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Ep.1 五色ヶ原(1)

夏にとある雑誌で五色ヶ原という場所を知った。

どうやらそこは山に囲まれた開けた台地で天空の楽園のような場所らしい。

楽園と聞くとアラスカで出会ったレイ爺さんから聞いた話を思い出す。
僕は大学卒業間近の春休みにアラスカへバックパック1つで旅に出ていた。詳しくは後にnoteにしようと思うが、そこで出会ったレイ爺さんに「夏のアラスカは知ってるか?」と聞かれ「いや、知らない。」と答えた僕に対してレイ爺さんは大きく息を吐くようにこう言ったことを覚えている。

「It's a paradise」

その時のレイ爺さんのまるで昔の甘い想い出を思い出すかのような悦に浸った表情は印象的だった。

雑誌の「楽園」の2文字を読んだ時の僕の気持ちはその時と近いものだった。そこには何があるのか。どんな気持ちになるのか。どんな写真が撮れるのか。行きたくて仕方なくなる。

そして秋が深まって来た今、テントとカメラを背負い立山に向かう。

五色ヶ原へ

立山室堂 から一の越山荘までの道

立山駅からケーブルカーで美女平まで行き、そこから高原バスで室堂ターミナルまで一気に駆け上る。

高度が上がるにつれて植生がどんどん変わっていく。時間の進みが山と下界では全く異なる。山はもう晩秋を迎えていた。

絵の具のパレットを岩山にそのまま押し当てた様な景色が登山道からずっと続く。幸い立山に滞在した3日間は全日天候が安定しており非常に過ごしやすかった。

快晴だった

まずは一の越山荘を目指す。テント寝袋カメラ機材と衣食住+撮影機材が入ったザックを背負い一の越山荘までの長い石畳を登る。一歩、一歩と歩みを進めるたびに背中の85Lのザックがギシギシと揺れる。
室堂ー五色ヶ原の往路でこの石畳の坂が一番きつかった記憶...。

何度も休憩をはさみ、ようやく一の越山荘に到着。
すかさず水分補給と行動食を口に含む。
一の越山荘を過ぎた後はアップダウンの激しい登山道を行くことになる。
鬼岳東面まで下り、そして獅子岳まで登る。急斜面のザラ峠を下り、五色ヶ原まで上がる。

時折ガスが出たり視界が開けたり、アップダウンしながら目まぐるしく変わる立山の風景を楽しむ。

すれ違うハイカー達とそびえたつ雄山
目まぐるしく変わる風景を楽しむ

足どりがどんどん重くなっていき、まだかまだかと思っていると遂に目の前に木道が現れる。
「やっと五色ヶ原に着いたんだ」
安堵と達成感で一気に身体が軽くなるのを感じる。

五色ヶ原到着を意味する木道


先客

木道を突き進んでいくと一気に視界が開け、遠くでテントを設営しているハイカーたちが確認できた。

僕は室堂を出発するのがだいぶ遅かったので、最後の方の到着だった。皆、思い思いの場所にテントを設営し、夕飯の準備中。

思い思いの場所に皆テントを設営する

僕もせっせとテントを設営し、夕方と夜の撮影に備える。

それにしてもこの五色ヶ原という場所。
立山の中にポッカリと浮かぶ台地の上にあり、
"まさに山に囲まれている"という言葉が当てはまる場所だ。
何処となく北の原野を思わせるような風景で、自分自身が1つのパズルのピースのように風景の中に、生き物として組み込まれて行くのを感じる。
自然という広い空間に身を置くと、開放感となんとも言えない緊張感を抱いてしまう。特に人々から離れれば離れるほどその緊張感が大きくなっていき、"生き物として生きている"ということを強く実感する。僕はこの感覚が凄く好きだ。忘れていた人間という生き物がどれだけ弱い生き物なのかということを思い出せるからだ。

五色ヶ原ではこの感覚を少し思い出すことができた。
さて、夕方と夜の撮影に備えるとしよう。

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