ドアと鍵の物語2〜第一章 5
翌朝目が覚めて歩いて5分の海へ行った。初めて見る大西洋の海。日本の周りには海があり、沿岸部に近ければ海は身近な存在だけど、我々が馴染みのある海には太平洋、日本海、瀬戸内海、オホーツク海など。東アジア近隣の海の名前がついている。太平洋側か日本海側かという分類はあっても大西洋側の海なんてない。首都パリから5時間ドライブして西へ向かうと大西洋に出る。ここでの海辺は私の知っている海とはちょっと違って、空がグレーがかった青緑色。もちろん日本にも曇りの日はあるけど雲の向こうには青い空がある。だから空から受ける印象は結構違う。数日間の滞在中何回か行ったけど少しずつ表情は違った。季節ごとに訪れて表情の違いを見てみたいと思った。
そしてここの砂浜は少し黒っぽい。昔夏休みにニースのビーチへ行った時、真夏の8月だというのに海水は冷たく、そのビーチは白砂だった。ニースの太陽は高く青空に輝いていた。地中海の夏とは雰囲気違って当たり前だけど、ここ大西洋のビーチはなんというか開放的でありつつも独特の雰囲気がある。うまく言葉にできないけど、バイブスが違うとか光の高度が違うとかいう表現になるのだろうか。言語化できないもどかしさ。
ここには海の家もないから焼きそばやカレーライス、かき氷も売ってない。こういうものも含めて海の印象が作られるということか。夏にこのビーチで焼きそば売ったら売れるかな?焼きそばといえばビールだけどワインにも合うかな?ちょっと想像できない。
そういえばモロッコでエッサウィラとタンジェの海を見たから大西洋は初めてじゃなかった。ヨーロッパ側の大西洋を見るのは初めて、というのが正確な表現。このビーチで過ごして、自分の名前を浜辺に書いて波に消してもらうという浜の署名部をやったり、ビーチヨガをやってみた。ヘッドスタンドも気持ちよい。頭が下になって景色が反転した。思いのほか風が強くヨガマットのはじを大きな石とか荷物で押さえていないと風に持っていかれる。気がついたらスニーカーがひとつなくなっていた。慌てて探すが見つからず焦って探し回るが、結局足元に落ちていた。
ここで覚えたフランス語の単語がある。サングラスという意味のdes lunettes de soleil複数形になるのは英語と同じ。soleilとsunでは印象が違うのは言葉の響きの違いか。サングラスで思い出したのはメガネをかけるとか靴を履くなどの動作の部分、つまり動詞の部分が日本語だと細かく区別されていること。フランス語の先生は日本語ややこしいと言っていた。マフラーを巻く、手袋をはめる、服を着る、コートを羽織るなどなど。フランス語ならば一つの動詞で表現されるけど、日本語はどのように身につけるかを動詞で表している。何故だろうか。
ビーチはこれぐらいにして、お土産物屋さんとこの街の市場へ買い物に行くことにした。海のそばだから海産物が豊富にある。そしてケベックから移住した女性が開いているパン屋さんへも。このパン屋さんの女性のことをみんなが口にしていてどんな方だろうと楽しみになっていた。