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【創作大賞2024】「友人の未寄稿の作品群」16【ホラー小説部門】

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16: 未_怪談の常套句 のコピー のコピー


博士「Bさんにこの話をしたAさんも、私にこの話をしたBさんも、今は行方不明になっているそうです――」

匿名「ほぇ~。って、これを聞いた僕はどうなるんですか!?」

博士「これを話したワシもどうなるんかのお」

匿名「そんな他人事みたいに......」


教えて!██博士!


博士「『この話を聞いた者には不幸が訪れる』というフックやオチは、よくホラー作品に使われるクリシェじゃの」

匿名「最近よく見ますね」

博士「いわゆる『メタ的な悪意』というものじゃ」

匿名「メタって何ですか?」

博士「メタ発言という言葉があるじゃろ?次元を超えた、みたいな意味で捉えてもらえばここではOKじゃ。例えば、君。君じゃよ君。今この『未_怪談の常套句のコピーのコピー』を見ている君のこと。一度終わったはずではなかったかと、これは何だと、思っているそこの君じゃよ」

匿名「これをされるとなんか冷めますよね」

博士「そんな辛辣な。まあ、作品が読者に干渉してくるようなものってイメージが分かりやすいかの」

匿名「ふむふむ」

博士「『メタ的な悪意』には種類がいくつかあってな」

匿名「ひとつ目」

博士「これは単純に、読んだ / 聞いた / 見た者が呪われる系じゃな」

匿名「ふたつ目」

博士「読ませる / 聞かせる/ 見せることによって呪いを伝染させる系じゃな」

匿名「みっつ目」

博士「読ませる / 聞かせる/ 見せることによって呪いを実行させる系じゃな」

匿名「よっつ目」

博士「読ませる / 聞かせる / 見せることによって怪異を顕在化させる系じゃ」

匿名「いつつ目」

博士「読ませる / 聞かせる / 見せることによって穢れを分散し希釈することを目的としたもの」

博士「と例をあげたらキリがない」

匿名「みんないろんな方法を考えるんですねえ~」

博士「そうじゃな、人間の想像力というものは無限じゃ」

匿名「さっきの話は、どのタイプに当てはまるんですか?」

博士「さて、どうかのう?ここで重要なのは、この話がどのタイプかを知ることではなく、その話が君にどう影響を及ぼすかということじゃ」

匿名「えっ、本当に何か影響があるってことですか?」

博士「さぁの。実際に何が起こるかは誰にも分からん。それこそがホラーというジャンルじゃからの」

匿名「そんなあ」

博士「恐怖は人間の根源的な感情じゃ。それを乗り越えることによって成長することもある」

匿名「でも、本当に何かが起こったらどうするんですか?」

博士「その時は、その時じゃよ。恐怖を避けて生きることも一つの道じゃが、恐怖に立ち向かうことによって得られるものもある。それを君自身で見極めることが重要じゃ」

匿名「いやだなあ」

博士「ふむ、ならばこの話を忘れるという選択もある。しかし、それは君の自由じゃ。何を選ぶかは君次第じゃよ」

匿名「ふええ」

博士「ところで、君は『モキュメンタリーホラー』というジャンルを知っているか?」

匿名「モキュメンタリーホラー?聞いたことはありますけど、詳しくは知らないです」

博士「ドキュメンタリー形式を用いてフィクションのホラーを描く手法じゃ。まるで実際に起きた出来事のように見せかけることで、観る者にリアルな恐怖を感じさせるんじゃ」

匿名「本物っぽい偽物を作るんですね」

博士「そうじゃ。偽のインタビューや映像記録、証拠写真などを駆使して、まるで実際にその場にいたかのような臨場感を持たせる。観客や読者はフィクションであることを忘れて、一層恐怖を感じることになるんじゃよ」

匿名「追体験をしている感覚ですね」

博士「この手法は、視聴者の心理に深く訴えかける効果があるんじゃ。特に、インターネットやSNSの普及によって、情報の信ぴょう性が曖昧になる現代では、この手法が一層効果を発揮するんじゃな」

