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姫路から広島へ。姫新線、芸備線経由で中国山地を縦断!

今年の夏はとにかく熱い。そんなお盆休みの中日。
新型コロナウイルスの行動制限もなくなって初めてのお盆休み。
故郷への帰省や旅行で多くの人々が移動する中、姫路から広島へ、山陽本線経由(岡山、尾道経由)ではなく、敢えて時間のかかる、忍耐力が試される姫新線・芸備線経由(津山、新見、三次経由)で移動する。

路線情報

はじまりは姫路駅から

①姫新線 姫路6:55→播磨新宮7:29

姫新線の姫路側は通勤通学輸送を兼ねており、この時間は本数、車両ともに充実している。
使用される車両はキハ127系2両編成。2009年に投入された車両である。
姫路を出発した列車はすぐに線路を右に傾けぐんぐんとスピードを上げていく。
2009年頃から兵庫県側の姫路ー上月間では、車両と地上設備の交換・更新により高速化と所要時間短縮に大きく貢献している。
本竜野駅の辺りから一気にローカル感が増してくる。
この辺りはそうめん揖保乃糸の生産地としてもその名が知られている。最寄り駅は次の東觜崎である。
ここからしばらく国道179号線と並走し、左へカーブし国道を踏切で越え、終点の播磨新宮駅に到着した。

②姫新線 播磨新宮7:29→佐用8:17

播磨新宮駅

先程よりも住宅は少なくなり、田んぼや畑が続く。
カーブも続くようになってきたが、ほとんどスピードが落ちることはなく快適走行であった。千本、西栗栖、三日月、播磨徳久駅と順に停車し、列車は定刻で終点の佐用に到着した。

日本の原風景から山間部へ

③姫新線 佐用8:32→津山9:31

佐用から先はキハ120系1両での運行となる。乗り継ぎで移動していると思しき方々とご一緒する。
車内も混雑し始めた。
兵庫県最後の駅・上月を出発すると次の美作土居駅から岡山県へ入る。上月から6.7キロあり、駅間距離も長い区間も存在する。
美作市内をしばらく走行する。中国自動車道とも並走しながら進んでいく。峠越えで減速するも平野部ではスピードを上げて走る。東津山駅で因美線と合流する。
津山が近づくに連れて、乗客も増え、車内は通勤ラッシュさながらの混雑であった。

佐用駅。左隣には智頭急行線の普通列車が停車していた。

④姫新線 津山10:07→新見11:50

津山線・岡山行きの快速ことぶき

津山駅では乗り継ぎのため下車する。新見行きまで30分強の時間があったので、改札の外に出ても良かったが、お盆休みの中日で佐用から津山間の混雑が激しかったこと、新見への乗り継ぎ客も一定数いるだろうと推測して、乗換ホームで待機することにした。

中国ハイウェイバスの乗換案内。
中国自動車道を経由して津山駅に乗り入れており、本数・所要時間では圧倒的優位。

先に岡山行きの快速ことぶき号が発車してしばらくすると、新見行きの列車が入線した。引き続きキハ120系1両編成であった。

岡山からの乗継客も交わり、車内は大混雑で津山駅を発車した。
次の院庄までは平野部を走行するためかスピードが上がる。
一度別れた中国自動車道と再び並走する。徐々に山々が険しなってくる。
美作落合駅を過ぎると姫新線は北側へ進路を変え、津山市から真庭市に入る。古見、久世、中国勝山駅が真庭市の中心となる。
中国勝山駅を出発すると、終点の新見までの約35キロは険しい山間を縫うように走行する。線路状態を維持するため、時折、徐行区間も存在し、各駅の所要時間も長い区間で10分前後を要する。月田、富原、刑部、丹治部、岩山へ停車するも乗降客はなく、津山から1時間43分で新見駅に到着した。
これにて姫新線「完乗」である。

陰陽連絡の中継地点・新見で小休憩

新見駅からは芸備線に乗るが、次の列車の発車まで1時間ほど時間が空くので昼食を摂ることにした。
とはいえ、駅前にはお店は多くないが、駅改札を出てすぐの場所にある「きくや食堂」へお邪魔した。
昔ながらのお店の佇まい。
いわゆる駅前の大衆食堂である。
こちらで備中そばをいただいた。

備中そば650円?と記憶
具材から滲み出る出汁が旨い!

