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2024.08.04 フジファブリック 「THE BEST MOMENT」 @ 東京ガーデンシアター

フジファブリックは今、メジャーデビュー20周年を記念した3つのライブを行っている最中である。

今回開催されたのはその2回目の公演となる「THE BEST MOMENT」。東京ガーデンシアターでの単独公演である。

20周年のアニバーサリーイヤーということで、このライブが発表された当時は、フジファブリックの歩んできた軌跡をただただ祝福するという形で事が進んでいくのだろうと、そう思っていた。

そんな矢先に突然発表された活動休止。筆者は彼らがライブをする姿を見て「フジファブリックは安泰だな~~」なんてことを考えていたため、この発表には大きなショックを受けた。

唐突に定められたタイムリミット。複雑な気持ちを抱えつつ、会場へと足を運んだ。



Mrs. GREEN APPLEからお花が届いていた。
私が初めてフジのライブを見たのは、昨年行われたミセス主催の対バン企画だった。
こんなにも素敵なバンドに出会わせてくれてありがとう、ミセス。



会場が暗転すると、ステージの真ん中、そして左右に計3つ設置されたモニターから、バンドの過去を振り返るVTRが放送された。過去のライブ映像やCDジャケットが次々に映され、20年の歩みがダイジェスト版となって流れていく。

「THE BEST MOMENT」というタイトルが映し出されたあとにステージ上に登場したメンバーがまず最初に演奏したのは「STAR」。その後も「夜明けのBEAT」「徒然モノクローム」「電光石火」と、キラーチューンを連発していく。序盤からすでにベストアルバムのような内容である。

ステージで演奏するメンバーの姿はいつものライブと変わらない。それぞれがフジファブリックの音楽、そしてこの空間を楽しんでいる様子が全身から伝わってくる。こういうところが好きだから、フジファブリックのライブには何度も足を運びたくなるのだ。

東京ガーデンシアターは8000人ほどのキャパシティをもつかなり大きめのホールである。筆者が過去に訪れたフジファブリックのライブのなかでは最大級の会場だ。普段ライブハウスで見ていた景色が拡張され、より開けた空間に音が充満していくのはとても気持ちがよい。

「こんばんは、フジファブリックです!」という山内さんのあいさつの後に巻き起こった鳴りやまない拍手の音は、20年分の愛と祝福に満ちていた。


その後もアニメタイアップとなった「プラネタリア」やステージ後方からの炎の演出に痺れる「楽園」、ストリングスの音色と美しいメロディーが特徴の「Green Bird」など、フジファブリックの歴史を彩る人気曲が次々と演奏された。

「プラネタリア」の間奏は金澤さんの弾くキーボードの旋律が輝く。金澤さんは今まで見てきたキーボーディストのなかで、最も歌心のある演奏をする人である。こんなにも唯一無二なキーボードのプレイを、来年の2月以降は見れなくなってしまうのだろうか。



「20周年で区切りをつけようと思いました。これを受け入れてくれた山内くん、そして加藤くんにはとても感謝しています」

金澤さんは2度目のMCで、簡潔に、噛み締めるようにこの言葉を口にした。ライブの中で活動休止についてはっきりと言及がなされたのは、ここが最初で最後だった。

ときどき視線を落としながら話していたため、おそらくメモかなにかを見ていたのではないかと思う。事前に考えてきた言葉で、真摯に思いを伝える金澤さんの目には、長く続いてきたバンドを終わらせるという大きな決断をしたことに対する責任感が滲み出ていた。考えに考え抜いて出した決断なのだということが、その佇まいから伝わってきた。

「今日は20周年という大事な日でもあります。いつも以上に盛り上がっていきたいと思うのでよろしくお願いします」

金澤さんは最後、このような言葉でMCを締めた。そう、この日の舞台は、フジファブリックが20年続いてきたことに対する祝福のために用意されたものある。悲しむよりも前に、まずはこの場を全力で楽しまなければと心を入れ替えた。



