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忘れられない恩師の言葉

日本の冬は寒い。2023年1月1日も例外ではなかった。
新年が始まったからか、街はひんやりとした風が吹いていたが、活気だっていた。

一方、私たちは殺伐していた。そして心は燃えていた。
なぜなら明日は佐野日大とのベスト8を懸けた試合だからだ。

そう。私たちは東京で行われる全国高校サッカー選手権大会に来ていた。

気持ちの高ぶりが収まらない中、前日のミーティングを終え、部屋に帰ろうとした。

チームメイトが殺到し、混雑状態のエレベーターは避け、
みんなが居ない一つ後のエレベーターに乗る。

そして、上の階を押して扉を閉めようとした。

すると、監督の姿が見えた。「あーごめん、ごめん」

気が付かないフリをして閉めてやろうかと思ったが、流石にできない。

「監督、どちらの階ですか?」
結局、監督がエレベーターに乗った。

そして特に話すこともなく、沈黙が3秒続いた。

なんとも言えない、監督の独特のオーラが小さな空間を支配していた。

すると突然、監督が口を開いた。
「どうだ。最近、勉強の方は?」

(私は大学にスポーツ推薦で進学するのではなく、一般受験で行くことに決めていた。)

「今は選手権の期間なんで、勉強はあんまりできていないですけど、サッカーには集中しています!」

私の言った受け答えは決して間違っていなかったと思う。

しかし、思いも寄らない言葉が返ってきた。
この言葉を私は決して忘れない。




私は履正社高校に所属していた。
この年の履正社はU18高ノ宮杯プレミアリーグwestでも残留を果たし、
インターハイでも大阪No1に輝いていた。

少なからず、シーズンを通して手応えを感じていた。

日本一なれるぞ。選手だけでなく、スタッフを思っていたはずだ。
監督も日本一を期待していたに違いない。

だからこそ、この選手権には懸けていた。

「最高のパフォーマンスをするために、やれることはすべてやろう。」
「準備に関しては誰も邪魔をしない。誰も邪魔しないこともできないで、相手が邪魔をしてくる試合中に最高のパフォーマンスが出せるのか」

これが私たち指揮官の口癖だ。

それだけ、準備に関しては口酸っぱい。
(これに関して異論はない。まさにその通りだ。)

選手権期間中も、リカバリー、栄養、サプリ、最高の準備をしていた。
というより、トレーナー、監督の指示のもと、サッカーに完全に集中できる環境が用意されていた。

それに加え、
記者が取材に来る。テレビ中継もある。スタンドでは応援団の吹奏楽部が素晴らしい音楽を奏できくれる。注目度が高い。本当に幸せな時間だ。


必ず日本一になる。そのために、コンディション面に気を使い、相手の分析を徹底的にやる。
選手権期間中に勉強なんかしていては、後悔する。そう思っていた。
ほかにもできることはある。最高の準備をしなければ・・・



「今は選手権の期間なんで、勉強はあんまりできていないですけど、サッカーには集中しています!」

「そうか・・・。」
「・・・(沈黙)」
「それってできない理由を探しているだけなんじゃないか。
 ○○だからできない。そういう人間になってねえか。」

「・・・。」
予想外の言葉に返す言葉がなかった。


そうこうしているうちに、自分の階についた。
「失礼します・・・」
そう言って、エレベーターを降りた。

部屋に帰ったが、監督に言われた言葉が脳裏に焼き付いていた。
「できない理由を探しているだけ。」
「言い訳を作って逃げているだけじゃねえか。」

選手権は夢の舞台だ。今は選手権に集中しよう。そう思っていた。
監督もそうに違いない。

だが、指揮官、いや教育者の立場を忘れない。
そんな姿に感激を受けた。



その後、

私たちの日本一という夢は終わった。
夏のインターハイ、冬の選手権、両方PKに泣いた。

個人的には当初、目標にしていた最低ラインの大学には入学できた。
それも先生方のサポートのおかげだ。
朝7時から個別授業をしてくれた先生もいた。
そういった方のサポートを受けて、大学には入学できた。


現在、
大学で教職課程を取っている。
驕り高ぶった半人前の青年を本気にさせる。
自分の殻を破らせる。
希望を持たせてくれる、そんな憧れの人になるために。



「できない理由を探すな」
挫けそうなとき、そんな声が聞こえてくる。

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