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〈掌編小説〉夢で会いたい

 春を迎えた朝に私は夢を見た。

 夢の中で繰り返し何度も会う人がいる。その人はどこか現実の誰かに似ていて、それが誰なのかは私にも分からない。

 夢の中のあの人は私の恋人らしくて、でも名前も知らないし、夢で会うたびに幸せな気持ちになるけれど彼と私はどんなふうに出会ったのか知らない。

 夢の中で何度も彼と会う。カフェでデートもするし同じベッドで寝ることもある。そのたびに私は幸せに起こされる。

 目が覚めると隣には彼が寝ている。現実のほうの彼だ。現実の彼の名前は知っているし出会った理由も分かっている。

 でもなぜか私は夢で会う彼ほど現実の彼に幸せを感じない。夢の中の彼とキスをすると幸せが私の中ではじけて、もっと愛してほしいと思うと目が覚める。

 私は夢の中にいる行方の知れない彼に恋している。たまに夢に出てきては私を幸せにして去っていく。

 彼にこのことを話してみようと思ったけれど、なんだか浮気を打ち明けるみたいで嫌だった。夢の中で私は彼の隣で別の男に愛されていた。

 現実の彼が夢の中の彼のように私を愛してくれたならば、私は夢の中で彼に会ったって彼を求めたりはしないと思う。

 夜、眠る時に彼に会えないかと頭のどこかで思ってしまう。夢で会いたい。夢でしか会えない彼が私をいちばん愛してくれるから。


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