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謎は、これからも続いていく。「またね」と言って ――倉知淳『ほうかご探偵隊』(創元推理文庫)感想

※敬称略

 小学五年生の藤原高時が、朝、教室に入ると、自分の机にもう要らなくなって教室に放置していたはずのたて笛が、真ん中部分のみ無い状態で立て置かれていた。このクラスでは先週から、要らない物が次々と消える〈不用物連続消失事件〉が起こっていて、高時は自分が四番目の被害者になってしまったことを知る。クラスの雰囲気や消失した物から〈いじめ〉とも考えづらく、不可解さばかりが際立つ事件になっていた。生徒の描いた絵、人気のないニワトリ、クラスから大不評の招き猫型の募金箱、そして授業ではもう使わないたて笛の一部。一体、誰が何のために。高時は探偵小説好きの友人である龍之介くんとともに聞き込みをすることに。

 さぁ探偵活動のはじまりだ。

 同じく被害者のひとりでニワトリの飼育係の成見沢、しっかり者の学級委員の(高時が、ちょっといいな、と思っている)吉野という二人も加わって〈不用物連続消失事件〉の謎を追っていくうちに、意外な真実が明らかになっていく……。


 ということで今回紹介するのは、倉知淳『ほうかご探偵隊』。

 久し振りに再読してきました。元々は「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」を合い言葉にして、立ち上げられた児童向けミステリのレーベルから発刊された一冊で、

 解説の川出正樹は、

入門編として最適で、マニアも唸ること必至

 と書いていますが、私自身はマニアを名乗れるレベルの人間ではないので、マニアにとってどうかは分かりませんが、すくなくとも私が、普段ミステリを読まなくて何か読みたい、と探しているひとに何かひとつ挙げてくれ、と言われたら、間違いなくこの一冊は頭に浮かぶと思います。

 何が良いのか、というと、それまで違和感を覚えていた部分が読み進めていくうちに、意味があったのだ、と気付かされて、書かれる文章に不用意な感じを覚えないのが、まず魅力的で、作品自体は不用物消失の謎を追っていく物語なのですが、ミステリとしては書かれた言葉ひとつひとつ、そこに要らないものなんて何もない、と思ってしまうほど、計算し尽されていて、解決篇以降には思わず感嘆のため息が出てしまうような驚きが待っています。

 ミステリに直結する部分に限らず、たとえば物語が始まってすぐに生き物のニワトリが不用なものとして扱われていることに思わず違和感を抱いてしまうわけですが、その後に吉野との口論があったりして、そうだよなぁ、って腑に落ちる。そう言う、傾げていた首を自然に頷きに持っていかされる感覚が多くて、とても心地いいんですね。

 もうひとつ解説を引くと、

この『ほうかご探偵隊』に限らず、倉知淳が書くミステリは、どれもとてもオーソドックスだ。驚天動地の大トリックを用いたり、(中略)判りやすくて即効性のある飛び道具とは無縁といっていい。にもかかわらず驚かされる。しかも、その驚きというのが「確かにびっくりしたけれど、そんなの判りっこないよ!」じゃなくって、「うわっ、何で気づかなかったんだろう。やられた!!」といったタイプのものなのだ。

 と書かれています。そして作中の後半の龍之介くんの台詞に、叔父さんの受け売りなる言葉が出てきて、これもまたこの作品のミステリの面白さそのものを表していて、とても魅力的な言葉です。ラストのほうの台詞なので、引用はしません。ぜひ読んでもらいたいので。

 非日常的な世界を描いた最初から見たこともないような物語もとても好きではあるのですが、普段見慣れたもの、どこにでもあるようなものに、別の視点を加えた時、新たな世界が広がっていく物語には、それとは別種の、大きな魅力があるように思います。

 大好きだ。

 そして、それはひとつの謎が解けても、謎めいた世界はこれからも続いていく、ということでもある。

 謎がある限り、お別れの言葉なんていらない。

「またね」とつねに再会の約束ができるなんて、とても嬉しい。


 じゃあ、またね。バイバイ。

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