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映画一本鑑賞したかのような、読了感を得る本 『狂女たちの舞踏会』

映画一本、観るくらいのつもりで。

2時間程度あれば、一息に読めてしまうかと思います。とは言え、時には全身に鳥肌が立ち、時には理不尽さに打ちのめされながら。

『狂女たちの舞踏会』ヴィクトリア・マス
仏:La Bal des Folles / Victoria Mas 

1885年のパリ。
舞台は現在もパリに存在する、サルペトリエール病院です。

この病院は19世紀末まで、「狂乱」したとされる女性たちが入院していた。言葉を変えれば、そこに監禁され社会から排除されていました。この物語は、そうした史実を元に描かれています。

ブルジョワの家庭に生まれた少女、ウジェニーは霊が見える。しかし、聡明な彼女は、そのことを打ち明ければ、社会からどんな仕打ちを受けるか理解していました。家族すら信用できず、自分が「普通」でないことを隠し、注意深く生きてきたウジェニー。

しかし、自分らしく生きることを希求するウジェニーは、やがて、自分の居場所となり得るものを見出していきます。

奇妙な瞬間だった。これまで考えていた世界、親しんできた確実なものが突然崩壊し、新しい考えが、別の世界を見せてくれる。これまで間違った角度からものごとを見ていた。だが、別の角度、もっと早くから見るべきだった角度が存在していたのだ。

『狂女たちの舞踏会』

しかし。

小説や映画にはそれが定番なのだろうけれど、あって欲しくない、そうならないで欲しい方向に物語は進んでいくのが、やはり辛い。

男性社会の中で、名家に嫁ぐことにしか価値を見出されなかった女性たち。議論することも許されず、腰にはコルセットを巻き、行動さえ制限されていた。そういった社会の理不尽さに、やりきれない思いがします。

それは、この物語に登場する女性たち、それぞれが抱えている痛みであり、悲しみでもあります。

一方、ウジェニーの「能力」、彼女の見る霊のこと。

それが、昔大ヒットした映画「シックス・センス」を思い出す、息が止まってゾクゾクするような展開を見せます。(誤解を招くといけませんね。決して、怖い本ではありません。)

誰もいないことと、うち捨てられたことは同じではない。(中略)亡き人たちがそばにいてくれると思うと、慰められる。死の恐怖や重苦しさが和らぐ。人の存在には意味も意義もある。死の前と後では何も変わらないのだ

『狂女たちの舞踏会』

この物語に登場する人々が抱える悩みや痛み。

それは、当時の社会環境だけが理由とも思えません。自分とは何か、人の存在意義とは何かという、普遍的な問いかけにも聞こえました。

「狂女」とされた彼女たちが舞踏会で踊る情景が浮かぶような本作は、早々に映像化も決まり、Amazon Primeで映画が配信されているようです。(私はまだ観ていませんが。)

まずは、スクリーン無しの映画鑑賞をするような気持ちで。ご興味があれば、是非本書を手に取って見てください。


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