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「データの見える化」を推進し、バス路線を最適化米子市街地と郊外を結ぶ立体的なまちづくりの基盤に

  人口約15万人を抱える鳥取県第二の都市である米子市。近年、地域のインフラである路線バスの利用者が減少し、また運転手不足のために路線の一部廃止、減便を余儀なくされてきました。

米子市はこの問題に対し、米子広域圏(米子市、安来市、境港市、西伯郡、日野郡)の公共交通の利用促進を図る目的で、「米子地域MaaS協議会」を発足。地域の人たちにとって重要な生活の足がなくならないよう、エリア内の路線バスやコミュニティバスの利用をデジタル化し、利用者の動向をデータとして蓄積していくことで、「路線の最適化」を目指しています。

 その実験的施策として、米子広域圏の路線バス、コミュニティバス等の公共交通の利用促進を目的とした、スマートフォンを用いた電子チケットの実証実験「Y-MaaS(ワイマース)」を、2022年1月1日から実施。Y-MaaSの主な施策として「RYDE PASS(ライドパス)」を導入し、外国人旅行者向けを除いて米子広域圏で初めてのデジタル乗車券となる「わいわいパス※」の販売に踏み切りました。

 今回は、Y-MaaS担当の石上さん、交通政策課 課長の倉本さんの米子市職員のお二人と、RYDE代表取締役 杉崎正哉が「Y-MaaS」と「地域の公共交通」について語り合いました。

※わいわいパス…米子市内1日乗り放題(600円)、広域1日乗り放題(1,000円)の2種。区域内の日ノ丸自動車、日本交通の路線バス、コミュニティバスが利用できる。利用可能時間帯は、平日は午前10時以降、土日祝日は終日。カメラとGPSを装備したスマートフォンを使い、チケットはクレジットカードまたはID決済で購入できる。バス乗車時に使用するチケットを選択し、料金箱付近のQRコードを読み込み、表示されたチケットを乗務員に見せて降車可能。

▼概要
導入自治体様:米子市交通政策課
導入内容:市民・県民・観光客目線を包括した交通を起点としたDX

米子市の交通インフラが抱える問題と課題

──まずは、米子市ではどのような交通の問題や課題を抱えていたのか、お聞かせいただけますか。

米子市 交通政策課 係長 石上 均 氏(左)
米子市 交通政策課 課長 倉本 樹 氏(右)

倉本:米子地域を走るバス事業者は2社で、それぞれの利用客は年々減少しており、一部路線の廃止や減便など、かなり厳しい状況が続いています。

石上:路線バスで生じる赤字が年々膨らんでいますが、市民の皆さんの生活の足がなくならないように、実は国や県の補助金で赤字はほぼ100%補填しています。バス事業者としては、利用客があまりいなくても困らないような状況にあります。

──利用客が減少するなか、公共インフラとして路線バスをどうにか維持しなくてはならないという問題があるということですね。他には、例えば決済など利便性の部分での課題はありますか。

石上:今、バス会社は路線を維持するのに精いっぱいという感じです。実際、昭和30〜40年代と比べるとバスの利用客は10分の1以下に減っていますが、現在残る路線では本数は少ないものの、それなりの利用客数があります。

現在の利用客は昔から利用を続ける人が多く、利便性はあまり意識してないようです。ですが、都会からきた人には、交通系ICカードやQR決済を導入しないのかというお声をいただきます。米子市としては、乗客の利便性を高めたいということは当然あります。しかし、バス事業者においては、新たな負担の発生に二の足を踏むところもあります。赤字路線が多く、少々利用客が増えたところで、赤字補填の補助金が減るだけで会社への身入りはあまり変わりませんので。

倉本:利用客減少の背景には、自家用車は一家に一台ではなく、一人一台が当たり前の車社会だということもありますよね。

石上:米子は自動車の保有率がとても高い地域の一つですから。公共交通は、米子駅の市街地を中心に放射状に伸びていますが、人々のニーズに合わなくなっているのは確かです。人々の目的地である商店が、ロードサイドに散らばっていて、街中の1カ所に通うということがなくなってきたので、バスのネットワークを発揮するには難しい状況です。新しいロードサイド店に路線を走らせようと思っても、交通量が多すぎてバス停がつくれない。また郊外に4車線の道路ができても交通量が多すぎる上に、歩道が少ないのでバスレーンが取れないので厳しいですね。

杉崎:人口が減少して利用客がどんどん減っていくという単純なことではないんですよね。実際Y-MaaSでは、地域全体のいろいろなクーポンをつけています。生活路線のバス利用と、特典がついているお店、コンテンツへのバス移動というのがセットで設計されないと利用促進が図られないというのはずっと感じています。ロードサイドに店が散らばっていて、そこに実はバスが走っていないというのが課題で、このミスマッチが本質的な課題なのかなと思います。

RYDE株式会社 代表取締役 杉崎正哉

利用客のニーズを見える化し、データドリブンな話し合いが可能に

──公共交通に課題を抱えるなか、Y-MaaSというプロジェクトが発足した目的はどういったものでしょうか。

石上:Y-MaaSは公共交通の利用促進の一環として昨年度から始まりました。まずは、今あるバス路線を使ってもらいたいのですが、路線はすべて米子市街地から放射線状に伸びていて、郊外間での実用性はほぼない。この状況で使い倒してもらうには、乗り継ぎが不可欠です。乗り継ぎの不便をなるべくなくすために、乗り放題のチケットを導入しようということになりました。プロジェクト立ち上げ当初には、RYDEさんの存在を存じていなくて。やむなく仕様書を出して発注して新規でシステムを作ろうと考えました。

