見出し画像

牧場の明日をつくる、採用と育成

言うまでもなく、競馬業界は深刻な人材不足である。

この数年セリなどの市況がいいこともあり、一定の数スタッフがいるところは、どの牧場に聞いても「人が足りない」「いい人いない?」と言っている。
少し名のあるところや、最近活躍馬が出たところだと、「応募は来るんだけど、途中でパタッと連絡が途絶えてしまう」「入社しても、続かないんだわ」と。

たいした採用活動をしなくても、引き合いがある。つまり、競馬の魅力にハマって、それを仕事にしたいと言う人は、僕も含めて昔からそれなりにいるんです。ありがたい。

ただ、そこに甘えてたんですよね、われわれ中の人が。

ひと昔前なら、「競馬が好きで好きで仕方ない」「自発的に調べて、動いて、門を叩く」ような人が、たくさんいたんだと思う。
そういう人たちに「先輩の背中を見て学べ」「ついてこれるやつだけ残ればいい」と職人気質な接し方をして、残ったのがいまの中堅以上のみなさんではないだろうか。

そうすると、後輩が入ってきても、同じ育て方しかできなくなっちゃう。これは、彼ら彼女らが悪いんじゃなくて、構造の問題。高校野球の強豪校じゃないけれど、1年生のときは奴隷みたいな生活に耐えてきたんだから、3年になったら好き勝手やるんだと思ってしまうのが近いのかもしれない。そこで桑田さん(Mattのパパね)みたいに振る舞える人は、やはり少数だ。

でもいまは、「うーん、いろんな選択肢があるんだけど、せっかくならちょっと好きな競馬を仕事にしてみてもいいかな」くらいの人に、「競馬の仕事って面白いよ!」って魅力を伝えて来てもらう時代。

だから、求人に応募してくれたとして、やり取りのメールや電話の印象から危機感を察知したら辞退してしまう人もいる(もちろん、候補者側がなんの連絡もなくやりとりを途絶えさせるのがいいこととは思わないよ)。入社しても「やっぱりこれじゃなかった」と思われたら、すぐ他の道に移っちゃう(これも、夜逃げのように辞めるのも決して良い辞め方とは捉えていない)。

もちろん、それでも優秀な人は勝手に育つよ。でも、丁寧に教えてあげて、育つ環境をつくってあげることで、初めてそのポテンシャルを開花させるケースが大半だ。

最初はなにもできなくて当たり前じゃないですか。それは専門的な仕事に限らず、ほうれんそうとか仕事で必要な挨拶とかベーシックなことだってそう。もし最初からできる人がほしいんだったら、そういう人が積極的に来たいと思える環境を作るしかない。人が必要で、この人ならできる(かも)と思って採ったなら、できるようになると信じて、コミュニケーションしていくしかないよね。

働く人のことを「従業員」とか「うちの(若いの)」って呼び、仕事を「やらせる」って言う経営者が多いけど、もはやそんな関係では成立しない。
ここを理解してもらうのは、本当に大変。
採用ってお金も時間もかかるし、育成はそれ以上にパワーがかかる。でも、ちょっと外に目を向ければ、みんなやってるんですよ。「競馬業界は特殊だから」で片付ける人が多いけど、そこに逃げている場合ではない。いろんな業界と比べて選んでもらうんだから、相対的な比較も大切。近いところでも、同じ北海道で、酪農系の会社なんかはかなり採用に力入れてる。そういうのも、勉強していかないと。

馬を扱うことが専門職であるのと同様に、採用やPR、人材の育成などのバックオフィスも専門化がものすごい勢いで進んでいる。せっかく馬のことをよく知っている人がいるのに、バックオフィスをないがしろにすると、馬に集中できない状況になってしまう。もったいなくないですか。
経営者がしっかりと状況を把握し、人に向き合う採用や育成に変化することで、馬に全力で向き合える環境を作ることができるんです。

うちも、数年前から新卒採用を本格的にスタートしている。未経験でももちろんOK。まだ理想にはほど遠いけど、教える側も教わる側も、みんな一生懸命頑張っている。
中途採用も、”競馬業界だから”というハンデをもらわなくても選んでもらえるような業務内容・待遇になるように意識して取り組んでいる。そうやって、この1−2年で、それなりの数の人が入社してくれて、採るほうも入社したほうも試行錯誤しながら前に進んでいる。
僕が入社したときと比べたら、ちょっとずつだけど、人に対する考え方とか、雰囲気も変わってきている手応えはある。

とはいえ、ひとつの牧場だけじゃなく、業界としてみんなでちょっとずつ変わっていかないといけないのは間違いない。僕にできることがあるならなんでもやっていきたいし、採用とかPRとかであれば多少は役に立てると思う。
馬のことは先輩方から教えてもらうばっかりだけど、お互いを尊重しながら、ちょっとずつ良い業界にしていけたら牧場の明日は拓けるし、こんなうれしいことはありません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?