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2022年8月に読んだ本

 今回は8月に読んだ本とその感想をアップします。
 長くなるので気になった本のところだけでも読んでくださいね。

『ひとりっ子』 グレッグ・イーガン

 イーガンの短編集。ハードSFの巨匠で、量子力学を理解していなければ解りにくい……。なんて印象があったけれど、数冊読むうちに「そうでもないな」と気づき始めました。要は専門用語に惑わされることなく、あまり気にしないで読みなさい、という読み方をすればいいということに気づいてきました。
 とはいえある程度の基礎知識や感性があると、モヤモヤが残りにくい。それを感じさせてくれた短編が「ルミナス」でした。詳しく書くとネタバレになるのですが、数学と物理の使い方が魅力的でした。
 『宇宙消失』を読んだときは「コペンハーゲン解釈」を採用していると感じましたが、この短編集では「多世界解釈」を使っている印象が残りました。平行宇宙を考えると、こちらの方がSF的で面白いです。


『バチカン奇跡調査官 終末の聖母』 藤木稟

 いろいろな場所で起きる超常現象が、本当に奇跡か否かを調査する調査官のシリーズ。
 バチカンのロベルト神父と平賀神父のコンビが主人公です。
 いつもはミステリとして楽しんでいましたが、今回はかなりSF的だなというのが読後の印象でした。マヤやアステカなどの古代文明も出てきて、キリスト教の範囲を超えた世界観が広がったスケールの大きい謎解きになっています。
 加えて生物的な方面からのアプローチもあり、理系文系両方の情報量が半端ない。
 大量に書かれた内容のどこまでが事実でどこからがフィクションなのかの境目がわからないのが、作者の上手さと知識量を感じさせる話でした。
 できたら、参考文献も載せてほしかったですね。こういう本を手にしたのがきっかけで、専門的な学問に興味を持つ若い人のためにも。その点が勿体無いと思いました。


『ゴーストハント3 乙女ノ祈リ』 小野不由美

 その昔『悪霊シリーズ』時代に少女向けに書かれた作品はすべて読んでいます。ライトノベルですので軽いタッチで改行も多かったのが、巻が進むにつれてだんだん改行も減ってきたのが印象的でした。それでもすぐ読めるから漫画を読む感覚で何度か読み返しているので、大方のストーリーは頭に入っています。
 大筋は同じですが、一般文芸を意識してかなり改稿されているのか、そんなに短時間に読むことはできませんでした。

 今回は、ある高校に起きる超常現象を解決するように依頼されたメンバーが出向き、それぞれの謎を調査し始めますが、そこに霊は存在しないと主張するメンバーもいて、なかなか解決できません。
『残穢』を書かれた作家さんだけあって、幽霊の出てくるシーンは迫力満点。主人公麻衣の明るい一人称だから怖さが中和されますが、これが他の小説と同じタッチで書かれると相当怖いだろうなと感じました。
 シリーズ最後まで読んだ上で読んでいると、一回目では気づかなかった伏線がかなり散りばめられていることに気づきます。
 なので最終巻まで読んだあとで一巻から読み直すと、新たな発見もありますよ。


『忌館 ホラー作家の棲む家』 三津田信三

 こちらは作者自らが主人公となり、体験談として話が進みます。自身が棲んでいる洋館にまつわる怪談と劇中劇で書かれる小説が重なり合って、相乗効果になり、ミステリといいつつホラーな体験もたくさんできます。
 冒頭にいきなり謎がぶつけられているものの、読み初めは穏やかで、なんとなくエッセイを読んでいるような感じで読み進めていくと、だんだん不穏な空気に包まれ、気がついたら一気読みしていました。
 後書きまで「フィクションの中の作者」という立場を貫いているのも、興味深いところだなと感じました。
 なので読むときは、後書きや解説は後回しにすることをお勧めします。


『図書館革命 図書館戦争シリーズ(4)』 有川ひろ

 作者さんらしい甘々な恋愛話と、表現の自由や自己規制といった重いテーマを上手くシャッフルしてあるので、気軽に読み進められながらも大切な点を立ち止まって考えることができます。
 今回は、原子力発電所を襲撃したテロリストの手口が過去に書かれたフィクション小説そのままだということで、その著者が良化隊に狙われるのを守り抜く、という話です。
 本当に悪いのは本の手口を真似たテロリストなのに、標的が筆者に向かい、表現の自由を奪われかねない事態になるというのが、世の中を反映していると感じました。
 良化隊は自主規制や善意の名の下で表現の自由を制限しようとする人たちを表し、対する図書隊はそれらに抵抗する表現者やサイレントマジョリティだと思いながら読んでいます。図書隊の専守防衛も今の自衛隊そのままで、間接的ながら世相をうまく取り入れているなと感じます。
 そういう中で主人公郁と憧れの堂上との関係がどういうふうに進むかという甘々の恋バナが混ざっているので、堅苦しさを意識せずにサクサクと読めるところが楽しいシリーズでした。
 毎回危機を乗り越えるたびに、みんなの絆が強くなるのを感じます。
 これでシリーズは完結ですが、別冊があと二冊あります。こちらも積んでいるので、年内には読みたいと思います。


