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自分的翻訳作業の手順

フレームワークで考える内科診断』では監訳がメインとはいえ、まったく受け持ちがないわけではなく、最初の数章と最後の数章は自分で受け持つことに。というわけで、他の翻訳者が決まるのを待たず、チビチビとゴリゴリと翻訳していく。

翻訳は英文解釈とは異なるので、ただ訳せばよいというものでもない。翻訳家の越前敏弥さんは著書『翻訳百景』の中で、

「翻訳って、ただ訳すだけじゃだめなの?」  
この質問は、たとえば「野球って、ただバットを振るだけじゃだめなの?」「サッカーって、ただボールを 蹴るだけじゃだめなの?」という問いかけと同じだ。  

と書かれている。文芸書と専門書の違いはあっても、やはりこれは同じだろう。

私の普段のやり方は、段落ずつくらいでGoogle翻訳に原文の英語を放り込んで、出てきた日本語訳をWordに貼り付ける。それから、原文をじっくり読みながら日本語訳をドンドン変えていく。実際に翻訳してみると、「Google翻訳の訳がそのまま使えた」なんてことは部分的にでもまずなくて、最終的にはまるっきり違う訳ができ上がる。「だったら、別にGoogle翻訳使わなくても、最初から自分でやればいいのでは?」とも考えるが、たたき台の原稿がある方が、「やるな!Google」とか、「ダメじゃん、Google」とか言いながら、なんとなく作業がはかどる(ような気がする)。

そういえば、今回の翻訳中にDeepLというのを教えてもらって、自分のMacにインストールしたらめっぽう便利だった。コマンドキー+Cを2回連打でどんどん訳してくれるのが良い。最近のAIは本当にスゴい。AIといえば、ふだん英文を書くときに使っているGrammarlyもかなり強力ですっかり頼りきりだ。とはいえ、DeepLでもGoogle翻訳でも、でき上がった日本語が本としてそのまま使えるほどには精度は高くないので、やはりチビチビゴリゴリと作業をしていく。チビゴリチビゴリ。

作業中はとにかく辞書を引く。英和辞書もそうだが国語辞書の出番が多い。越前敏弥さんは、『日本人なら必ず悪訳する英文』の中で「翻訳の基本十か条」の第一条として、

英和辞典だけでなく、国語辞典もまめに引くこと。また、読者がどの程度その日本語を知っているかにも気を配ること。

と書かれているので、方向として間違ってはいないのだろう。

物書堂さんの辞書アプリのファンなので、それぞれの用途で複数の辞書をiPadに入れて、串刺し検索を使う。最近は同じ辞書をMac OSにも入れられるようになったので(しかも追加課金ナシという太っ腹!)、さらに便利になった。肝腎の医学辞書は、今のところ電子版でこれといった決め手になるものを持っていないので、オススメがあればぜひご一報を。