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販売職ならラグジュアリーブランドをおすすめする理由

「販売職」の選び方?


人と接するのが好き、洋服が好き、アクセサリーが好き。そんな人なら、販売職を視野に入れたことがある人も多いはず。実際に販売職を受けるにあたって、「どんな基準で会社を選べば良いのかな」「その洋服が好きというだけで受けてしまって大丈夫かな」と悩んでいる人もいるかもしれない。

約4年間販売職をしていた私が、この仕事を志す方へ向けて「ラグジュアリーブランド」をおすすめする理由をお伝えしていきたい。この記事が販売職を検討している人のヒントになれればと思う。

私が勤めていた販売職については、上記の記事にまとめている。興味がある方は読んでいただけたら嬉しい。


①制服がある

まずは、単純かもしれないが服装から。「アパレル」といえば、シーズンごとに自社製品の洋服を着てPRする、というイメージがあるかもしれない。もちろん会社によって違いはあるが、基本的にショッピングモールに入っているブランドはそのとおりだろう。

「洋服が好きだからそれが楽しい」と思われる人もいるかもしれないが、決まったお給料から毎月衣服代がそれなりにかかることは、長い目で見ると結構な負担になりうる。あるいは、自分の好みが変わって「販売するぶんにはいいけど、自分が着るのはちょっとなあ…」と感じるようになってしまうかもしれない。私の経験から思うことだが、自分があまり良いと感じないものを販売することは、想像以上に苦しく、しんどいものだ。自分が好きなもの、そして好きでい続けられるものを扱うに越したことはない。

「好みが変わったらブランドを移ります!」というアクティブな意見もあるかもしれない。それもまたひとつの考えだと思う。しかし、私のおすすめは「制服のあるラグジュアリーブランドを選ぶこと」だ。

ラグジュアリーブランドでは、制服が支給されることがほとんどだろう。私が以前働いていた会社では、男女ともに制服支給(スーツ上下)で、女性は首にブランドオリジナルのスカーフを着用。スーツのインナーであるUネックのTシャツも、春夏用に白と秋冬用に黒、それぞれ支給され、パンプスのみ自分で用意した。

「着替える」ことで仕事とプライベートのオンオフの気持ちの切り替えがしやすく、また通勤時の私服も自分の好きなものを着られるのはストレスフリーだった。また、スーツであれば「年齢がブランドを追い越す」心配もなく、服装に頭を悩ませることもない。

私は、「制服がある」ことと「等身大でいられる」こと、ある意味でイコールだと思っている。販売職から始めてキャリアチェンジをしたい、という人はもとより「長く販売職をしたい」と考える人にとって特に重要なポイントではないだろうか。


②長く働くことが出来る

「ずいぶんざっくりとした表現」と思われるかもしれない。しかし、これは私が実際にラグジュアリーブランドで働いていた際、自分のお店以外にも多店舗を観察していてよく思っていたことだ。

販売職から始めてプレスになりたい、バイヤーになりたいという人ももちろんいるかもしれないが、そうではなく「とにかく販売職一本で接客を極めたい」と考える人に対しては、特におすすめできる理由がここだ。