余談:レールの温度も上昇!?

津山から乗車した列車は12:49発で津山へと折り返すことになっていたが、発車時刻を過ぎても発車しない。
JR西日本の運行情報を見ると、次のような情報が出ていた。

気温が上がると鉄製のレール温度も上昇

なんと!
レール温度が上昇しているため、夕方まで津山〜新見間は運休するという。
暑さで変形することもあるようで、安全を考慮すればやむを得ないとは思うが、毎夏の灼熱地獄だけは何とかしてほしい。

新見駅。右が折返し列車となる予定だった津山行き。

灼熱地獄&激混みの大移動 新見→備後落合間

⑤芸備線 新見13:02→備後落合14:28

気を取り直して、さらに西へ進む。ここからは芸備線の旅である。
芸備線の起点駅は2つ先の備中神代駅であるが、すべての列車が伯備線の新見駅まで乗り入れている。新見駅を出発し、上り勾配をゆっくりと進む。次の布原駅は伯備線の駅でありながら、伯備線の列車は普通列車も含めて通過し、芸備線の列車のみが停車する珍しい駅である。

備中神代駅手前で線路が分かれ、芸備線は左にカーブしたホームに到着するが、乗降客はいない。

三度、中国自動車道と合流し東城駅付近まで並走する。
坂根、市岡、矢神、野馳、東城の順に停車する。
東城駅から岡山県(新見市)を越え広島県(東城町)に入る。東城は広島県東城町の中心駅であり、わずかながら下車客がいた。
車内が混雑しており乗降に時間を要し出発が少々遅れた。

東城駅を出発すると、備後落合までの約16キロが中国山地を上り下りするように走行していく。最も険しく、かつ時間を要する区間である。カーブが多く、スピードも上がらない。時速30キロ前後で走行する。
途中に備後八幡、内名、小奴可(おぬか)、道後山駅があるが乗降客はいなかったと思われる。車内の大混雑と灼熱地獄で体力が奪われていく。
ここで熱中症になるわけにもいかないので、とにかく水分補給を念入りにしたが、体温が下がる気配があまりしなかった。
道後山駅手前付近で芸備線の最高地点に到達する(標高611.58)。ここから日本海に注ぐ江の川の水系に入る。つまり、この付近が日本海と太平洋の分水嶺に位置する。次の駅の備後落合駅との標高差は160mもあるため、蛇行しながら25‰(パーミル)の勾配を下っていく。途中で渡る小鳥原第一鉄橋は中国地方で最も高い橋である。

新見駅から約1時間30分。少々遅れて終点の備後落合駅に到着した。

険しい山越えとその先に広がる三次平野

⑥芸備線 備後落合14:28→三次16:01

険しい峠道を越え、備後落合に到着した。
当駅は木次線・島根県方面との乗換駅である。
かつては、広島から松江方面への急行「ちどり」も運行していたのは過去の話である。山間の秘境に位置する。

乗車した三次行きは備後落合到着時にすでに停車している列車であったため、速やかに乗り継ぐ。

カープラッピング車両。三次までこの車両に乗車。
秘境の中の乗換駅
備後落合駅の時刻表。
宍道方面の木次線も列車本数が少ない。
峠を越えたとはいえ海抜452メートル。
折返しの新見行きを見送る。


出発しても中々スピードが上がらない。
次の比婆山駅まで5.6キロ・15分の道のりである。徐行区間が多数存在しており、25キロ以上で走行することはなかった。木次線方面から下ってきた西城川の渓谷を進む。
比婆山駅から田園地帯になっていくが、幾度か狭い谷合を走る。備後西城、平子、高、備後庄原駅の順に停車する。
西城川から離れて、国兼川流域に入ると平地が段々と開けていく。備後三日市、七塚、山ノ内、下和知駅に停車し、馬洗川を渡って福塩線と合流して塩町駅に到着する。三次駅が近づくにつれて乗客が増える。神杉、八次と停車し終点の三次駅に到着した。

