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廃港でお昼寝。 小笠原ひとり旅5日目 #12

「いや〜、ごめんね。もううちの原付は全部予約でいっぱいだよ」

カツ丼でお腹を満たしたわたしは、原付にでも乗って母島をゆっくりと巡ってみようと画策していたのだが、早速壁にぶちあたる。

「そうだなあ、ここらへんで他に原付置いてるっていったらダイブリゾートさんくらいじゃないかな?」

と教えてもらい、うだるような暑さのなか港沿いをマイペースにあるく。

車が少ない、歩き放題の港だ


|本日休業。

ダイブリゾートさんの前に貼られていたのは、悲しくならんだ4文字だった。店先にはたくさんの原付が並べられている。こんなに、こんなに目の前に原付があるのに・・・。なんてこった。

でもね、こちとらひとり旅で強くなったんです。あきらめきれずに入口でぼーっとしていると、人の気配がする。

「すみません!」と勇気を出して声をかけてみると、店員さんがお休みのところちょっといやそうに開けてくれた。

「すみません。」
「今日は休みなんだけどねぇ。」
「そこをなんとか・・・他に原付を借りられるところがなくって」
「まぁいいよ。そこの紙に必要なこと書いといて。返すときはそこらへんにおいてもらえればいいから」
「ほんとうにありがとうございます・・・。いや〜母島ってバイク借りられるところ少ないですねえ」
とぼやくと、
「な〜にいってんの、ここはバイクでも食べものでもなんでも少ないよ!」とお兄さんに笑われた。

たしかにそうだ。俺は母島まで来てなにをいってるんだか。ちょっとくらいすぎても大丈夫だからその辺に置いといてねって言われるのが島らしかった。

原付にのって
丸くてかわいい

母島は父島からの船が発着する沖港周りに民家やお店が集中していて、南に行けば都道最南端、北へ行けば北港という眺めのよい港があるそうな。明日に予約をしているガイドさんとは都道最南端のほうを歩くらしいから、今日は北だ!と一本道をひたすらに進む。

とにかく森を切り開いて、一本道



夜になったら怖そう
天然記念物のアカガシラカラスハト
珍しいけれど、ただのハトである。


「北村小学校跡」の看板

わたしはほんとうになにも調べずに、軽率に島へきてしまっているので、「北村小学校跡」の看板を見つけたときかなり驚いた。

こんな山奥に、小学校があったんだ。

天気がよい昼間だからよかったものの、やはり特別な空気に包まれているように感じた。

地場の歴史を感じさせる施設というのは日本各地にあるけれど、そういう観光地はあたりまえに人が手入れをしていて、説明パンフレットをもらったりガイドさんに説明をしてもらって見学をしたことしかなかったから、この正体のわからなさが妙にゾクゾクした。

たしかに小学校”跡”が

よく目を凝らすとたしかに小学校があった気配を見つける。遺跡に触れると子供たちの笑い声や教師の怒る声が聞こえてくる気がした。当時はどんな暮らしをしていたのだろう。島暮らしだから、朴訥としてたりするんだろうか。

ヤドカリ注意 天然記念物だからやさしくね
北港でひとり

30分から40分ほど原付でひたすらまっすぐに進むと突然視界がひらけた。聞こえてくるのはやわらかな海の音とのびやかに鳴くホトトギスの声だけ。見えるのは木々の鮮明な緑とどこまでも広がる海の青だけだった。

ごつごつの岩だらけのビーチに、とってつけたような船着場がある。人工的に埋めているコンクリートのようなものが違和感だ。昔はここにも船が行き来していて、活気のある生活があったのかなと想像してみる。

原付とはいえまったく知らない道を走ってきて、気も張っていたので落ち着きたかった。誰もみていないのでとりあえず横になる。砂浜ではなく大きな石だらけなので、少しちいさめの石のゾーンを探してね。おもしろいくらいに人の気配がまったくない。