この日のライブでは、アンコール含め全5曲が志村さんのボーカル音源によって披露された。

「20周年ということで、今回は志村くんとも一緒に歌いたいと思います」
ライブ中盤、山内さんはそう言うと、客席から見て右手に一歩移動した。真ん中にぽつりと置かれたマイクスタンド。そこにスポットライトが当たる。

まず演奏されたのは「モノノケハカランダ」。モニターには志村さんの映像が映し出される。まさか志村さんの声でこの曲を聴けるとは。

「陽炎」では、過去のライブ映像とリアルタイムの映像が交互に映し出された。まるで志村さんが今を生きているかのようだった。個人的に大好きな楽曲である「バウムクーヘン」が聴けたことも嬉しかった。

「若者のすべて」は現体制でも何度も聴いたけど、志村さんの声に乗せて届けられて初めて、パズルのピースがかちりとはまるような感覚を覚える。それくらい彼の声は他の誰にも代えられないもので、彼の生み出した楽曲は時を越えて愛される。

筆者がフジファブリックのライブに行くようになったのは最近の話ではあるが、「若者のすべて」自体はそれ以前から聴いており、自分にとって身近な存在であった。現体制のフジファブリックがミュージックステーションでこの曲を演奏していたことも、おぼろげではあるが覚えている。

筆者は現在20代前半。当たり前だが、志村さんがいた時代のフジファブリックを追うことはできていない。しかし、「若者のすべて」という楽曲が筆者自身に志村さんの楽曲に触れる機会を与えてくれた。このような楽曲を遺してくれた志村さんと、彼亡きあともこの曲を伝え続けてくれた現メンバー3人に、心のなかで大きな感謝を伝えた。


ライブ後半戦は、フジファブリックの「いま」を映し出すかのような内容だった。「LIFE」「ミラクルレボリューションNo.9」「Feverman」などはフェスでもよく演奏される楽曲であるだけに、これぞいまのフジファブリックといった安心感がある。「LIFE」で「ギター、俺!!」と言いながらギターソロを弾く山内さんはいつでも楽しそうだし、ギター本体も、山内さんに弾いてもらえて嬉しい!と言っているかのような音を奏でている。


「今の瞬間がショウ・タイム、家に帰るまでがショウ・タイム、明日もあさってもショウ・タイム………(客席がざわざわ)……何を言っているのか分からないと思いますけど、僕も何を言っているかよく分かりません」

山内さんが恒例の謎発言(途中までいいことを言っていたんだけど、この発言に気をとられて忘れてしまった…)をしながらも本編最後の曲として演奏された「ショウ・タイム」は、フジファブリックというバンドの魅力を余すことなく詰め込んだ楽曲である。20周年記念ワンマンを締める楽曲として相応しい荘厳な響きを会場に残したまま、本編は終了した。



アンコールでは、「Portrait」のインスト音源に合わせて過去を回想するようなVTRがモニターに映し出される。そのあとにメンバーが登壇。

「この曲を歌うために……」という志村さんのMCが流れた後に披露されたのは「茜色の夕日」。志村さんのボーカル音源がふたたび使用される形となった。

本編で披露された4曲では過去のライブ映像がモニターに流れていたのだが、「茜色の夕日」では映像は一切なし。ステージの真ん中に置かれたマイクスタンドに、煌々とスポットライトが当たり、視線は自然とステージに釘付けになる。

会場に流れているのは音源のはずなのに、まるで本人がその場で歌っているのではないかと思ってしまうくらい、志村さんの声はのびやかに会場の空気を埋め尽くしていく。見えないはずのその姿が見えたような不思議な気持ちになる。


今回のライブの演出を考えるにあたっては、志村さんのご家族、そして彼らのファーストアルバムをプロデュースした片寄明人さんの協力があったのだという。

後に片寄さんのポストによって分かったことだが、この音源はもともと完成されていたものからエフェクトや調整を外し、生の声により近づけたものであったようだ。そこまで凝ったものであったとは。


