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#ショートショート

〈掌編小説〉 『鯨』

〈掌編小説〉 『鯨』

「僕、実は鯨なんです」
 最近よく顔を見るようになった男はそう言った。私が働いている定食屋でいつも唐揚げ定食を食べている。27歳の私と歳の近そうな男だ。
「わざわざ大海原から遥々いつもありがとうございます」
「いえ、海と比べたら陸なんて大した広さではないので」
「それでも泳ぐよりは遠いでしょう」
「この2本足というのが面倒で」
「いつもはヒレですもんね」
「そうではなくて、4本あるんだったら4本使

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〈掌編小説〉夢で会いたい

〈掌編小説〉夢で会いたい

 春を迎えた朝に私は夢を見た。

 夢の中で繰り返し何度も会う人がいる。その人はどこか現実の誰かに似ていて、それが誰なのかは私にも分からない。

 夢の中のあの人は私の恋人らしくて、でも名前も知らないし、夢で会うたびに幸せな気持ちになるけれど彼と私はどんなふうに出会ったのか知らない。

 夢の中で何度も彼と会う。カフェでデートもするし同じベッドで寝ることもある。そのたびに私は幸せに起こされる。

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