匿名「現実とフィクションの境界が曖昧になるからこそ、恐怖が増すんですね」

博士「ものわかりが良いの。モキュメンタリーホラーは、視聴者や読者が『もしかしたら本当に起きたことかもしれない』と思うことで、恐怖を倍増させる。それがこのジャンルの魅力であり、恐ろしさでもある」

匿名「ほほお」

博士「書籍においても、モキュメンタリーホラーは使われておる」

匿名「映画やテレビだけじゃなく、本でもモキュメンタリーホラーがあるんですか?」

博士「書籍におけるモキュメンタリーホラーも、映画やテレビと同じようにドキュメンタリー形式を用いてフィクションのホラーを描く手法じゃ。読者にリアルな恐怖を感じさせるために、実際の出来事のように見せかけるんじゃよ」

匿名「具体的にはどんな風に書かれているんですか?」

博士「例えば、偽の新聞記事やインタビュー、日記、手紙、ブログ、報告書などを使って、まるで実際に起こった出来事のように物語を構成するんじゃ。これにより、読者はその物語がフィクションであることを忘れ、一層恐怖を感じることになる」

匿名「なるほど。そんな風に書かれると、本当に起こったことのように感じますね」

博士「なんなら信じてしまう者もおる。この手法は、視覚的な効果に頼らずに読者の想像力を駆り立てる点で非常に強力なんじゃ。読者は自分の頭の中で物語を再現し、その結果、恐怖がより深く心に刻まれる」

匿名「確かに、文字だけで描かれる恐怖って、自分の想像力が入る分、怖さが増すかもしれませんね」

博士「さらに、物語の中で実際に存在する場所や出来事とリンクさせることで、読者はそのフィクションと現実の境界が曖昧になる感覚を味わうんじゃ。これがモキュメンタリーホラーの魅力であり、恐怖を引き起こす要因でもある」

匿名「みんなリアルな恐怖を求めているんですね」

博士「あくまでも安全圏でじゃけどな。では、メタ的な悪意に話を戻そうかの」

匿名「始めに話していたやつですね」

博士「モキュメンタリーホラーとメタ的な悪意はとても相性が良い。モキュメンタリーホラーが読者や視聴者に現実感を与える手法であるのに対し、『メタ的な悪意』はその現実感をさらに一歩進めて、作品そのものが現実世界に干渉するような恐怖を生み出すんじゃ」

匿名「どういうことですか?」

博士「具体的には、作品内の出来事が読者や視聴者に直接影響を及ぼすような描写がされる。例えば、作品を読むことや見ること自体が呪いの一部であるという設定じゃ。これにより、読者や視聴者は自分がその呪いの一部になってしまうかもしれないという恐怖を感じるんじゃ」

匿名「本から手が伸びてきたくらいの驚きがありますね」

博士「自分には関係ない安全圏で物語を読んでいると思ったら大間違いなんじゃな」

匿名「よくある怪談なんかに飽きてきた人にとっては新鮮な恐怖ですね」

博士「モキュメンタリーホラーと『メタ的な悪意』は、恐怖を倍増させるための強力なコンビネーションじゃ。ただ、強力ゆえに使いすぎは厳禁じゃな。いくら新鮮でも、時間が経てば飽きられてしまう」

匿名「使いどころが大事ですね」

博士「そうじゃの」

匿名「ところで、この物語自体も何かメタ的な悪意が含まれていたりするんですか?」


博士「この会話を聞いている君たちには」

博士「この記事を広めたくなる呪いが」

博士「かかって――」


匿名「さすがにそれは無理がありますよ」

博士「じゃよね。正直、読者に対する悪意は全くないから安心して良いぞい。最後まで読んでも、聞いても、見ても、なにも起こらないから安心して」

博士「私の悪意は、あなたたちには向いていないから。安心して読んでね」



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