『この地獄の片隅に パワードスーツSF傑作選』 J・J・アダムズ

 パワードスーツというと、普通の人はガンダムを真っ先に思い出すでしょう。SF好きな人だったら同時にハインラインの『宇宙の戦士』を連想すると思います。
 表題作で冒頭に掲載された「この地獄の片隅に」は、ハインラインの直系という作品でした。これはこれで面白いのですが、この枠を破った作品がないと読みきれないな、とわずかながら不安を感じつつ読み進めます。
 でも次の作品でそれが杞憂だと解り、投げずに読み進めてよかったと思いました。
 パワードスーツは「宇宙服の進化形で、AIも搭載され、医療面でのサポートもしてくれる」というガジェットと捉えることができました。
 AIが搭載されることで不思議な一体感が生まれ、それが元になって起きる感情的な葛藤を描いたものも多くあります。
「N体問題」や「ケリー盗賊団の最期」はちょっと系統が違って、いい意味で目立った作品だと個人的には感じました。といいつつ、どれも面白い短編ばかりでした。


『夏の雷鳴 悪い夢たちのバザールII』 スティーヴン・キング

 キングの短編集で、上下巻のうちの下巻にあたります。
 上巻は少し前にスラスラと読み終えることができましたが、なぜか下巻は読むのに苦労しています。どうしてなのかよく解りません。
 キングは元々好きな作家で、初期の作品を特に多く読んでいます。筆が緻密というか、描写がしつこいくらい丁寧なところがあり、それを好きになれたらファンになるのでしょうが、そうでないとちょっと辛い。でもストーリーが面白いので、映画などになると見てしまうという人が多い作家かもしれません。
 その緻密な描写が短編だと鼻についてしまったのかも。ならばどうして上巻は読めたのでしょう(笑)。
 だんだん辛くなってきたので、半分でやめてしまいました。今の体調がキングに合わなかっただけだと思うので、いつか残りを読もうと思います。
 でも半分は読んだので、一応「今月読んだ本」に入れておきました。


『営繕かるかや怪異譚』 小野不由美

 少し前に買ったまま積んでおいた本です。いつか読もうと思いながらタイミングを逃していたところ、Twitterのフォロワーさんから勧められ、手に取りました。
「怪異」が出てくると「祓う、退治する」というのが定番ですが、この話は家を少しリフォームすることで「折り合いをつけ」ます。
 怪異のシーンはさすが小野さんだけあって怖いのですが、それと和解するためか、読み終えたら怖さが消えるところが特徴でしょう。読後感は怖いどころか、優しさに溢れます。
 こういうふうに人間と怪異が認め合えば、いつか鎮守さんや守護霊になるのかもしれない、などと将来に思いを馳せました。
 2巻も文庫化されたので、近いうちにゲットせねば。
 読みやすいのに加えてページ数も多くないので、数時間もかからずに読了できました。


『裏世界ピクニック7 月の葬送』 宮澤伊織

 今回は冴月との対決がメインストーリーです。彼女の正体は空魚の推理した通りでした。それに基づいて冴月と戦うという話ですが、これがなかなか面白かった。
 1巻から出てきた謎の女性「閏間冴月」かキーパーソンとして話が続くのですが、ようやく正体がわかり、対決となったわけです。カルト教の教祖であるるなも、ある意味冴月に翻弄されれた人物だと思うと、悪役と決めつけるのもかわいそうだという思いが伝わってきました。
 個人的には、前回から感じていた小桜の芯の強さが見られたところが好みでした。極端な怖がりですが、大人の責任といって最後まで関わるところに魅力を感じます。
 7巻で一旦お話は区切りがつきます。この後どのくらい続くのかな。
 ちなみにシリーズはネットロアを中心に裏世界で起きる怪異を扱っています。と同時に、百合小説にもなっています。
 最初のうちは「親密な女子だったらこれくらいあるんじゃない?」と思っていましたが、ストーリーが進むにつれて百合度合いが進み、いつの間にか親密な女子関係を超えてしまいました。


『天久鷹央の推理カルテⅣ:悲恋のシンドローム』 知念実希人

「推理カルテ」なので短編集です。
 今回は、霊能力、ゴミ屋敷、瞬間移動がテーマとして出てきます。
 それらを一つ一つ解いていくのですが、犯人は大体途中で解るのですが、カラクリというかトリックが解らない。
 結局のところ、医療の知識がないと自分ではトリックが解けないところが楽しいシリーズです。
 三番目の瞬間移動の話は、ラストが感動ものでした。詳しくは書きませんが、医者だから書ける話だと思います。そして重いテーマにも関わらず、読後は爽やかでした。
 それにしても鴻ノ池さん、小鳥遊たかなし(通称小鳥ことり)と鷹央をカップルにしようとして必死ですね。そういう女子いたよなぁ……、と思ったり思わなかったり。ある程度年齢を重ねたら、お見合いを世話してくれる貴重な方になりそうです(笑)。そしてこの動きこそ、作者の知念さんの思いが出てるのかな。きっと自作のキャラに「どうするつもり?」と訊きながら書いてるんでしょうね。
 などと想像を逞しくして読んでいます。


 以上で8月に読んだ本の紹介は終わりです。
 ノルマ5冊、できれば7〜8冊、目標10冊を1ヶ月に読もうと毎回頑張っています。
 今回は10冊になった(ことにする)ので、長い記事になりました。


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