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渡仏一年目を振り返る(ゼロからのスタートでどこまで辿り着けたか)

先日、1年間働いたレストランを退職しました。

フレンチの知識もないし、フランス語も全く喋れない。文字通りゼロからのスタートでした。でもここまでどうにかなったし、数ヶ月後には部門シェフまで上り詰めました。 

本当にたくさんの苦労がありました。

まず、言語の問題。

フランス語を理解できないので、シェフが何言っているのかわからない。渡仏2週目にはすでに仕事を初めていたので、勉強する時間もあまりありませんでした。もちろん語学学校になんて行かなかった。

初めての出勤日の帰り道、絶望に打ちひしがれていたのを今でも鮮明に覚えている。シェフの言っていることが何一つ理解できなかった。これからどうやって働いていけばいいのだろう。レシピが何を意味するのかさえ理解できなかった。まな板ってなんていうだっけ、茹でるってどういうんだって、、、、

とりあえず、ここで立ち止まっていては意味がない。せっかくフランスに来たのだから、やれることはやろう!とその日の夜から、フランス語の猛勉強を始めます。

調理器具と野菜、調味料をフランス語で書いて自作レシプブックの表紙に貼り付けておいて、すぐにその単語に辿り着けるようにした。

シェフが言っていることがわからなければ聞き直す、わかったふりは絶対にしない。キッチンでわかったふりして、指示を無視して仕事を進めると命取りになる。毎日緊張感を持って、神経を研ぎ澄まして仕事をしていました。忙しいサービスの中、何度も聞き直してなんかいられない。集中して、シェフが何を言っているのかすぐに理解する必要がありました。

言語を習得する上でとても興味深いなと思うのが、効率性です。

人間、必要に迫られると飲み込みがとても早くなります。それを知らないと生き残っていけない、自分から発信しないと相手がわかってくれない、そのような状況にいると、本能的にかつ効率的に物事を学んでいこうと脳が働きかけます。ランニングハイみたいな状況で、もうそこから上がって行くしかないし、苦労を苦労と思わずに何もかも楽しめるようになります。そうなったらもう自分の勝ちです。好奇心を解放して、好きなだけ学んで全部自分のものにしていけばいいのです。成長を感じる快感は中毒性があります。

でも実際にそのような状況、環境に自分を持って行くのはとても難しいし、何より怖い。自分自身を快適なスペースから抜け出させるのには、莫大な労力が必要だと思う。

今ある全てを失ってでも、そのような環境に自分自身を置けるのか。

難しい、とても難しいと思う。

経験や修行、キャリアの為に、と何もかも犠牲にすることなんてできない。自分の今の環境に満足いっていなくても、変化が必要としていても、劇的に環境を変える勇断を下すのはとても難しい。色々天秤にかけて、やらない理由を見つけて、結局みんなと同じこと、似たようなことをしている。

僕の場合はとてもラッキーだった。

ロンドンにワーホリで滞在していた2年目の後半、帰国が迫っていた時に今のフランス人の奥さんと出会う。

彼女はこれからインドで数ヶ月ボランティアをする、ということだった。その後地元の北フランスに戻る、と。

迷っている時間はなかった。僕は彼女に、ビザが取れ次第すぐにフランスに行くよ、というか引越しするよ、と伝えました。

その時は仕事や言語のこと、その後経験する苦労のことなんて一切考えていなかった。

ただこの出会いを信じてどこまで突き進めるか、変化を求める勢いとチャレンジ精神だけだった。

イギリスのビザが切れて、帰国しフランスへのビザを取得する頃には、丁度彼女もインドからフランスへ帰る時期になっていました。

フランスで再会できた時はとても嬉しかったです。イギリスでの出会いが、日本の沖縄、インドのバンガロールを経てフランスで再会する。やっと、離れ離れじゃなくて一緒に過ごせる。


しかし、ただ滞在するだけでは意味がありません。旅行ではないし、実際にその地で「生活」していかなければなりません。

それでも僕にとっては再会できたことが何よりも嬉しかったし、今後苦労するであろう経験なんてどうにかなるだろう、と常にポジティブでいました。

そして実際、どうにかなりました。

風のように過ぎ去った一年ですが、本当にたくさんのことを学べたし、大きく成長できたと思う。

仕事は3ヶ月目から、同僚のいっていることがわかるようになり、サービスのスピードにも慣れ、ようやく料理のテクニックや技法に集中して仕事ができるようになって来ました。毎日一生懸命にメモをとって、家で復習して、と勉強を欠かしていませんでした。そのような努力も報われ、部門シェフchef de partieにならないか、と昇進の誘いをもらいます。シェフ、セコンドの次に責任のあるポジションで、前菜、焼き場、デザート、仕込み全てをこなし、同僚にも指示を出さなければいけません。正直自分には少し早いかな、と感じていましたがそのオファーを受け入れることを決意します。

