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センセイから見た「SDGsトイレットペーパー」誕生ヒストリー③

このnoteでは、一人の高校生の想いを具現化するために奔走してきた1年間の取り組みを紹介している。最終回は、中高生が自分でプロジェクトを進めることの意義について綴りたい。前回までの記事はコチラ。


中高生は「自分モード」で歩んでいるか?

高校生の原田怜歩(らむ)は、大人たちの力も借りながらクラウドファンディングにも挑戦し、「トイレからジェンダー課題をはじめとしたSDGsに関心をもってもらい、ノーマライゼーションという言葉がいらない世界を目指す」というビジョンに向けて、第一歩を着実に踏み出した。

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自分の興味関心や課題意識に蓋をせず、とことん考え、行動するという意味で、一つの探究的な学びの形になった。一方、「このプロジェクトはあくまで怜歩というキャラクターだからこそできた」と一蹴してしまっては、一過性のムーブメントに収斂してしまう。個別最適化が叫ばれる時代において、生徒たちのポテンシャルを最大化するために必要なことは一体何であろう。

そもそも、どれだけの中高生が「自分モード」を自覚できているだろうか。中高生と関わっている肌感覚でも「なりたい自分/ありたい自分」を認知できている割合は決して高くないと感じる。というか、「自分モード」とか「他人モード」とか、そういうことをメタ認知できている中高生は多くないだろう。それ自体は悪いことではない、というか無理もない。彼らは、置かれている立場ゆえ、見ている世界はあまりに狭く、小さいからだ。


なぜ日本の若者の自己肯定感は低いのか?

中学高校の役割は、次のステージで「なりたい自分/ありたい自分」を見つけられるよう、そのための基礎力やスキルを身に付けさせることまででなのかもしれない。世界を席巻するGoogleでさえ、研修としてSIY(Search Inside Yourself)を行い、自己理解を深めることに投資している。

僕個人がこのような疑問を抱いている背景には、日本全体が抱えているキャリア課題がある。厚生労働省(2018)によると、就職3年以内の離職率は、大卒で3割超となっている。

また、内閣府(2019)によると、世界各国で若年層の意識比較を行ったところ、日本の若者の「自己肯定感」や「自己有用感」の低さが浮き彫りになった。2つの調査は無関係とは思えない。

離職率が高くなっている背景として様々な要因が指摘されているが、その一つには「自分がやりたいこと」よりも「他者(社会)に求められること」を重視しすぎてしまっていることが挙げられる。

「自己肯定感」という点については、「KY」「出る杭打つ」的なハイテキスト文化の日本の学校では、未だに横並び精神がはびこっている。中高生は学校以外のコミュニティに属することは稀であり、狭くて画一的な人間関係の中で、人に嫌われずに生きていくためには「自分らしさ」を封じ込めなければいけないという現状も一つの原因だろう。

また、子どもたちを取り巻く環境の中で、彼らは有形無形に「偏差値・大学・就職先」というヒエラルキーを意識せざるをえないことも関係しているだろう。ベルトコンベアに器用に乗り続けていないと「再起不能」の烙印を押されるという強迫観念が、有形・無形に植え付けられている。

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Pinterestより引用>

公教育というシステム自体が生まれた背景として、そもそも優秀な工場労働者を生産するという思想が横たわっている。こうした社会構造を疑問に感じた一条校やオルタナティブスクールの出現によって、150年続いた「工場順応型学校モデル」は草の根的に揺さぶられている。

教育従事者は、個の生徒だけでなく、日本社会が抱いている課題を直視してきただろうか。次のステージに、課題を先送りして来なかっただろうか。少なくとも、僕は猛省している。

なお、「偏差値・大学・就職先」という考えを一方的に否定している訳ではない。生徒たちの自己実現の手段として、これらは未だに重要な役割を担っている。しかし、学歴・職歴を手に入れないと大変だ!という強大な「恐れ」を生徒たちに植え付けることに疑義を呈している。手段と目的を混同してはいけない。


生徒一人ひとりの自分モードを取り戻すために

教育の目標は「自立」であり、「幸せ」ではないのだろうか。神戸大学等の調査(2018)によると、幸福感には学歴や収入よりも「自己決定」が大きく関係しているというエビデンスもある。また、社会に出てからのパフォーマンスは学歴や知識量ではなく、コンピテンシーが左右するというデータもある。

僕は私学に勤めているので、出口としての大学合格実績は無視できない。しかし、そこに至るプロセスとして、「ただ大学に受かって数字を出せばいい」というのは、あまりに早計な暴論である。生徒の未来を、大人の手段にしてはいけない。

このように書くと、「フィクションだ!ファンタジーだ!」というご批判もあろうかと思うが、生徒たちが「勉強しなければいけない」という外発的動機(=他人モード)から、本来誰しもが持っている「知りたい!学びたい!やってみたい!」という内発的動機(=自分モード)を取り戻すことで、結果としての大学合格実績は、大きく飛躍すると信じてやまない。アメリカ・サンディエゴのHigh Tech Highや鳥取県の青翔開智学園の取り組みは、一見に値する。

GIGAスクール構想で1人1台タブレットの時代がやってきたとはいえ、現行の学校の仕組みだけで生徒一人ひとりの「やりたい/なりたい」をすべて網羅するのは極めて困難である。ただでさえ教師の忙しさは世界一の日本だ。だからこそ、学校を社会を繋ぎ、社会のリソースも学校に取り入れながら、「開かれた学校」を築き、生徒の自分モードを取り戻したい。

幸いにして、勤務校では生徒たち誰も彼もを偏差値で測ることをしない素晴らしい風土を築いてきた。それは、教師も生徒も「自ら考え、判断し、行動すること」と「異質の他者を認めること」を大切にしてきたからだろう。

怜歩のほかにも、チャレンジの種が萌芽しようとしている。すべての生徒が「自分モード」で幸せに生きていくため、土壌を培っていきたい。そして、多くの中高生にとって、このトイレットペーパーが勇気を与える水と栄養になれば嬉しい。

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