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「醤油の味しかしない」

今、大阪に行く途中の新幹線。大阪で彼女に会うのだ。美味しいものを食べる。大阪といえば、商と食い倒れが有名だ。

何度か足を運んで、ご飯を食べたんだけど、どれも抜群に美味しい。たこ焼きもお好み焼きもカレーも焼肉も美味しい。男子中学生が好きな食べ物ならだいたい網羅してる。とりわけ、ラーメンは格別だ。大阪のラーメンは上品なのだ。透き通ったスープなのに味が濃い。あぁ、僕の文章力じゃ大阪のラーメンを上手に伝えることができない。

大阪に行くたびににラーメンを食べるのだが、美味い美味いと麺をすすった後に考えるのはいつも「O」のことだ。

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Oは僕が新卒で入った会社の同期だ。彼はコテコテの関西人だった。なんでも、ツッコもうとしてくるし、その上、彼を弄ろうとすると本気でキレてくる。私服は全身和柄(昇り竜みたいな奴)だったし、車の運転は荒かった。

「東京の奴らはおもんない」が彼の口癖だった。

Oと僕は言わば「犬猿の仲」だった。それもそうだ。東京では2人しかいない同期。言わばライバルなのだ。仲良くなることだってあるが、僕もプライドが高い。いつも喧嘩していた。

アイツは東京に来てからというもの、日に日に大阪を強めてった。具体的には「なんでやねん」が「なんでぇやららあねん」と舌を巻き出したのだ。挙げ句の果てには「日本の首都は大阪やで」と虚言まで言い出したのだった。

そんな、Oとはアパートが一緒だった。良く部屋で酒を飲んだり(Oは特技が料理だ。美味かった。それだけは認める)2人でご飯に行った。

「美味いラーメン屋連れてってやるよ」と僕は東京で有名なラーメン屋へOを連れてってあげることにした。アイツに東京のラーメンのうまさを教えて、負けを認めさせたかったのだ。

ラーメン屋に入り、僕とOは仕事の話やスーパーカーの話をした。彼は車やバイクが好きでそこだけは意気投合した。「俺は将来GT-Rに乗るねん」と言っていた。「お前の運転じゃ死ぬでしょ!」なんて笑ったら本気でキレられた。僕はそれを逆立てるように声を上げて笑った。

ラーメンが来た。ふふふ、、Oよ!東京のラーメンの美味さを思い知るが良い!!

しかし、感想は僕の予想を遥かに覆したものだった。「うわ!これ、醤油の味しかせんわ!出汁の味がせん!」

僕は愕然とした。東京で1番美味いラーメンを醤油の味しかせんと言うのだ。

そして、アイツは「大阪のラーメンはな?出汁が効いてんねん。東京のは出汁が効いてへんねん」と、とどめをさしてきた。

僕は心底ムカついたが、またアイツの大阪ヨイショだろうなと思い無言でラーメンをすすった。

そのすぐ後、彼女が転勤で大阪に行くことになった。当たり前のように僕も大阪へ会いにいくことが多くなった。

そこで、彼女は「美味しいラーメン屋あるから行こうよ?」と誘ってきた。
それで僕は、Oを思い出した。

「東京のは出汁がきいてへんねん」

また、ムカついた。しかし、ちょうど良かった。百聞は一見にしかずだ。僕は東京のラーメンが1番美味いことをこの口で証明するのだ。



・・・しかし、結果は完敗だった。いや、東京のラーメンだってめちゃくちゃ美味い。行列になる理由もちゃんと味なのは分かる。しかし、少なくともぼくとOが行ったラーメン屋よりも格別に美味かったのだ。

その後も違うラーメン屋で食べてきたがどれもめちゃくちゃに美味かった。


しばらく経って、会社に仕事を辞めることを伝えた。それを知ったからかOは「一緒に飯行こうや」と誘ってきた。僕らは夜の大井町に繰り出した。こういう時って、飲み屋に入るものなんだけどぼくらが入ったのは「大阪王将」だった。なんでかは思い出せないけど、次の日も仕事だったのかな。

王将に入ったものの、Oは僕の仕事を辞めることについて一つも触れないのだ。「辛気臭いの嫌やねん」といつも言ってたから多分そういうことだ。でも、僕はそのことについて話したかったけどあの関西人は次から次へと話題を出していった。ひとつだけ「俺、大阪に帰りたいわ」「大阪でスペインバルやりたい」と言う話をしていたのは覚えてる。

アイツは散々、人のことを乱暴に扱ったり東京のこと馬鹿にするけど、夢についてだけは一つも馬鹿にしなかった。「こんな、音楽作れんねや!スゴいやん!」って言ってくれた時はこいつそんなこと言えるんだ。と思った。

会計で、財布を取り出すと、「いらん、ここは俺が出す」とぶっきらぼうにお金を出して出て行った。

帰り際、マッドマックスの話とGT-Rの話をした。その流れで「お前のチャリカッコいいよな!形見として俺にくれよ」と僕のロードバイクを指差して言ってた。それまでも言ってくることはあったが、僕は頑なに「なんでだよ!」と断ってきた。

しかし、なぜか僕は「5000円でやるよ」と言ってしまったのだ。多分、アイツを拍子抜けさせたかったんだと思う。アイツは「ほんま..?ほんまにええのん...!?」とめちゃくちゃ喜んでいた。なぜか、僕は勝った気になっていた。


Oが仕事を辞めたことをこの間、風の噂で聞いた。大阪に帰ったらしい。今、アイツを思い出してもムカムカすることはたくさんある。でも、なぜか忘れられない友達の1人だ。見事に僕の関西人像を作り上げたのだ。

大阪で何してるかは分からないけど、スペインバルでもやってくれてたら絶対に行こうと思う。言うことは決めてる。

「醤油の味しかしない」と。



浅戸梁
「常-いつも-」各種配信サイト、サブスクで聴くことができます。

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「アメリカンスピリット」MV

https://youtu.be/rnVjAakZDL0

「ギブソンギター」

https://youtu.be/-dSEbWfCXtE

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