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かつて、彼女の描く大人の日常に憧れたことを思い出して~江國香織・森雪之丞『扉のかたちをした闇』を読む~

 1番好きな作家は江國香織と答え続けて、そろそろ10年くらいが経とうとしている。最近になって「今全てを読み返したらどう感じるか?」みたいな疑問が沸々と湧いてきたので、「『泣く大人』とか『泣かない子供』あたりから読み返そうかな?それとも女性遍歴について思い返すヒントなら『思いわずらうことなく愉しく生きよ』あたりかな?」とか考えながらAmazonを検索してみると、最初に出てきたのは偶然にも読んだことのない本だった。

https://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/4094070389/ref=tmm_pap_swatch_0?ie=UTF8&dib_tag=se&dib=eyJ2IjoiMSJ9.UaXsF-qpMfsAs7UItKx-G-_pqetDHlKHWRc5mVragmFFJxGUxOA7-kbhlvAO9mz3MISWRMLoO5JoA5JPIEzSTvSfwdMvOBh-erfOFbn0_3hzGwnBwSpQz8_5Sfhn11ZSBZO4yOjv8IGCBeFcssvZBIDvwEdB8FMxfIRkBV9eKI53yjAb_DkPT-N1cNcFFiSdi2TCAL_Bel9WX_nrZ70F6g.0xzb-tc1oWx7LR9tq3dfy5CIbZssZZm48XjxSDrjPJQ&qid=1721133801&sr=8-3

(どうでも良いですけど、AmazonはKindleになってないと綺麗にURL貼れないみたいですね。)
 森雪之丞さんって有名な作詞家だよね?くらいの認識で買ってみたけど、あとから調べてみたら紛うことなきヒットメーカーな方でした。失礼いたしました。彼が書く詩はそのほとんどに、なんだか曲が聴こえるような気がする。

 さて、お目当ての江國さんの方はと言うと、森雪之丞さんと対比して、男性と女性を交互に感じ、より江國さんの書く女性的な感性を味わうことになった。これがまた、すごく懐かしく、中学生の頃からよくこんな文章を好きと言えたなと我ながら驚いた。

私はただ、ここにある世界を言葉にしているだけです。

江國香織・森雪之丞『扉のかたちをした闇』

 江國さんのこの発言について、森雪之丞さんは大変驚いたという。

だって退屈で煩雑なこの世界を、切なく愛しくスリリングなワンダーランドに変貌させてしまう江國さんの詩の根源が「ただ言葉を写し取るだけ」なんて、目から鱗が落ちました。

江國香織・森雪之丞『扉のかたちをした闇』

 この部分を読んで、昔から、なぜ江國香織という作家を好きと言えるまでになったのか、少しわかった気がする。男女の愛や自堕落な性だけでなく、例えば帰り道の風景とか部屋の様子など、日常を描写している言葉が、とても美しかったのだ。そして、むかしの自分は、そんな日常に心の底から憧れてたのだろう。

 この文章を書いてて、最近忙しなく自分を追い込んで、戦っていることを改めて自覚した。疲れたり、焦ったり、気分が落ち込んだりなんて、しょっちゅうである。それでも、その度に自分を奮い立たせるのは、当時憧れた江國さんが描く穏やかで、美しい、日常の一瞬を手に入れるためなのかもしれない。目標を達成して、少し心が休まったら、自分の日常に対して、江國さんのような言葉で一瞬を感じる時が来るかもしれない。今好きな江國香織作品を読んだら、感極まって泣くかもしれないと思って遠ざけてたが、おそらく自分を追い込んでいる今こそ、江國香織を読み直すべきなのかもしれない。

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