図11

春休みは突然に~いま、キミに伝えたいこと~

予期せぬカタチで卒業を迎える22期生。突如、高3になることを迫られた23期生。そして、家族同然に時間を共にしてきた部活動の部員たち(もはや離散家族・・・)。

目に見えない「新型コロナウイルス」によって、目に見える形で「私たちの在り方」そのものが問われている。少し長い文章にはなってしまうが、2019年度を締めくくる「贈る言葉」としたい。


①批判する前に、動け。

安倍首相の「全国小中高・臨時休校要請」によって、学校現場、そして子どものいる家庭、社会全体にも余波が広がっている。

安部首相の対応には賛否あるだろう。休校要請を行った批判もあったが、仮に何も手を打たなかったとしても、きっと批判されていたに違いない。

様々なメディアから情報を得て、正しく判断しようとする姿勢は大切だ。しかし、批判や文句ばかり口にして、自分からは何もしないような人間にはなって欲しくない。

「でも、授業も、テストも、部活動も、行事も全部なくなったし、何すりゃいいの・・・( ゚Д゚)」

本気になれば自学自習はできるし、部活をやっているなら自主練だってできる。活動してきたことをブログやYouTubeにアップしたっていい。やり方が分からなければ、ググるでも、誰かに聞くでも、自分にできる「行動」は無限にある。上に載せたように、既に多くの企業が休校支援を行っている。

人類が進化を遂げてきたときには、必ずピンチがあった。今回のコロナをピンチと捉えるか、変革のためのチャンスと捉えるか。人間は、自由を制限されてこそ、創造性を発揮するのだ。

『最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。』

イギリスの自然科学者であるダーウィンの言葉の引用である。逆説的ではあるが、「変化に対応できる者こそが、強く、そして賢い」のだとすら思う。

では、どうしたら「変化」に立ち向かえるのだろうかー。


②見えないものを、見ようとせよ。

「変化」に立ち向かうために、いま君たちがやるべきことは何だろう?

受験勉強?部活動の自主練?もちろん、これらも大事である。ただ、それだけでは「臨時休校」を持て余してしまうだろう。いままで、時間に追われて、ある意味で思考停止「させられていた」私たちは、時間に対して一定の「自由」を得た。芥川龍之介は、以下の言葉を残している。

自由は山巓(さんてん、山頂の意)の空気に似ている。どちらも弱い者には堪えることができない。

すでに「自由」という言葉が耳タコになっている学園生ならば、言葉の意味は分かるだろう。「変化」に対応するためには、「不易流行」のうち、「不易」について考えなければならない。「不易」とは、言い換えれば「本質」だ。目に見えている「移り変わる」ものだけでなく、目に見えない「移り変わらないもの」を、見つめなければならない。

「現代の知の巨人」と称される立命館アジア太平洋大学(APU)・出口治明学長は、以下の言葉を残している。この記事は、大学生に向けたものではあるが、十分に君たちにも理解できるものだ。引用元のリンクも貼っておくので、ぜひ読んで欲しい。

大学生のうちになすべきことは、「人、本、旅」に尽きます。たくさんの人に会い、たくさん本を読み、たくさん旅に出てください。自分の知識を増やし、さまざまな考え方や発想のパターンに触れてください。

学園では、「教室から世界に飛び出す」機会が多く設定されている。そして、私個人の活動ではあるが、「世界(人)を教室に持ってくる」ことも心掛けてきた。つまり、「人、旅」に触れる機会はそれなりにあったはずだ。

しかし、とにかく高校生は忙しい。授業に課題、部活に行事、塾、プライベートだってある。そんな中で、正直「本」にコスパは感じて来なかったかもしれない。情報が欲しければSNSかYouTubeかネットで十分であると。事実、私も高校時代は本を読んだ記憶なんて一切ない。読みたいという衝動に駆られたことすらない。

だからこそ言おう。時間のあるいまこそ、情報が飛び交ういまこそ、「本」を読んで欲しい。「本」は、たった数時間で、何かしらに秀でた一流の人の一生分を疑似体験できるのだ。そして、様々な本にあたっていくたびに、帰納的に「本質」をつかむことができるようになるはずなのだ(この記事の最後にオススメの5冊を挙げておいた)。

目に見えるものに惑わされながら生きるのか、「自分がどう在りたいか」を大切に生きるのか、まさにいま、君たちは問われている。


③「異質な他者」という枠を超えろ。

巷ではデマが流れて、トイレットペーパーもティッシュもマスクもない。花粉症も大変だってのに。残念ながら、デマを信じた人もいれば、デマだと分かって買い占める人たちもいる。

同じくコロナの影響で休校に追い込まれたイタリア・ミラノの校長が生徒に贈ったメッセージだ。国の重大な政策決定にせよ、個人の購買活動にせよ、「木」を見て「森」も見る目が試されているのだ。