その後の忙しいクリスマスシーズンも乗り越え、日替わりメニュー(Plat du jour)も担当させてもらうことになり、ゆずやわさび、抹茶といった日本の要素をフレンチに取り込み、お客さんからダイレクトに「美味しかったよ」といってもらった日は、喜びを噛み締めていました。

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Thon rouge mi-cuit au sésames sauce ponzu, riz basmati et fenouil fume



あっという間に年も明け、少し暖かくなり始めた3月の春先、コロナウイルスの感染拡大がフランスにも及び、僕のほぼ全ての活動が停止してしまいます。レストランは3ヶ月間閉店を強いられ、僕もロックダウンで自宅待機をせざるを得ませんでした。

渡仏当初からずっと全速力で走り続けていたので、最初はこの空白期間をどう埋めていったらいいのかわからなかった。一気に足止めを食らった感じだった。

でもロックダウン中にブログを書き始めたし、今までの自分を見直す、貴重な時間になった。

今後、自分が本当にどうしていきたいのか、どのように生きていきたいのか。

渡仏当初抱いていた理想像とは全く違う方向に向かっていることに気づいた。

環境の変化があれば、自分の価値観も変わるのは当たり前。でもその変化に気づき、うまく紡いで後に生かしていけるのかが大事だと思う。

ロックダウン後には、彼女と籍を入れました。

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ビザとか、結婚の書類とかもうコロナでごちゃごちゃになってて、相当苦労したけど無事に籍を入れることができました。

期限の切れるはずだったビザも職場のオーナーの計らいで延長させてもらい、周りの人の協力で奥さんと離れることなく一緒に過ごすことができました。当時は、ビザの期限のせいで日本に帰国しなければならないと思っていた。もしそうなると、再入国はとても難しいし何より時間がかかる。ラッキーだった。

本当は、今年に結婚式もあげる予定だったんだけどそれも来年に延期しました。今は日本からの家族や友人が渡仏できる状況ではない、という判断をしました。

ロックダウン後は、籍を入れたり新しいお家に引っ越したり、と新しい生活が始まって、とても嬉しく思っていました。

仕事にも無事に戻り、ロックダウン前とは大きく状況が変わっていたが、何より働けることが嬉しかった。

そしてやっぱり家族や友人とレストランで食事をして、お酒を飲んで、楽しいひと時を過ごすって特別なことなんだな、って思った。料理だけじゃなくて、サービスやお店の雰囲気が加わり、それが一つの経験になる。

こんな時だからこそ、レストラン、外食産業の大切さを痛感しました。



実はこの記事を書いているまさに今、僕は無職状態です。先月、職場のオーナーに辞職届を出しました。1ヶ月残ってくれというお願いを承諾した上で、最後まで勤め上げた。その最後の出勤日が昨日になります。

フランス語も喋れない、フレンチの知識もそこまでない日本人の僕を雇ってくれたオーナーにはとても感謝をしています。彼の寛大さのおかげで、型にはまることなく大きく成長することができた。いつも僕に優しくしてくれた。

でも一年経った今、僕は新たな変化が必要だった。人の移り変わりの激しい飲食店の中で、たった一年とはいえ、僕はたくさんの人を見てきた。

今のチームでは成長できないし、もっと挑戦できる上のレベルで勝負したいと思っていたのです。

他のレストランから、採用の話をもらっていたのだけど、それもコロナの影響で流れてしまいそうです。

感染再拡大の為に、リールのレストランを閉めるという話まで出ています。このような状況のため、採用を後ろ倒しにしたいという連絡があったのです。

正直、とても残念だった。新しい挑戦に燃えていて、ようやく辞職したところだった。1件目より、二件目のレストランでの経験の方が重要だと考えている。理想的な職場だったのに。

今まで学んだ基礎に、日本人としてのアクセントを取り入れ応用したり、もっと多面的に料理を極めていけると思っていたのに。

またコロナのせいで足止めを食らってしまった。この採用がいつになるかわからないし、そもそもなくなるかもしれない。

行く先が霧に覆われていて、逆風でまったく前に進めない。

渡仏してからの一年は風のようにあっという間に過ぎたけれども、今は本当にゆっくりと時が流れていく感じがする。

焦りや圧力を感じているけど、自分自身も少しゆっくりするべきなのかもしれない。

こればかりは仕方がない。


人事を尽くして天命を待つ。


今できることを一つずつこなしていくしかないな、と感じる渡仏2年目です。


あなたのサポートで新しいことに挑戦して、またnoteでシェアしたいと思います!ありがとうございます!