時間、空間という制約を超えた4人の演奏を聴きながら、フジファブリックというバンドに課された責務について考えていた。


ロックバンドの目的は、新しい音楽をつくり、演奏すること。大きくいえばこれだけである。しかし、その道の途中でバンドの核となるメンバーを失ったフジファブリックには、「志村正彦の音楽、そして居場所を守り抜く」というもうひとつの大きな目的ができてしまった。これは残された3人が前に進む原動力にもなったと思うが、それと同時に重苦しいものでもあったと思う。メンバーの大きな入れ替わりがあっても活動し続けているバンドは無数にいる。だが、フジファブリックはそれが絶対にできなくなってしまったバンドだった。このメンバーでやり続けることに、大きな意味があったのだから。


一音一音を噛み締めながら演奏する現メンバー3人の姿を眺めながら、この人たちは志村さんが亡くなってからの約15年間をどのような気持ちで過ごしてきたのだろうか、とも考える。2つの大事な目的を抱えながら、志村さんが居た期間よりも長い間活動を続けた今のフジファブリックは、20周年という節目をもって、これらの責務を果たしたのだと思う。彼らが活動にピリオドを打つ日はまだまだ先だけど、その日が訪れた時は、心からの「お疲れ様でした」を伝えたい。そう思った。

志村さん、あなたの選んだメンバーは今でも本当にかっこいいライブをしていますよ……。こんなに素晴らしいメンバーを選び抜いたあなたの姿を、一度は見てみたかった。


最後のMCでは、メンバーひとりひとりからの長めのコメントがあった。志村家のみなさまや片寄さんをはじめとした関係者への感謝の言葉を述べる金澤さんの目は、いつにも増して真剣だった。そんな空気を和ませてくれる加藤さんと、和やかな空気を引き継ぎながらも最後は場を引き締める山内さん。このバランス感に、この日はとても救われた。特に加藤さんは活動休止が発表されたタイミングから我々を和ませる発言をSNS等で積極的にしてくれていて、本当にありがたい。


アンコールのラストに演奏されたのは「SUPER!!」。「なんだかこのまま終わっちゃうみたいになってるけど、フジファブリック、まだまだ終わりませんからね。2月も、11月もあるし」という山内さんの発言の通り、今のフジファブリックはまだまだ前を見ている。筆者はこれから先、フジファブリックのライブに行けるかどうか不透明なところではあるが、どのような形になったとしても後悔しないよう、これからの活動を見届けていきたいと思った。



この日のセットリストは、フジファブリックが進んできた20年の道のりに、大きな区切りをつけるようなラインナップだった。これまでのバンドの歴史を振り返りながら、それにひとつの終止符を打った感覚があった。語弊はあるけど、セットリストだけを見れば、これが最後のライブですと言われても受け入れてしまいそうなくらいの内容の濃さではあった。

しかし、ライブをする3人の姿は、とてもじゃないけど来年の2月で活動休止するバンドであるとは思えない。このまま何年も、何十年も続いていくのではないかと思ってしまうくらいの安心感がこの日にもあった。活動休止という事実を受け入れられないというわけではなく、受け入れたうえで、やはり信じられないのだ。

結局のところ複雑な心境であるということには変わりないが、この日のライブを見て、やっぱり自分はフジファブリックがステージで演奏する姿を見るのが好きなんだな、と思った。このバンドに出会えて本当によかった。



20周年おめでとうございます。フジファブリックの音楽に出会えて、今こうしてライブに足を運べていることがとても幸せです。

そう心で呟きながら、ステージを去るメンバーの姿を見届けた。

1.STAR
2.夜明けのBEAT
3.徒然モノクローム
4.電光石火
5.プラネタリア
6.Green Bird
7.楽園
8.KARAKURI
9.モノノケハカランダ
10.陽炎
11.バウムクーヘン
12.若者のすべて
13.Water Lily Flower
14.月見草
15.東京
16.LIFE
17.ミラクルレボリューションNo.9
18.Feverman
19.星降る夜になったら
20.ショウ・タイム

〈アンコール〉
21.茜色の夕日
22.破顔
23.SUPER!!

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