今もなお、まだまだ定着よりも、採用を強化しようとする企業は多いです。はっきり言ってしまえば、定着力を強化すれば、自然と採用力も上がります。しかし、定着力を上げるということは、それだけ「労働者に寄り添う」ことになります。
これを「社員を甘やかせることになる」、「なぜ社員に媚びないといけない」と反応する経営層、人事幹部は少なくありません。
そういった企業は、従来のブランド力を上げる、知名度を上げる方法を実施しています。しかし、普通の商品と同じように、いくらブランドの洋服でも着心地が悪ければ誰も着ません。知名度があっても、良い品でなければ誰も買いませんし、使い続けません。
これから定着を考えない企業は、どんどんと淘汰されていくでしょう。そして、我々労働者側も生き残っていく企業に必要とされるようにスキルアップを図らないといけません。
今後もこういった人事系の記事を掲載してまいります。
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