「今の状況で最もリスクが高いのは、社会と人間性を台無しにすることだ」

「人、本、旅」に出逢い、時間や空間を超えて世界を拡げてきた人たちにとっては、「わたし」と「あなた(=異質の他者)」の間に垣根がない。言い換えれば、「わたし」が「わたしたち」になっているということになる。

クックパッドや集英社、ローソンなどなど利益云々の前に、すでに社会のために早々に対策を講じている会社がいくつもある。仮にそれが広告目的だったとしても、「やらない善よりやる偽善」であると考える。そもそも、善か偽善かなんて、他者が推し量るものですらないのだから。

『君たちはどう生きるか?』の中で主人公コペル君が見つけた「人間分子の関係 網目の法則」ではないが、「異質の他者」という枠組みを超え、「社会の共同経営者」としての自覚と品格、そして行動力が問われるときなのだ。


④「自ら考え、判断し、行動する」ことは可能か?

「異質の他者を超える」ことについて書いたので、最後にもう一つの学園の教育理念である「自ら考え、判断し、行動すること」についても触れておこう。

そもそも、「自ら考え、判断し、行動すること」は、原理的に疑わしい。たとえば、仏教の「諸法無我―すべては繋がりの中で変化している」という考え方に照らせば、自分という存在すら主体的な自己として存在するものではなく、互いの関係のなかで"生かされている"存在であることに気付く。自分とは、「社会の写し鏡」なのである。

すべてを主体的に考え、判断し、行動することなんてできない。だからと言って、思考停止して身動きが取れなくなるのは、本末転倒だ。

東京大学名誉教授で開成高校校長の柳沢幸雄氏は「better selection under given conditions」という言葉を用いる。中国の言葉で言い換えれば「人事天命(人事を尽くして、天命を待て)」ということだ。与えられた環境下で、最善を尽くすことこそ、私たちの使命なのではないだろうか。


波乱の状況下で大学受験を経て、いよいよ卒業を迎える22期生。最後の2年間は関わることができなかったけれど、晴れ舞台で君たちの成長を目に焼き付けます。有り難う。

受験生となる23期生。今年は濃厚接触だったね(笑)君たちの圧倒的な「あたたかさ」は、きっと世界を救う力になる。まずは、目の前の一日を大切に。これからの成長も楽しみです。有り難う。

勝負の春休みを迎えた部員たち。練習ができなくなったことを嘆きつつ、それでもいま自分たちがやるべきことを考え、歩みを止めない姿勢に、正直に胸を打たれました。有り難う。


いまこそ、学園の理念を具現化するときだ。学園生としての誇りと真価が、新型コロナウイルスによって、改めて試されているのだ。


最後に、敬愛するマハトマ・ガンディーの大好きな言葉で締め括りたい。

あなたがすることのほとんどは無意味であるが、それでもしなくてはならない。そうしたことをするのは、世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられないようにするためである。




【いまこそ読みたいオススメ本5選】

レベル(難易度)を独断で★5つ分で表してみた。しかし、どれも高校生の現代文で出てくるレベルなので読破できると思う。いまだからこそ、本質に迫る良質な文章に触れて欲しい、というのがこの記事の主旨である。

本来、本は自分が読みたいものを読むべきだし、読みたいと思えるタイミングにも個人差がある。この中からビビッと来たものがあれば大変嬉しい。なければ、いつでも直接話そう(笑)


1.『時に海を見よーこれからの日本を生きる君に贈る』渡辺憲司著:2011年、東日本大震災によって卒業式が中止となった際に、立教新座高校の校長が生徒たちに発したメッセージ。震災から9年の節目にも。(レベル★★☆☆☆)


2.『答えのない世界を生きる』小坂井敏晶著:学校と社会で決定的に違う点に、答えのあるテストがあるかどうかでもある。「考える」とは、どういうことか。前出の出口先生も「1冊学生に薦めるとしたらコレ!」と仰る、珠玉の一冊。(レベル★★★☆☆)


3.『勉強するのは何のため?』苫野一徳著:「わたし」を「わたしたち」にしていくために。中高生にもわかる「自由の相互承認」。担任を持っているときには、いつも学級文庫に置いているくらい、みんなに読んでほしい本。(レベル★☆☆☆☆)


4.『その悩み、哲学者がすでに答えを出しています』小林昌平著:「1人じゃない」と思えたとき、人は勇気と自信を持てる。哲学するとは、「共同体感覚」を養うことにも繋がる。悩める高校生に。(レベル★★★★☆)


5.『わかりやすいはわかりにくい?』鷲田清一著:「生きるうえでほんとうに大事なことは、わからないものに囲まれたときに、答えがないままそれにどう正確に処するかの智恵というものだろう。」序章より(レベル★★★★★)


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