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じぶんだけの御守り 小笠原ひとり旅6日目 #13

母島での初めての朝。

釣りをしているおじさんと、サクッと車で話しかけにくるおじさんの距離感がちょうどいい。

母島の住宅街の空気がすきだ
宿の一階はいい光が入る

今日は「シン・パーソナルツアー PoCo」さんにガイドをお願いした。昨日の朝にあわてて電話をしたら唯一対応してくれたところだ。

「私、五反田大好きなんですよね!」と、島暮らしの方への期待とすこし違う話をしてくれるシティーガールたえちゃんがガイド担当してくれる。お会いした瞬間からパワフルで一緒に過ごせるのがかなり楽しみ。何回かガイドさんにお願いして気づいたけど、こちらもただ話を聞くだけじゃなくって、友達と過ごしているくらいの気持ちでお互いの会話を楽しむくらいのほうが楽しく過ごせるんじゃないかってことだ。

数時間2人で過ごすのだから、「ガイドと客」だとつまらないもんね。そう考えると毎日専門知識を提供しながら知らない人と数時間すごせるって、ガイドさんへの尊敬が止まらないな・・・。

今日はガイドのたえちゃんとトレッキング
東京の道のいちばん南の端っこ
小中学生の卒業制作らしい
ヤロウドは”イエローウッド”がなまったんですよ、白い花をつけます
ほら、ヤロードの花、白いでしょ。
オガサワラビロウ
赤土が見える摺鉢(すりばち)
ここでもしっかり足裏を消毒
すっごく乾燥している

歩いていると大酒飲みくらいしか手に入れないような大きさのボトルに水が溜まっているのを見つける。雨で得られる水を縄などを利用して貯めることで、鳥たちの水浴びに使われるそう。鳥たちと共生している様子がみていて微笑ましい。

通りかかったら入れてあげる
あれがカツオドリ島です

五反田シティガールのときは花見の時期に有給をとってまで花見をしていたそうで、せわしない東京でも季節の花を愛でられていたひとだからこそ、小笠原でも楽しくやってるんだろうなあ。

勝手に自分も「東京の人」とかラベリングしてしまうけど、こうやって街角で楽しんでいるひとも平気でいるんだ。普段から公園でぼーっとしたり、季節の花を見るのが好きな自分が、勝手に肯定された気がして嬉しくなった。

タコの実が熟したもの。コウモリの大好物らしい。
オカヤドカリがいじらしく歩いてはころげている
モモタマナは紅葉するんだよ、と言っていたら綺麗な黄色の葉を見つけた

「ときどき、インターネット光や保険の営業がかかってくるんだけど、小笠原ってことを知らずに明日にでも行きます!とか言ってくるから笑っちゃうの。船で26時間かかりますけど本当ですか?っていうとすぐ終わっちゃう。
車買ったときも、ETCとかカーナビをゴリ押しされるんだけど、高速道路もないしカーナビ入れるほど道もないんだよね。」と笑うたえちゃんが面白くてあっという間に午前の部が終了した。

午後は旦那さんが案内してくれるとのことで話していたら、

「大分出身なんですよ〜」
「あら、旦那も大分よ!山の方でそんなに有名じゃないんだけど…K町っていうところで・・・」
「え〜〜〜!僕もK町です!そんな偶然ありますか!?」
と聞いていて、旦那さんと会うのがひたすら楽しみだった。
旦那さんの小西さんはロングのヘアースタイルにキャップを被って、Tシャツにリーバイスというシンプルなスタイルがかっこいいおじちゃんだった。

午後からは、昨日自分で通った北港までの道のりを巡ることに。正直昨日は昨日でじっくり原付でまわったから、楽しめるかな?と不安だったけれど、それは最初に降りた石門の入り口で島の開発の歴史を聞いて打ち消された。

小西さんは、淡々とひょうひょうとした語り口で、村のいいところだけでなく、自嘲気味にお話をしてくれるのが印象的だった。

ほらタコノキが太陽光を浴びようとすきまから顔を出してるでしょ
あれも、横に顔を出してさ
小西さんが話し始めると空気が一変し、昨日見たはずの景色が全く別に見える

「むかし、石山の木をたくさん切って売ってたんだけど、開発が進んで売れる木がなくなったから、沖縄からすぐ育ついい木があるということでアカギという木を村の15ヶ所に植えたんだ。アカギは成長が早いから、島の固有種であるマルハチなどに日光が届かずに枯れてしまうこともあるんだよ。」