背中にゴツゴツとした石を感じながら、おそらく2時間くらいだろうか。気づけば自然と一体になって寝ていた。


ここからは下記「Listen in browser」を選択し、イヤホンで聴きながらご覧ください。

Sound - 北港

旅先でこんなに長い時間、お昼寝したっていいんだって初めて知った。初めてのひとり旅で知ったのはそういう、ほんとうはなんだって自分で決めてもいいんだよということだった。景色の美しさなんかよりもずっと。

スマホを確認すると16時。しかもここは圏外だ。真っ暗闇になる前にと急いで原付にまたがって沖港集落を目指した。

夕方になると校庭でサッカーをしていた
母島ではそこらじゅうが憩いの場だ
港があればカフェなんていらない

人が住むエリアに戻ってくると、昼間にはみられなかった住民の方々の姿がみられるようになっていた。港に座り込んでおしゃべりをしている人の多いこと、おおいこと。

男性は港に腰掛け、3人でお酒を引っかける。
18時30分に金髪の若者と黒くよく焼けたおじさんがギョシタで仲良く話している。
19時過ぎに青年がひとりでギターの弾き語りを練習していた。夜の海へ、魂の叫びがよく響く。
この町には年齢の壁もなく、居酒屋がなくても仲間がいる。

子どもたちは海と仲良くしていて、親御さんたちは高いところから見守りながらお話している。一見危ないなんて思うけれど、小さい頃から遊んできたんだろうから大丈夫なんだろう。託児所なんてなくったって、自然や地域の方々みんなで子育てをしているんだ。それはひどく自然な姿なように思えた。

夕食 18時までに帰らないといけないルールがある
マジックアワーが見たくて急いで港へ
東京だけど、南国気分なので
知らない街は、どの時間帯でも表情を変えるから飽きない
カニが都会の鳩みたいな距離感でいる
 まだやってる
魚がたくさんいる
・・・サメ!?
・・・エイ!?

夕食を終えて、マジックアワーのとろけるようなピンクに染まった空を見ながら、道端の自販機で買ったオリオンビールを飲んだ。夕方以降の港には人がまったくいない。人よりもカニや魚の方がたくさんいる。

父島では若者がスケボーをしていたり、子供が飛び込みをしていたり、観光客もちらほらいるものだが、母島は本当にだれもいない。

あまりにも魚がよく見えるので珍しがってのぞいていると、突然大きな魚が泳いできた。

サメだ。

調べてみたらネムリブカという名前で母島にはたくさんいるらしい。人を襲ったことはないらしいけど、いざ近くで見ると驚いてしまう。その直後にミニサイズのエイも悠々と泳いでいた。夜になると警戒心がまったくないのか、それとも昼間っからこんな感じなんだろうか。

星空を見に、光が少なそうな場所へ移動してみる
灯台か何かの光が鮮烈
6月下旬ながら天の川
真っ暗の道を進んだ甲斐があった

母島1日目にかかわらず、朝から多くのことがありすぎて母島にもう3日とか4日くらいいたような感覚になっている。まだ初日なことが自分でも信じられていない。ここまできたら、と星空も見に港のおくの「鮫ヶ﨑展望台」を目指す。ほんとうに光がなくて心が折れそうになったけど、スマホの明かりを頼りに進んでみる。ここまで暗いと星空への期待も高まるものだ。

恐怖心を押しころしながら、階段をのぼっていくと突然視界がひらける。海から強い光を浴びる。灯台?いや船みたいだ。真っ暗の怖かった気持ちがスンとはれる。展望台から見る星空は何も遮るものがなくて、対岸にも島や民家もない。ほんとうに日本一遠い島にきたんだなあとこのときに実感した。

この景色を知っている自分が嬉しい。そんな気持ちにさせてくれる時間だった。

宿帰り。この島では猫は害獣扱いだ
堂々としてる、人が飼っているのかな
ばいばい。

明日は1日ガイドツアーだから早めに寝ておこう。
おやすみなさい。

(次回へつづく)

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