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ドアと鍵の物語〜第三章 1

タンジェは始まりの地だった。この地に辿り着いてから後と前では世界が変わった。パラレルワールドとまでは行かないが、西の果てにある日が沈む国へ行き、そのあと帰ってくるともといた世界は別の世界になっていた。あのホテルで何が起こったか思い出してみよう。2022年11月13日。あの日ホテルにチェックインしてホテルのレストランで食事した。フランス語のメニューがわからず英語のメニューを見せてもらったが、フランス語でメニューがわからないのに翻訳したってわかるわけない。いや、そうじゃなくて英訳なんか見たって料理そのものを知っているわけじゃないからわからないのだ。例えばおでんを英語に訳したとしておでんという料理を知らなければ結局何が出てくるのかはわからないのだった。夕食にワインと、2〜3品の料理を注文して食べた。食欲がなく、部屋にお料理とワインを運んでもらった。早めに寝て翌朝はテラスでの朝ごはんを食べた。ビーチを遥か下に見下ろすロケーションは最高に気持ちのいいものだった。パンケーキとかオレンジジュース、コーヒー、サラダなどを食べて満足しながら部屋に戻った。その後街を散策したような気がするけどあまり覚えていない。どこへ行ったかな?確か博物館へ行った。インスタのライブ配信をやり、その後カフェで食事した。映画の撮影をしていて、食事を邪魔される。いったいなんなんだこの旅は。いろんな場所で邪魔が入る。なんでこのタイミングで映画撮ってんだよ。雨が降ってきて、嵐になった。撮影は一旦中止。ホテルとオーナーが同じカフェで通常ならば居心地のいいお店だった。だが、食事中にあっちへいけ、こっちは行けと動かされ落ち着いて食べることができなかった。レストランのスタッフが気の毒がっておごりにしてくれた。

さてさて、ホテルの部屋に帰ることにした。翌日はPCR検査を受けて陰性ならばカサブランカまで移動して東京へ帰る。残念ながら陽性で旅が一週間延期になった。薬局で薬を買い、ルームサービスで食事をする。少しは外を散歩して街中でお昼ご飯を食べる。帰ってきてぶらぶら過ごす、という日が続いた。帰りのフライトを変更したり、ホテルを延泊したりいろんな手続きがあってなんだかんだと日々は過ぎていった。そんなある日ホテルの部屋で早めに寝ようとしていると誰かがドアを開けた。あんまり怖くなかったけど一応、きゃーとか言ってみた。ドアは閉まり何事もなかったかのようだった。翌朝テラスでの朝ごはんを食べていると男性が話しかけてきた。昨日は映画みたいだったね、きゃーって。なになに、何事?あぁ、昨日ドアを開けた人、男性だった。話好きなオシャレな雰囲気の人。たくさんの友人たちとこのホテルに昨日から泊まっているらしい。次から次へと自己紹介が始まる。こんなにたくさんの名前、いっぺんに覚えられないよ〜。

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