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初めての翻訳

 歳とってやっちゃいけないことは「説教」と「昔話」と「自慢話」らしいが、今回は初めて翻訳した本についての昔話。

 初めて翻訳に参加したのは『WM臨床研修サバイバルガイド 外来診療』だった。”WM”とは”Washington Manual”のことで、あの有名なワシントンマニュアルシリーズの1冊である。原著タイトルは”The Washington Manual Outpatient Medicine Survival Guide”。

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 監訳の野口善令先生からお誘いをいただき、当時米国で呼吸器内科・集中治療科のフェローをしていた私は、呼吸器内科と精神科の2章を担当した。「精神科と呼吸器内科って、全然違う分野やないか!」と思われるかもしれない。確かに求められる知識は全く異なるのだが、英語では精神科は”Psychiatry”、呼吸器内科は”Pulmonary”で本の中では隣同士の章なのである。という理由で、まぁこの2章を担当した。

 今思うとそうそうたるメンバーが参加しておりなんとも貴重な機会であった。

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 さてさて、思い返してみると、最初の『WM臨床研修サバイバルガイド 外来診療』での私の翻訳は翻訳調というよりはどうも英文解釈調であったような気がする。以前に、翻訳はただ訳せばよいというものではない、という話をしたが、まさにそんな感じの訳だったのではないだろうか。

 もちろん、そのままの内容で本になるほど甘くはなく、監訳の野口先生がきっちりみっちりわかりやすく直してくださって最終原稿となった。その当時は、最終稿を見て、「なんでこんなに変更するんだ!」などとクソ生意気に感じたように記憶しているが、思い返すと恥ずかしいばかりである。野口先生、スミマセン。

 柴田元幸氏の『翻訳教室』の中で、村上春樹氏は

やればやるほど技術っていうのは上がっていく。自分のなかの英語力とか翻訳技術とか。そうするともっともっと訳したくなるんですよ。やればやるほどやりたくなる。おもしろくなってくる。

と語っている。「やればやるほどやりたくなる。おもしろくなってくる。」の境地にはまだ達していないが、少しはわかりやすく翻訳できるようになっていないだろうかとひそかに期待している。