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「人って一年くらいで変わっちゃうんだなって」 小笠原ひとり旅6日目 #14

新夕日ヶ丘からダッシュで走りぬけ、宿に帰ろうと歩いていると、港のコンテナの裏で10人くらいがあつまり、持ち寄りパーティをしているのを発見した。

何度も景気良く「かんぱーいっ!」をして、陽気な音楽を流しながら、わははと笑い声が港に響いている。母島では居酒屋でなくて港で飲んだりするよと、話には聞いていたけど、実際に見てみると混じってみたい、楽しそうな集まりだ。

ここで、真の旅人であればあの楽しそうな集まりへ混じりにもいくのかもしれないが、わたしにはそこまでの勇気も出ずに、遠くから眺めてひっそり海を眺めていた。

うらやましい・・・。

正直にいうと、ひとり旅も6日目にもなると寂しくはなってくる。たえちゃんと小西さんとの出会いはどんなに心を満たしたか計り知れないけれど、こころを許してじっくりと酒を酌み交わす時間はとにかく尊いことも同時に知ったのだった。

居酒屋「島っ娘」を目指す
着いた

母島の夜は、みんなの港と3つの居酒屋が守っている。今回行く「島っ娘」、めぐろ、初日に食べた「大漁」だ。せっかくなら行ったことがないお店をと今回は島っ娘に行ってみることにしていた。

あぁ、やっぱり常連ばかりだろうなあ、大丈夫かなあと緊張しながら扉を開ける。

「いらっしゃい、おひとりですか?」と、島に似合わない都会的な雰囲気をまとった女性がカウンターに案内してくれて、おどろく。
他のお客さんのお酒を作りながら「ひとり旅ですか?」と気さくに話しかけてくれる。

あらゆる酒がキープされている、みーんな知っててもはや大家族の食卓だ
島レモンサワーにたたききゅうり(うめ)ではじめる
”島”ってついたら頼んでしまう自分に喝をいれたくなる

カウンターだから他のお客さんともそんなに近くなくて、店員さんが話し相手になってくれるので助かった。

「父島にも行ったりするんですか?」と質問する。
「行きますよ!父島に行くときは上京するみたいな感じで、普段は着ないような膝下のスカートとか持っていくんです。母島は湿気がすごいから半袖短パンじゃないと気持ち悪くって。あと、母島では地べたに座って飲むことも多いからですかね。笑 せんまちかシャワー室、ガジュ下あたりでよく飲みますね!」

シャワー室とかガジュ下とか、島用語が多くてなんだかほっこりする。本当に皆さん普段使いしてるんだなあ。

「お姉さんはどうして母島に来たんですか?」
「前は東京でヨガインストラクターしてて。最初は友達に誘われてなんとなく母島にきたんです。そうしたら衝撃を受けちゃって。みんな挨拶してくれるし、夜はしっかり暗くって。こんな場所があったんだって驚いて、気づいたらここに住むことにしちゃいました」

と、驚きの行動力。そもそも初手で母島に来る時点ですごいし、素直にカルチャーショックを受け止められるのも強いなあ。

「父島にはそういうヨガインストラクターやってるひと結構いるんですけど、母島にはいないからいいかなって。島民の方や島の若い友達にヨガを教えたりしてます。ここでは飲み代もかからないし、交通費もかからないからお金が貯まるようになりました。いまは勉強の時間に当てたくて、FPの勉強してます!」

眩しい。ひたすらまっすぐで眩しかった。お姉さんの話を聞いていると、本当は背負っているものなんて何ひとつないはずなのに、自分で勝手に制限をかけてるんじゃないかと自問自答した。いま、本当にやりたいことってなんだろう。社会人になって少しずつ積み上げてきたものがあって、仕事や友人を失うことが怖くて、自分のために人生を選べなくなっていないか?

なによりも同じような衝撃を僕は味わっているのに、同じレベルでの意思決定はできなさそうだなと思ってしまったことが苦しかった。

他のお客さんから「唐揚げちょうだい!」と注文が入る。
「ごめんなさい、もう売り切れちゃって…」とお姉さん。
「2個ならあるよ!」とお店のおばさまがすぐさま応対する。
「なら1個ずつ食べるわ、よろしく!」と話の早いお客さん。

「注文入っちゃったのでごめんなさい。今でも、自分のことが信じられないです。友達からも驚かれました。人って一年くらいで変わっちゃうんだなって。」
お酒と唐揚げをもって運んでいく。うん、人って一年くらいで変わっちゃうし、変われちゃうように選択したお姉さんがすごい!と心の底から思っていた。

唐揚げばかり食べている
南蛮漬けみたいな小魚(わすれちゃった)


かまぼこがいつも正月価格で高い話、Amazonかヨドバシ送料無料なのでたくさん買っちゃう話、万年青浜が遠浅で初心者にはエントリーしやすい話。

ロース記念館の受付の方が島寿司について教えてくれたり、学校への赴任で島に来ているご夫婦に、足がなかったら道路をふさいで乗せてくださいっていえば良いよというアドバイスをしてもらったり。

こういう何気ない会話を、遠く離れた場所でできたことが大切な思い出になる。みんな見ず知らずのわたしに親切にしてくれて、人のことが好きになれる。

名物の明太うどんは私のレシピなの、と自慢げなおばさま。(店長ではないらしい)

最後に1枚写真を撮らせてもらってもいいですか?と聞くと、お店イチオシのJAMESON?を両手に持って快諾してくれた。

JAMESON大小を両手に

こんな看板娘がいるのならしばらく安泰だ。数年後また来たとき、お姉さんがどれくらい島になじんでいるのかまた見てみたいなあ。

帰り道、知らない御一行
みんな楽しそう。

「めぐろ」から知らない御一行がちょうど飲み終わって帰っていた。みんな楽しそうに、あたりまえに道の真ん中を堂々と歩いている。

この光景こそまさに島の暮らしだなあとしみじみと、なぜか安心感があった。その安心感は、知り合いしかいない地元の小さな祭りの帰り道で感じるものに近い感情だった。

(次回へつづく)

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