ラグジュアリーブランドでは、カジュアルなブランドよりもスタッフの平均年齢が比較的高い。特に、ジュエリー・時計などの宝飾業界では特にその傾向が強いように思う。

私が以前いた店舗では、入社した当時、スタッフの年代は以下のような割合だった。

20代:30代:40代 = 1:2:2

通常のブランドが20代がメインであることと比較して、平均年齢が高い。そして、先輩方はみんな平均勤続年数が長かったという点も付け加えておきたい。

これは私のいたブランド・店舗に限ったことではなく、全体的にどの店舗も20代以下のスタッフが比較的少ない(非正規雇用の社員に関しては例外があるかもしれない)。

スタッフの平均年齢が高く、在籍年数も長い傾向にあるラグジュアリーブランド。では、なぜだろうか。

私の自身の経験を踏まえた考えは、

商品が長く愛用出来るもの、また、年齢を重ねてこそ似合うものであること

・お客様視点では、若すぎるスタッフよりも安心感と説得力がある

・落ち着いた環境で接客が出来る

以上の3点だ。ひとつずつ解説していく。


商品が長く愛用出来るもの、また、年齢を重ねてこそ似合うものであること

例えば、扱っている商品がとても好きだったとしても、自分の年齢が商品のターゲット層を大きく超えてしまったら、店頭に立つことが難しくなるということも当然ある。ラグジュアリーブランドでは基本的に、趣味嗜好が変わる以外で、商品が自分に合わなくなるということになりづらい。むしろ、ブランドに追いつける自分になるため、日々磨かれる。特に宝飾品では、「年齢を重ねないと似合わない」というものが存在する。だからこそ、長く働くほどにブランドに対して愛着と魅力を感じるし、一緒に成長していける実感があるのだ。


・お客様視点では、若すぎるスタッフよりも安心感と説得力がある

また、ラグジュアリーブランドの接客では、「若さがアドバンテージにならない」ことが多々ある。この点は、カジュアルなブランドとはまた違う特色といえるだろう。特に、よりこだわりの強い方は若いスタッフよりもベテランの接客を好まれる傾向にある。

豊かな人生経験が厚みのある接客を生む。私は、先輩方の接客を見ていていつもそう感じていたのだった。


・落ち着いた環境で接客が出来る

ラグジュアリーブランドの販売は、基本的に1組のお客様を最初から最後まで1人のスタッフが担当する。お客様も時間をかけて商品を選ぶし、接客の時間も長い。来店数が多くせかせかした店舗に比べ、余裕のある接客、そして働き方が出来るのも魅力のひとつだ。歳を重ねても、販売職として身体的な負担を感じすぎず働くことが出来る。


以上の点から、ラグジュアリーブランドの販売職は長く務めることが出来る環境だといえる。

実際、私が勤めていた店舗では一番若い先輩が5年目で、10年以上勤めている先輩もいた。ラグジュアリーブランドの販売職は、お店の雰囲気と働き方さえ自分に合っていれば、長く働くことが出来る。


③高額商品に対して免疫がつく

これは私がラグジュアリーブランドの販売職をしてから「モノの価値」に対する見方が変わったことから、こちらでも共有しておきたいと思う。

例えば、あなたは「50万円のバッグ」と聞いて「高い」と感じるだろうか。「はい」と答える人が大半だろう。単純に「50万円」という価格をピックアップすると、一般的なバッグに比べ確かに高い。では、ここで一度視点を変えて、自分が買い物をするときのことを想像してほしい。

例えば、旅行に着ていくための洋服を買うとき。好きなアーティストのコンサートで、グッズを買うとき。大切な人へのプレゼントを選ぶとき。

旅先のシチュエーションでその洋服を着ている自分を想像し、イメージにぴったり当てはまるようなものを購入することが出来れば、旅行が終わったあともその洋服を見るだけでそのときの気持ちを思い出すだろう。

アーティストのコンサート会場では、グッズを手にすることでより高揚感を感じ、会場全体と一体化しているような感動が味わえるかもしれない。

「これならきっと喜んでくれる」と、大切な人の笑顔を思い浮かべながら選んだプレゼントは、きっとあなた自身の栄養の種にもなっている。

人がものを買うとき「商品の価値が価格に見合っている」と感じることができれば、価格にも納得できるものなのだ。

私は販売職の仕事を始めてから、仕事でもプライベートでもたくさんの高級商材を見てきた。金銭感覚が変わった意識はないが、金額に物おじしなくなり、「この商品は、なぜこのプライスなのか」をよく考えるようになった。その結果、高額商品の値段に、自分なりにだけれど意味を見出すようになった。

なぜなら、仕事でもお客様に日常的に聞かれるからだ。「これとこれ、同じように見えるけど、こっちの方が値段高いのはなぜですか」「この値段の差は素材だけ?中の性能は違うのかな」など。

当然、勉強は必須だ。見た目だけではわからない、見えない部分の良さまでも伝えるためには、知識が欠かせない。お客様の想像を上回る、感動的な商品であることを伝える必要がある。そして、商品の良さを伝える自分の接客自体までもが、お客様にとって記憶に残る1ページになるように…それがお客様の「商品に対しての納得度」を左右するのだ。