丸のなかに漢字の八があるから、マルハチ。


人間の開発の歴史が、木たちの生態系とも連動していると知ってみる景色は、無邪気に美しいと言えなくなっていた。人間が自分達の利益のために自然に手を加えた結果、こんなにも簡単に生態系に影響を与えてしまう様を見てしまい、驚きがあまりにもおおきくて。

他にも戦跡ガイドもしてもらう
第二次世界大戦の痕跡を生身で感じる
平気で大砲が野にさらされている。あまりにも生々しい。
北村小学校跡で見つけたお茶碗?のかけら
ストーリーテリングは時空を超えて当時の人々の息づかいを現代で感じさせる
港で貿易をする人々が見える
ほら、さっきのお茶碗のかけらだ。とにかくありもので固めたんだ。
通信ができないから、緊急時の電話があるんだよ
コブの木
カーナビ、たしかにいま母島にいる

「いい話にしようとすると嘘っぽくなるんだよ。」

小西さんは場を盛り上げるためでもなく、仰々しい話をするわけでもなく、たくさん調べて整理してくれたお話を淡々としてくださる。それは、ガイドの内容に自信がないとできないことだろう。

旅館跡地に残る電柱、小中学校跡地に残る支柱、海岸に残された海ごみが白アリを街に増やさないために動かしちゃダメなこと。何も言われなかったら気づかないことをたくさん教えてもらった。

「なんだか照れるなあ」と言いながら写真を撮らせてもらった。宝物だ。こんな場所で同じ町出身の方とお会いできるなんて。こんな生き方があるなんて。

「夕日を見たいと思っているんですけど、おすすめの場所はありますか?」
「このあたりだったらやっぱり夕日ヶ丘じゃないかなあ。だけど実は農業もやってて、そこから見える夕日が一番かな。」
「ありがとうございます。まずは夕日ヶ丘から眺めたあとに、お邪魔するかもしれません」
と、夕日ヶ丘まで送ってもらってお別れをした。

ありがとうございました。
夕日に照らされる葉が美しい
とにかく無心で眺めた。
少しずつ光が弱まっていく
数人見にきてた

太陽が水平線に沈むまでみることができるため沈みきるのが遅い。日が落ちる寸前に、小西さんの農園にダッシュした。この名前がついた丘に用意された椅子から撮るより、特別な夕日になるに違いないと思いながら。

夕日をiPhoneで撮っている、今日ずっと追いかけたTシャツにリーバイスの姿の小西さんがいた。

「きちゃいました」
「お、今日はグリーンフラッシュ難しそうだね。」
「そうですね」
と自然に会話ができるのが心地よい。

やさしくて、どんな相手にも敬語でお話しする大人なんだと、ふと気づく。この居心地のよさはそういう小さなところの積み重ねでつくってくださっていたものなんだ。

「景色をよくしようとアカギを切ったら、台風でタコノキが折れちゃったんだ。本当はアカギが風避けになったり、支え合ったりしてたみたいでさ。よく分からないのに、自然に手を入れちゃうのは良くないってことだね。」

写真家なの?と聞かれて、うまく返せない自分がいて
「趣味なんですけど…今回の旅はしっかり写真集にしたいと思ってるんです。」
「そっか。なら適当に撮っているわけではないんだね。」と、言葉をくれる。

ではそろそろ、と夕日が沈みきったところでがっしりと握手をしてお別れをした。その握手が妙にあったかく、力強くて、背中を押してくれているように感じた。

またどこかで

どんどんと暗くなっていく道を、止まらない高揚感を抱えながら、たまらなく走りたくなって、無心で走った。「かっこいい大人像」を目の当たりにすることは人をこんなにも強くさせる、勇気づける!

あぁ、今日ここで見た夕日は死ぬまで忘れないだろうなと本能的に思う。死ぬまで忘れない夕日とは、どこで見たか、そして誰と見たかなんだろう。それってなんだか御守りみたいだ。死ぬまで自分の人生を支えてくれる経験こそ、自分だけの、本物の御守りになるんだろう。

俺もそんな大人になれたらいいなあと夢想しながら夜の沖地区へ帰っていった。今日は気分がいいから、村に3つしかない居酒屋へ行こう。

(次回へつづく)

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