見出し画像

無料と価値の感覚の不思議

行動科学系のオンラインコースを2つ受け、その中のテーマであったお金や支払いについての人の感覚をまとめてみます。サービスの料金体系や顧客に提示するサービスの価値の見せ方、価格への納得感などに参考になります。

時間がない人用サマリー
・無料は、強力な魅力になる。
・無料は、人に合理性を失わせる
・無料で受けた何かに支払いを求めるのは厳しい
・無料は、サービスや製品に対して感じる価値とその品質を低く評価させる傾向がある。


支払いの痛み

どんなに少額でも人は支払うたびに「痛み」を感じます。財布の中から現金がなくなれば「減った」と感じます。クレジットカードによる負債が多いのは視覚的に「減ったこと」が分かりづらいため、支払いの痛みを感じず、どんどん使ってしまうためなんだとか。

決裁技術の進歩もありますが、サブスクリプションが普及している理由の一つでもあるでしょう。一度の支払いでそれ以降は支払いの痛みが来ません。

サブスクリプションでなくても、例えばコース料理でそれぞれの料理ごとに支払いを求められれば、総額が同じでも料理に感じる価値は異なります。

海外のSIMでよく見るデータ通信量などの追加購入Pay as you goの支払いモデル(Top Upとも言う?)は、一見すると必要分だけを購入できるのでユーザーにとって優しいと思われますが、何度も支払いの痛みを感じさせます。

またユーザーのお財布が潤うタイミングを見計らうことも必要です。給料日の近くであれば気持ちが大きくなって支払ってくれるかもしれませんし、逆に給料日前は財布の紐は硬いかもしれません。

振り返りの問いとして

・どれくらいの頻度で支払いをユーザーに求めるのか?
・現金で払うのか?
・いつ支払っているのか?(サービスを受ける前なのか、受けた後なのか)
・無料のサービスはあるのか?

があります。


無料のチカラ

有名なチョコレートの実験があります。

A:14セントの高級チョコレートと1セントの安いチョコのどちらを貰いたいか実験したところ、高級チョコレートが73%で選ばれました。

そこで次は1セント値引きをします。

B:13セントの高級チョコレートと無料の安いチョコレートで実験すると、安いチョコレートを選ぶ人が69%になりました。

価格差はAとBともに変わりませんが選択は変化しました。

無料の力は別の形でも現れます。たとえば本を買うシーンをイメージすると

A:本体価格2000円+送料無料
B:本体価格「無料」+送料2000円

Bの方がなんだかお得に感じます。それくらい無料は人の心を強く惹きつけます。無料は幸せを感じさせるだけではなく、その幸福感自体が意思決定に大きく影響します。

お金のかからないモノを与えられると人は合理的な判断をしづらくなります。

イギリスのある高級ファッションブランドは数日間限定で送料無料キャンペーンを年に数回開催するそうです。高級ブランドを購入するお客にとって送料など気にしないと思われがちですが、売上は上がるようです。

[こぼれ話]
市場規範と社会規範
あるNGOが弁護士に通常よりも安い金額で顧問をお願いしたところ断られましたが、彼らが無料でお願いしたところ、多くの弁護士が了承してくれたそうです。

これは弁護士にとってNGOに関わることを弁護士の社会貢献として(もしくはボランティアでNGOを手伝っているというステータスとして)社会規範が働きますが、金銭が絡むと社会規範は市場規範に乗っ取られ、お金が主たるインセンティブになってしまいます。


無料は諸刃の剣

無料は無敵ではありません。例えば一度無料で受けた何かに対して支払うことはかなり難しくなります。

さらに無料は同時に疑われる要素もあります。何かウラがあるな…と思われるのは仕方がないことです。粗悪品だったり、お金を出すようなものではないと感じる人もいます。

人は価格を元にモノの価値を感じていることが多く(家族への愛など除く)そして相対的に認識されます。

ゲームのアプリは無料が当たり前で数百円の課金をためらってしまいますし(スタバのコーヒーはよく買うのに!)高級車を買った後で付いてくる絶対にいらないオプションサービスのミニカー(2万円)は安く感じます。

もう1つの落とし穴は、無料で提供されたモノに対しては価値を低く見積もる傾向があることです。他人からもらったものをそれほど大切にしないのが例です。

何かウラがある、価値が低いものなんじゃないか、これを回避するには「なぜ無料なのか説明しても良い」でしょう。こうすることでサービスから受ける印象が変わります。

例えば1週間限定で通常2万円のサービスを無料でご提供しています」と伝えても良いでしょう。「限定、特別、割引などと付けることで本当は価値のあるものですが、無料でご提供します」と伝えることができます。ここらへんは朝の通販番組が非常に参考になります。

どちらにせよ無料は短期的には成功しますが、長期的に見れば多くを失います。

タダより高いものはないと昔の人が言ったように、用法用量を守って使いましょう。

頂いた資金は子供支援団体などに寄付していきます。