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澪つくし美食部 「手打ち蕎麦 星(日本橋)」2022.04.19

(3分ほどでサクッと読めるくいだおれ食コラムです)

何度も食べたくなる店には、それだけの魅力がある。
出される料理が美味いということは当然あるのだけれど、それ以外にその店が醸し出す「空気」というものを気に入ると、自然と、何度となく通うようになる。
僕はそれを「ええ”気”を持った店」と呼ぶ。

ミナミで美味い蕎麦を食いたいと言われたら、間違いなく「手打ち蕎麦 星(あかり)」を案内する。
観光ガイドブックに載るような「ザ・大阪」を象徴する道頓堀ストリートをそのまま東にしばらく歩き、居酒屋やアジア食料品店が立ち並ぶところにその店はある。
小さい入口を入ると、L字型のカウンターとこじんまりとしたテーブル席が3つで構成された店内となるが、カウンター席の半分は、一升瓶などが置かれていて、実質は8席くらいで満員といったところだ。

メニューはいつも不動だ。
冷やしは、「ざる」、「なめこおろし」、「鴨汁ざる」、「天ざる」、「上天ざる」の5つで、温かいものは、「きつね」、「鴨南蛮」、「天ぷら」という構成。かれこれもう7年くらい通っているが、ずっとこれで突き通されている。
僕の場合、冬には「鴨南蛮」、夏には「なめこおろし」を食べたくなって訪れるのが定番で、時に酒と一緒に「だし巻き」あるいは「天ぷら盛」と頼むといった具合だ。酒の揃いも、大方一緒。飲み方は冷やで、升の中にグラスを入れて溢れるようについでくれる。

料理が出されるまでは、マスターが蕎麦を仕上げる音を楽しむ。
鴨やネギを焼く音、天ぷらを揚げる音、蕎麦を水で〆る音。これらもすべていつも同じように厨房から聞こえてくる。ことこの店に関しては、この「いつもと同じ」が心地いい。調理の音を聞きながら、店の窓から見える川向かいの雑居ビル群とその看板、そして、川沿いを歩いたり、たむろしている人々を眺めるのが、この店での過ごし方だ。

決して広いとは言えない店だが、常に繁盛していて、客層も様々だ。
評判を聞いてやってきたと思われる初めての人、僕のように定期的に訪れる人、近くの店で働いている昼休みの人、水商売系のお兄さん/お姉さんなど。場所柄、一時期は外国人観光客まで多く訪れていた。
そんな懐の深い店だが、とりわけ近隣の飲食店やミナミを活動の場としている「常連客」がしっかりと定着しているようで、これもまた場所柄、「外からの一回限りの客」が大半を占めがちであるミナミ、道頓堀の食べ物屋の中で、「生活の香り」「街の息づかい」が感じられることが、この店の「ええ気」の源なのかもしれない。

ミナミの街で暮らす人とミナミを訪れる人を受け入れながら、忙しく蕎麦をこしらえ、そして、違わずみんなが「美味い!」と納得しながらその蕎麦をすする光景。そういったもので構成されているこの店は、やはりミナミの「ええ気」を持った店なのだと思う。

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