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組織変革と労務と

1.今回のテーマ

「組織変革」という言葉、私が人事として働き始めた新卒1年目から聞く言葉でした。当時は新卒採用担当をしていたので、これから会社を変革できる人材を採用するんだという文脈のもと、あれやこれや考えておりました。

当時は人事という仕事の全体像もまだよく見えずでしたので(今も勉強中ですが)、労務という仕事の中身も当然まだよくわかっておらず、先輩方に聞いてもいまいちよくわからないという感じでした。

ですが、その後色々と人事領域で仕事をする時間が長くなるにつれて、この労務がいかに大切かを理解しました。また、とくに組織変革において労務は重要な役割を担っており、今後の労働市場やEXといった文脈の中でもその役割は一層高まるのではないかと思うに至ったので、今回はそのようなお話。

「組織変革」という言葉ですが、組織と変革の両単語が文脈により指すことが微妙に変わるので、とりあえず「人事(または近しい名前の組織)が主導し、何かしら組織の現状否定と再構築を目指す動き」としたいと思います。

今回のテーマは「組織変革と労務と」


2.労務は難しい

組織変革において、労務がなぜ重要だと思うのかを書く前に労務というものを自分なりに整理します。(私自身、労務がメインの人事キャリアではなかったので、深いところではなくポイントの整理程度ですが)

労務。企業によってその業務領域や深さ、オペレーションなどは異なってくると思いますが、多くの方がイメージされるのは給与・賞与関連や社員と企業間での色々な手続きを担当してくれるところという感じでしょうか。

こういった事務的な側面の印象が強いのか、HRトランスフォーメーション(人事機能・組織を再構築すること)やAI、RPAの導入検討時に労務というまるっとした言葉でその対象に入っていることが多いかなと思います。

もちろん、労務の中には固定化されたプロセスやボリュームだけが多い作業などもあり、仕組みによって効率化できるところも多いと思いますが、一方で、自分が思う労務の仕事とは「相手に向き合い、社員と企業をつなぐ仕事」だと思っています。

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人事企画と呼ばれる領域のテーマが「組織」や「人」という言葉を使うのが多いのに対し、労務の場合は「相手」と対象を個々人にフォーカスすべき点が大きな違いであり、忘れてはいけないところなのかなと思っています。
(タレントマネジメントの観点では人事企画も個人に着目していきますが、それは本人のスキルや思考といった側面で、労務はより個人のライフに関わる点が多いと思います)


労務の仕事を整理すると

①社員のライフに関わる
②企業と社員の向き合い方に関わる

仕事だと思っています。

①社員のライフに関わる
給与・賞与はもちろん、入退社・結婚・出産・休職などの個人のイベントに深く関わる仕事が労務です。だからこそ、社員からみた労務の付加価値はそういった対応をスムーズに行うだけでなく「何かあったときに頼れる」という安心感ではないかと思います。

給与の仕組みや税制でわからないこと、特別休暇の対象範囲、休職したい時にどうしたらいいのか(休職の理由も様々)など、その人にとって重要だけどよくわからないという部分をとりあえず労務担当に聞けるというのは社員の方からしたらとても安心だと思います。

また、これらの仕事はAIが進んだところでなかなか代替できない役割かと。
なぜなら「質問者自身が何がわからないのかわかっていない」「個人の状況に依存する問いが多く、場合ごとに判断が必要」なことが多いからです。

労務関連の相談を受けるとき、質問者自身がクリアに質問できないことが多いので、話を聞きながら相談内容を整理することがあります。加えて、個人の状況に紐づいて起きる相談事が多いので、自社内の過去の事例に当てはめることができず都度判断が必要になります。

その質問内容は、個人のライフイベントや日常の生活に関わるものが中心なため「わかりません」では片付かず、なるべく早く解決する必要があるものばかり。

なので、AIをベースとしたchatbot機能などでは、まだまだ十分にカバーできる内容ではないんじゃないかなというのが個人的な考えです。(もちろん代替可能性が0だとは言えないところですが)


②企業と社員の向き合い方に関わる
もう一点。これは多くの方には普段見えない部分かもしれませんが、企業というのはたくさんの人が集まっている場所なので、日々様々な特命事項やトラブルが起きています。他の方から目に見えてわかる事例もありますが、目に見えないところでハラスメントの対応をしたり、会社の仕組みやルールを守らない方を正したりすることもあれば、傷病などの休職相談に親身に乗ったり、復職に関する個人のフォローをしたり、安否確認に足を運んだりと企業と社員の間で起きる様々な出来事に率先して関わり対応をしていきます。