ところが、すぐに簡単に乗っかれそうな「RYDEPASS」という便利なシステムがあると知りまして(笑)。 新規で見積もりを取るとそれなりの金額がかかるほか、運用コスト、サーバーの維持だけでも、かなり負担は大きいです。財政当局と交渉しながらなんとかギリギリの予算を得たときに、「RYDEというおもしろい会社がある」と紹介されたという経緯です。なのでもう少し遅ければ、他社に発注していましたね(笑)。

今、地域に残っている路線はそれなりに利用があるけど、路線を設定したのはもう何十年も前で、そのまま定着しているという感じです。新しい路線を作るのはリスクが大きいので、RYDE PASS導入によるデジタル化でデータをしっかり示して、市民やバス事業者に提案できるようになるのではと期待しています。

──最終ゴールとして、路線の最適化を目指すということなんですね。米子市様として、実際RYDEPASS導入の決め手になった部分はどこでしたか。

石上:RYDEさんの事業をホームページでチェックして、ハードルが低く使いやすそうなサービスだなという印象でした。当然ながら、自前のシステムを作っても既製品というか、プロが作ったプラットフォームにはかなわないですよね。さらに、システムの開発を想定していた際に、開発元に運用もお願いしたいと依頼をしましたが、果たしてちゃんと運用できるのかなという疑問もありました。
 以前、情報システムの担当をしていたため、制度が変わるたびに税金の計算が変わったりなど、改造費がずっとかかり続けるというのを、目の当たりにしていましたから。自前でシステムを作るときめ細やかな対応はできるのかもしれないですけど、リリースと維持するためのコストは大きいでしょう。

杉崎:自分たちで無理して頑張って作っていてもつらくなるから、パッケージとかプラットフォームを使ったほうがいいよっていう話は布教していきたいです(笑)。

石上:それは布教したほうがいいですね。みんな幸せになるから!

杉崎:デジタルサービスとして高いレベルを実現するには、運用メンテナンスや改善アップデートなどに相当な費用をかけ続けていかないと、おそらく不可能です。各地の自治体さんや交通事業者さんが、莫大なコストをかけてまでやったとしても、採算が合わないですよね。費用をかけず、ユーザーが繰り返し使ってくれるようなサービスを提供していくためには、自前で作るのではなく我々のようなプラットフォームに乗っかるほうがいろいろと理に適っているのかなと感じます。

コミュニティバス降車の際にRYDE PASSでQRを読み込む

石上:もちろん考えてはいました。そのための電子化ですので。例えばこういう乗り継ぎが多いというデータが取れたのであれば、そこをカバーする路線を作ったらどうですかと、バス会社に提案できる。

石上:これまで「データの見える化」は全くされていなかったんです。国の補助金の計算のために年1回、OD調査(Origin(出発地) - Destination(目的地)調査)をするくらいでしたね。今では、RYDE PASS導入によりデータで示せるようになりました。先週あったY-MaaSの運営協議会では、データで観光客にも使っていただいていることがわかったため、もっと観光客にも使いやすいようにしたほうがいいんじゃないかという議論になり、現在は平日午前10時以前はパスを使えないのですが、この制限をなくしてもいいんじゃないかと、バス会社の方から提案が出たのには驚きました。こちらが言い出したくても言えなかったことなんですよね。

杉崎:データに関してはRYDEが大きく貢献できたかもしれませんね。プラスして、マーケティングのキャンペーンを実施し、実際そのワンデーパスをお客様がどこで認知して利用するきっかけにつながったのかという、バスを利用する前段階の、いわゆるカスタマージャーニーをちゃんと分析し始めることができたのも良かったかなと思います。

米子市さんがちゃんとデータを集めて、前に前にと試行錯誤を繰り返して進めています。それは全国のいろんな公共交通の事業者さんを勇気づけるというか、鼓舞するというか、いいベンチマークになっていくのかなと思います。

石上:今後はパスの時間制限を取っ払って、なおかつ空港連絡バスにも使えるようにしようかなと思っていて。そういうことを検討するにも、ちゃんとデータがあると話が早い。今までは正確なデータがなかったので、バス事業者と感覚で話していました。
杉崎:きちんとしたデータがあると、こういう議論は意見のぶつけ合いにならずに、スムーズに進みますよね。


導入地域拡大で、詳細なデータ収集とさらなる利便性アップを目指す

──最後に、今後の期待や取り組んでいきたいことを教えてください

石上:データはいろいろと集まってきていますので、新規の利用客を増やしていきたいです。前に杉崎さんが「人が使っているのを見て、使う人が出てくる」と言っていましたけど、実際に電話があったんです。その方はほかのお年寄りが使っているのを見て、何をしてるんだろうと思ったのがきっかけでいろいろ調べてくださったようで、米子市のホームページでこのパスを知り、自分もダウンロードして使ったということでした。

また既存の利用客の利用回数がどれくらい増やせるか、そのあたりを実現していきたいですね。データをどう取るかは課題ですが、目に見えるようなデータでバス会社が実感するような形で、利用者が増えたら嬉しいなというふうに思っております。そのために新しい乗車券の企画などもやろうと思っています。

倉本:利用客数が確実に伸びていますので、さらに使い勝手が良くなることも目指したいですね。あとは、以前「若者に使ってもらうと高齢者もそれを見て使うようになる」というお話がありましたが、最終的にはそこに向かっていければ。

杉崎:RYDEとして、ぜひ今のY-MaaSを起点に、米子市さんから鳥取県という県全体に拡大していきたいですね。同時に、高齢者や若い方々に、もっともっと利用してもらうためにはどうすればいいか、その地域住民向けのベクトルの議論を深めて利用促進のためのアクションを行っていければと思います。さらには、近隣の松江市交通局さんなど周辺地域とも連携して、同じような取り組みをRYDE PASS上で進めていただけるといいなと思います。

一同:本日はありがとうございました!


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