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"住まい"の定義とワイングラス

旅先で必ず尋ねられる"あの"質問について

旅先に出向くと、地域の住民から「どちらから?」と必ず尋ねられる。素直に「東京から」と答えられるといいのだが、多拠点生活を続ける身にとって、正直答えに苦慮する質問だ。

確かに、私の住民票は東京都にあるが、月に一週間いるかいないか、家だけあるようなもので、僕の住まいが東京にあるとは言い難い。心の住まいは、今も故郷・長崎にあるとは感じているし、旅の出発点が、そもそも東京でも長崎でもないこともザラにある。

東京を出発して奈良にしばらく滞在し、京都から特急・サンダーバードに乗って金沢に到着、能登の温泉まで行った際、地域の方からいただいた「どちらから?」のいつもの問いに思わず「京都です」と答えてしまった。予想以上に「京都」をネタに盛り上がってしまい、取り繕いに一層苦労した。よりによって京都という街の名を迂闊に出した僕が間違いだった。

住民票のある場所が、「住まい」ではない時代

どこに「住んで」いるのか。絶対的な「住まいの証明」として成立するはずの「住民票」は、事実だとしても、真実ではないという、令和の複住時代を迎えている。住まいの定義は十人十色、一人ひとり違いがある。

とある多拠点居住者は「同じ服を洗濯して2回目のローテーションが始まったら」その場所を住まいと感じるそうで、同時多発的に「住まい」を感じる土地があると言っていた。とあるフランス人は「ワイングラスを買おうと思った場所」と答えた。土産にするにしたって抵抗のあるガラス製品を自分のために買い、その地で買ったワインを自分のグラスで飲みたいと思った場所、そこが「住まい」だと。これはまた、悔しいくらいに粋な答えだ。

複住スタイル』を手に取った方は、誌面を通じて地域の多様な魅力に触れ、次の住まいを選ぶのにむしろ苦労しているかもしれない。或いは「この街かな」と決まりつつある方も「ここでいいのか」迷っているかもしれない。そういう時に、自身ならではの「住まいの定義」を持っておくといい。

「ワイングラスを買おう」と思えるくらいに安心できる場所か?美味しいワインを知るのに信頼足りえるワインプロフェッショナルがいるか?ワインを一緒に飲んでくれる仲間やパートナーがいるか?一人ひとりの「住まい」を感じる定義を持つことで、自身が大切にしている価値がクリアになり、間違いのない次の住まいの選択肢に辿り着きやすくなる。こうして住まいへのこだわりを大切に育めると確信した場所は、きっと「ここが住まいだ」と胸を張って言える場所になるだろう。

そもそも、人生そのものが「旅」と比喩されることがある(journey of life)。すべての「住まい」は人生という旅の"休憩所"でしかないという考え方だ。こうなると、ここまで語ってきた旅先と、住まいの境目を考えること自体、意味をなさないのかもしれない。読み手の皆さんにとっての「住まい」の定義、大喜利のように、酒の肴にして語ってみてほしい。

向かう旅先から、帰る旅先へ

多拠点居住を続けて4年目を迎え、津々浦々と訪れ続けた身にとって、次の旅先に求めるものは「おかえりなさい」と言ってくれる人がいる土地になってきた。「向かう」旅先から「帰る」旅先へ。帰った旅先に、僕の「住まい」がある。

この投稿は『複住スタイル vol.5』に寄稿したものと同じ内容です


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