ラストは快速みよしライナーで峠を下る 三次→広島

⑦芸備線 三次16:05→広島17:30

三次駅。広島の文字がついに現れる
三次駅こ線橋

長い長いローカル線旅もいよいよラストスパートである。
三次からは快速みよしライナーに乗り換える。快速はかつて毎時一本は運行していたが、現在では1日数本の運行となっている。快速で広島まで約1時間半のところ、各駅停車では2時間近く要する列車もある。都市が近づいたとはいえ、ローカル線色が薄まることはない。4分の連絡で快速みよしライナーは三次駅を出発した。ほとんどの乗客が快速に乗り継いだと思われる。

通過駅が発生するが、単線のため各駅では減速し再び加速を繰り返す。
広島へつながるとはいえ、線形に優れているとはいえず、速度が上がるにつれて揺れも激しくなってくる。

途中の下深川駅まで快速運転を行い、その先は広島まで各駅に停車する。下深川駅は広島市に位置する。乗車率も高まり立ち客も多く見られるようになる。途中駅での列車交換の遅れにより、5分程度遅れて広島駅へ到着した。これにて芸備線も「完乗」である。

広島近郊は路線ごとにラインカラーが定められており、芸備線はパープル色となっている。

山だけでなく、路線維持も険しい超閑散区間を乗り終えて

高齢化、若年層の都市への流入、モーダルシフト、人口減少により地方のローカル線は利用者の減少に拍車をかけ、路線の維持が難しくなっている。
近年では大雨による大規模災害により路線が被災し、莫大な復旧費をかけてまで復旧させる必要性に乏しい路線も現れている。
一方で路線の廃止やバス転換は解決になるどころか、地域の衰退にも繋がることから解決策を見いだせないまま今日に至っている。

当初は鉄道会社が主導して路線維持を判断していたが、国において、平成19年に地域公共交通の活性化及び再生に関する法律が成立し、地方自治体が地域の公共交通を維持するために主体的な役割を果たし、生活交通を確保する体制づくりに義務を負うことなどを定められた。

令和4年の法改正で地域の関係者の連携・協働(共創)を通じ、利便性・持続可能性・生産性の高い地域公共交通ネットワークへの「リ・デザイン」(再構築)を進めるための枠組みを創設・拡充された。
国土交通省においても、地方公共団体が中心となって作成する地域公共交通計画等を通じて、地域公共交通の「リ・デザイン」の取組について支援していくこととなった。

平均通過人員(輸送密度)2,000 人/日未満の線区については、路線維持が困難な路線として今後の鉄道の在り方について地元関係者を交えた議論が行われることになっている。

JR西日本は路線維持が困難とされる17路線30線区を議論の対象とした。今回乗車した姫新線、芸備線の路線輸送密度は次のとおりである。

<姫新線輸送密度>※2021年度
播磨新宮ー上月 774人/日
上月ー津山   358人/日
津山ー中国勝山 649人/日
中国勝山ー新見 136人/日

<芸備線輸送密度>
備中神代ー東城   80人/日 
東城ー備後落合   13人/日
備後落合ー備後庄原 66人/日
備後庄原ー三次   312人/日
三次ー下深川   915人/日

2022年11月30日にJR西日本が公表した。

上記のとおり、姫新線の姫路〜播磨新宮、芸備線の下深川〜広島を除いて路線維持困難線区となっている。乗客はいないが、運行はしている状況である。

今回は夏休み、お盆休み中でもあり、利用者は多かったが、総じて言えるのは最低限の路線維持さえも難しくなっているということである。
山間部を川沿いに峠を縫うように走っており、線形変更による高速化などの設備投資が欠かせないが、マイカーが生活手段となった以上、鉄道の必要性が乏しくなったともいえる。
鉄道事業者は企業体である以上は、採算性の低い路線に設備投資するとは思えず、むしろ廃止によりコストを下げることを考えるのが常道である。
一部の地域住民にとってはなくてはならない手段であるとはいえ、だからといって路線維持を継続することもできない。ジレンマに陥ってしまうが、路線のあり方議論を通じて生活機能としての鉄道のあり方、存在意義が改めて問われることになる。今後の議論の行方に注目していきたい。

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