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誰の料理ですか?

料理は楽しいに決まっていますよね。

私は料理本やネットで見つけたレシピを参考に、美味しそうな写真の通りに再現することが好きです。料理が成功したときの喜びは、まるで自動車やお城のプラモデルを精密に完成させた時のようなものです。

難点としては、料理を作るときに一つでも材料や調味料が足りないと、いちいち買い物に出かけたり、計量や火加減の調整に時間がかかります。でも、その苦労が報われ、作った料理が「作品」として完成したときには、やはり得も言われぬ感情が溢れ出すのです。たまに、アレンジしてオリジナリティ溢れる作品が生まれた時には、一流シェフにでもなったような気持ちです。

「人生はチャレンジ!チャレンジ!」と思う訳ですね。
……と偉い人からすれば青臭い人生訓みたいですけど、私は大袈裟にも、そう勘違いする始末です。

ある日、妻が膝の半月板を割ってしまい、緊急入院することになりました。

私は主夫モードに切り替え、冷蔵庫にあるものでやりくりしなければなりませんでした。豆腐や色んな種類の野菜、解凍した鶏肉などの食材があったので、テキトーにフライパンで炒め、焼肉のタレを加えて完成させました。勿論、味は焼肉のタレ味でして、不味くはなかったですが、特段、美味しくもなかったのです……。

やはり、「パーツ」がバラバラだと非常に難しいものです。何しろ説明書なんてないからですね。

2日目、3日目も同じような料理を作っていたら、さすがに子供からブーイングが出始めました。
「食事できるだけでもありがたく思えよ」と言い放ちたいところでしたが、これ以上、お父さんの評価を落とすわけにはいきません。私にも、みみっちいプライドがございますし。

そこで、実家の母に相談して筑前煮を作ることにしました。スマホの音声をオンの状態にして、食材の切り方から、温度調整のタイミング、調味料の加減等、まさにスマホライブ指示を受けながらの調理。
もしかして、chatGPTさんが、教えてくれるかもしれませんが、やはり和食は絶妙なややこしい加減がありますので、こういう時はAIよりは母の方が優秀に決まっております。

子供が帰ってくると、「今日は煮物を作ったから」と。しかしながら、「えぇ!」って絶望感の漂う表情。焼肉のタレ味風味の煮物だとでも思ったのだろうか?

夕食の時間です。

「わぁ、美味しい」と、ちょっと子供は過剰に驚いた様子……。
「焼肉のタレ味の煮物かと思ってたから」
やっぱり……。
そんな筑前煮なんて私も食べたくもありません。
「……そっかぁ。美味しくてなにより。お父さんだって、やればできる人だから」

そういった訳で、翌日は、超絶難易度の高いアジの南蛮つけ。南蛮つけは、作る人によって大きく味が変わる料理です。料理上手な妻ですら何回か作ったら、子供に母の南蛮つけとの味と残酷にも比べられてしまって挫折してしまったぐらいです。妻は洋風料理は上手でも和風料理は、おばあちゃん世代には、まだまだ敵いません。

母は長年の勘みたいなもので、調味料を美味しいだろうな的な目分量で入れていますからね。さて、アジにも数もありますから失敗はできません。当然、一発勝負は避けなくてはいけません。

ですので、今度はスマホのFaceTime(ビデオ通話)をオンにして、様子を見てもらいながらの調理。「もうちょっと、なんとかを足して」って具合で、やはりの目分量です。どうにか完成して、あとは夕方まで漬け込んでいたら大丈夫でしょう。

美味しいといいけどなぁ……。

さて、夕食の時間。ドキドキの瞬間です。そして、さすがに子供は、南蛮つけが目の前にあることに驚いております。
「はいはい、いただきます!」ね。
「あ!美味しいっ!すげぇ!」と息子は驚いています。
大成功です。さすが、FaceTime!いや、さすが、お父さん。

「お世辞じゃなくて、これ、おばあちゃんレベルだと思う」
「まぁ、そりゃ息子だから……」
さすがなのは、FaceTimeでもなく、お父さんでもなく、母でした……。

妻が退院するまで、そんなこんなで料理のバリエーションを増やしていきました。

それで、ありものから作るという難しさが楽しさに変わりましたしね。作品を作るのも相変わらず楽しいものですが、ありものから作る方が、もっとクリエイティブですし、母の味を、なんとなくは伝承したという少し誇らしい気分にもなりました。

とにかく、「作品」以外の幅も広かったのは何よりです。

妻は家庭の諸々が心配だったようで、少し早めの10日で退院帰宅。

「退院祝いに、焼肉でも食べようか?」と提案でもしようかと思いましたが、やめておきました。冗談としか思われないですからね。実際に冗談を企んだわけですけど……。

「昨日作った余物の肉じゃがあるし、炊き込みご飯もあるけど。あと一品、何か作ろうか?」
「ありがとう、和食系の『作品』なんて珍しいねー」

#料理はたのしい

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