私はこの仕事で、ものごとの「本質を見る」意識を養われたと感じる。もちろんまだまだ勉強中であり、今も自分の見識の浅さに落ち込むこともよくある。しかし、新しい価値観を教えてくれた販売職で、最初の一歩を踏み出せたことを嬉しく、感慨深く思っている。


④多様な価値観を知ることができる

当然ではあるが、お客様の中には様々な方がいらっしゃる。どんなお店でもそうだが、ラグジュアリーブランドでは特に、普通に生活していたら会うことがないような人に出会える機会が多い。企業にお勤めの方から経営者、フリーランス、芸能のお仕事をされている方まで。そんな方々に接客する際、セールス側がお客様から学ぶことも多い。


結婚指輪を買いに来たカップルがいたとする。女性は、シンプルな一粒ダイヤが埋め込まれたものと、フルエタニティ(ダイヤモンドが隙間なくぐるりと一周埋め込まれているタイプ)で悩まれていた。「こっちはとっても素敵なんだけど、華やかすぎるかな…」

対応したスタッフは試着のあと、「フルエタニティも素敵なんですけど、結婚指輪は一生に一度のものでずっと使いますので、飽きの来ないこちらのほうがおすすめですよ」と、シンプルな一粒ダイヤの方をおすすめした。しかし、女性はスタッフのその言葉を聞き、どことなく腑に落ちない表情。すると、それまでそばで見守っていたパートナーの男性が女性の様子を見てひとこと、こう言った。「もし飽きたらまた買ってあげるから、今欲しいものを選んだらいいよ」

そしてそのカップルは結局、ダイヤがふんだんに施されたフルエタニティリングをご購入されたという。


エタニティリングは、その特性上サイズ直しが出来ない。また、ダイヤがほとんどの面積を占めるため、汚れがたまりやすい。スタッフはそういった点も加味し、日常生活には一粒ダイヤのほうが適切だと伝えようとした。その意図は大変よく分かる。

しかし、「このカップルにとって」そこは問題ではなかったのである。あくまで、「気に入ったけれど、自分に似合うかどうか」が重要だった。女性の心の中ではフルエタニティが魅力的だったのだけれど、あと一歩の後押しが欲しかったのだ。その証拠に、男性の一言で決定意志が固まった。

「結婚指輪は一生に一度」とはよく言われるが、このことさえ固定概念であるということを疑わねばならない。どんなに鉄板とされる原則でも、必ずしもすべてのお客様に適用されるわけではないのだ。



ラグジュアリーブランドの接客は奥が深い。また、正解はない。しいて言えば、お客様に満足していただける接客が出来たら、それが正解だ。お客様がどんな考え方・価値観を持っているか、それをつかむことが大切だと感じる。

私も、「接客するスタッフによって、お客様のご購入されるものが変わる」という経験を多くしてきた。だからこそ、十人十色の接客があって良いと思っている。ただ、どんな時でもどんな接客でも、本質は一緒である。

「お客様に寄り添うこと」、これが最も大切だと思う。セールス側でも、お客様の目線で、どのように感じるかを常に考えること。基本的なことだけれど、これをマスターすることは難しい。しかし、この経験はほかのどんな人間関係でも役に立つ。私は高級商材の販売職を通じて、これまでは考えもしなかったような、人の潜在的な気持ちや思いをくみ取れるようになり、自分と異なる意見やまったく違う価値観を持つ人との付き合い方を学んだ。そしてこれは今までも、そしてこれからの人生でも、私の財産になってくれる。

「販売職はAIの自動化によってなくなる」。昨今よく言われることだ。AIが今後、接客業に大きな影響を及ぼしていくことは間違いない。ただ、私にはどうしても、ロボットが人間を超える、圧倒的な感動を生み出す接客ができるとは思えない。また、そうした価値を持つ人材が、これからも重宝される時代になる、そう感じている。

この記事が、接客業および販売職を志す方の参考に少しでもなれたら、または、そうではない方でもこんな業界もあるのだということを知ってもらえたら、こんなに嬉しいことはない。こんな時代だからこそ、人対人のコミュニケーションが絶えない社会であってほしいと願う。

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