こういった問題が起きたとき白黒はっきりすることもあれば、どちらとも言えない微妙な問題に直面することもあり、都度何が正しいのかを考え、行動していかなければなりません。

正解がなく、人に深く関わる仕事という面で、労務は非常に難易度が高い仕事だと思います。なので、素晴らしい労務担当の方というのは、法律や制度に関する知見はもちろんのこと、人との向き合い方がとても誠実で優しい方が多い印象です。


3.組織変革と労務の関係性

ここまで労務という仕事の難しさを整理しました。ここからは組織変革を実行する上で労務がなぜ大切かという話。

社員からすると人事は常に人事なので、組織変革も労務も同じ人事との接点になります。なので、組織変革のメッセージをいかにポジティブに積極的に発信していようとも、この労務の信頼が欠けていると受け手からは信頼・協力を得難い状況になるからです。

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また、上述しましたが人事企画が発する様々なメッセージは企業や人といった集合に向かって発信されることが多いのに対し、労務の場合は常にあなたになる。なので、組織変革の文脈での人事の接点より、労務の面での人事の接点の方が受け手にとっては自身との関連付けが強くなります。
こういった受け手の心理はマーケティングの場でもよく意識されることかと思います。

また、組織変革の中で人事が色々な取り組みを考えるとはいえ、結局は一人ひとりの行動を変えていくということなので、人事に対して後ろ向きだったり信頼感を欠いた状態だと、そういった取り組みに対して協力を得にくくなるでしょう。


4.今後はさらに重要になるのでないか

また、今後の労働市場やEXの観点でも労務の重要性はますます高まるのではと思っています。まず、今後の労働市場という観点において、これから日本はまだ過去にない問題にたくさん直面することとなります。直近だとジョブ型雇用への転換がバズりかけている印象ですが、これが日本の雇用環境上難しいのは自明でそれでもここにきてまた力強く押し出されていくのだとしたら、それは現状のままで社員の雇用整理をいかに進めていくのかという大きな波に変わっていく可能性があると思います。

それだけではなく、これから必ず増えていく介護と仕事の両立に関わる問題や定年との向き合い方など長期的に表面化していく部分はもちろん、直近だとリモートにおける勤怠管理やリモートハラスメントの対応といった新しい問題がでてくるかもしれません。

脱線しますが、リモート下の勤怠管理で怖いなと思うのが就業中の事故。同じ職場で働いていると仮に無断欠勤したり体調不良がある場合、何かしらを周りが察知することができますが、リモート環境において「相手から連絡がない=なにかある」とはシンプルに結びつきにくいため、何か異変があってもうまくキャッチできない可能性があります。まだ問題として表面化していないと思いますが、この観点はマネージャーも意識しないといけないかなと思います。とくに一人暮らしの自宅でリモートワークされていたりする場合、リモート就業中に体調不良や事故にあっても誰が気づけるのか。


また、EXの面においても労務関連のやりとりというのは個人と企業の接点(経験)に他ならないと思います。
EXを掲げているが、労務管理がずさんだったり、何かの申請や手続きが複雑で対応もいまいちだったりすると、EX向上の妨げになると思います。逆にこの労務の接点を見直して、社員からの信頼度をあげていくことができれば、それは人事全体にとって大きな追い風になると思います。

実は社長や上司、人事から発信される「みんな」への変革のメッセージより、労務担当からもらった「私」への気遣いの一言や優しい心遣いに胸打たれて、がんばろうと気持ちが動くことの方が本質的であり、EXの観点で重要な部分なのかもしれないです。
(もちろんそういった気遣いは労務以外の場面でも誰しも意識してつくっていけますが、労務との接点は個人が困っている・悩んでいる時が多いので、その一言はより重みが増すと思っています)

5.最後に

気づくと随分気持ちによった内容になってしまった感じですが、どんなに素晴らしい方針や計画を持っていても、結局は社員とのラストワンマイルを大切にしないと何も動かない。

組織変革のメッセージを大きく発信する前に、社員との接点にどう向き合っているか今一度目を向けましょうという話でした。

今回はここまで。ありがとうございました。

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