それがベストな旅に出るべき時
1年には7日だけ “ダウンベストを着るのに丁度良い気候” があるという。それは、春と秋の中のどこかに。
犬を散歩させているババアが、同じ境遇のババアと鉢合わせての井戸端会議高円寺オンザ路上。「まだ朝は肌寒いわね」「そうなの、上着をなかなかクリーニングに出せないのよ」こんな会話が私の右耳をかすめた。今日は、7日ある内の1日だろう。
袖の無いダウンジャケット。
東京の桜は仕事も終わりかけで、ゆっくりと散るアウトに向かっているあたりであるから、季節はジャスト春。
私は、仕事を投げて大きな公園に向かっている。
初めて訪れる『新宿御苑』。
平日の昼間。中に入って、まっすぐ行ったり、右へ曲がったり、ひと回りグルっと回ったり、後ろを振り向いたり、見直したり、考えたり、左へ行ったら迷ったりしてると、色んな年代の方々がいらっしゃいまして。ちびっ子は、お父さんお母さんの傍を走り回り、若者達はゴザを敷いて寝転がっている。米菓の香りのする方角にはババアのチーム。
ここにいる全員が、仕事より春を、いや、四季を優先する私と同じ了見を持っている、で、間違いないと確信させてもらう。皆、こうした方がいい。
「暖ったかくなったら、どっか旅行にでも行きたいねー、そのために頑張るか」って、正気じゃねぇね。
会社に向かう途中、仕事に向かう途中、ふと “ここで降りずに”、“ここを曲がらずに” どこかへ行きたくなる時、それがベストな旅に出るべき時。
キリギリスは、かつてアリのように働き狂い、そして、“歌を歌いたい時に歌えるだけ歌う” ということに幸せの基準を見出したのかもしれない。
「働かざる者食うべからず」
「あ、そうなんすか。じゃあ、あまり食べないようにするんで、あまり働かねぇスタイルでいきますわ」
出かけましょうよ。
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