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【創作大賞2024】「友人の未寄稿の作品群」15【ホラー小説部門】

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15: 未_彼岸の祭り のコピー のコピー


 皆さんは、今この時期を何というか知っていますか?そうです、お盆ですね。

 お盆といえば、亡くなったご先祖様の霊を迎え、供養する期間です。

 お盆は『盂蘭盆経』という経典に由来します。
 釈迦牟尼の弟子である目連尊者は、餓鬼道に落ちた母親を救おうと、神通力で食べ物や水を送りました。しかし、それらは母親の目の前で燃えてしまい、決して母親の口には届きませんでした。
 目連尊者に、母親を救う方法を問われた釈迦牟尼は、「修行を終えた僧たちに、母親に対する気持ちと同じ気持ちを持って施しをせよ」と仰いました。その教えを実行すると、施しの一端が餓鬼道へと届き、母親を救うことが出来たといいます。

 僧達が修行を終えたのが旧暦の7月15日。旧暦の7月15日は新暦における8月中旬にあたるため、8月15日前後にお盆が定められている地域が多くあるんですね。

 そんなお盆の時期になると思い出す話があります。


 夏と言えばお祭り。みなさんの地域にも、毎年決まった時期に開かれるお祭りがあると思います。「祭り」の語源には諸説ありますが、「神を祀る」と書く「祀り」や「たてまつる」からきているという説が有ります。どのお祭りにも、祀る何かが存在するんです。

 私の大学時代の友人、仮にAさんとしますが、これは彼女から聞いた話です。Aさんの生まれ育った地域にも、長く続いているお盆の祭りがありました。

 Aさんが幼い頃、家族全員で過ごすお盆は特別でした。毎年、お盆になると、近くのお祭りにみんなで出かけるのが恒例行事でした。
 祭りの会場では、ヨーヨー釣りやかき氷、りんご飴といった色とりどりの屋台が並び、どこからともなく漂ってくる美味しそうな香りに包まれていました。夕暮れの薄明かりの中、家族で賑やかに屋台を巡りながら、お祭りの雰囲気を満喫するのが、一年で最も心温まる時間だったのです。

 それでも、中学生になると、Aさんは家族と一緒に祭りに行くのが少し恥ずかしくなり、次第に行かなくなりました。
 しばらく時が経って、高校三年生の夏、友達と一緒にお祭りに行くことになりました。久しぶりのお祭りに少し緊張しながらも、友達と過ごす時間に胸を躍らせました。

 出かける前に、母親はAさんに浴衣を着せてくれました。準備が整うと、母親が一言。

「知らない子には話しかけないようにね」

 っていうんです。

 祭り会場はそれほど大きくありませんが、地域外からも多くの人が集まるため、「知らない人について行ってはいけない」という注意は理解できますが、「知らない子に話しかけてはいけない」というのは少し奇妙に感じました。
 それでもAさんは気にせず、軽く返事をして家を出ました。


 祭り会場に着いたAさんたちは、提灯の明かりが灯る通りを歩きました。屋台から漂う焼きそばやたこ焼きの香ばしい匂いに誘われ、友達と一緒に屋台巡りを楽しみました。たこ焼きを分け合い、かき氷を頬張りながら、笑い声に包まれています。

 ゲームの屋台にも立ち寄り、射的や輪投げを楽しみました。時には真剣勝負になって笑い合い、夜空に打ち上がる花火に見とれる一幕もありました。花火の美しさに歓声を上げる人々に混じって、Aさんたちも心から楽しんでいました。

 そんな賑わいの中、突然友達の一人が石に躓いてしまい、足をひねって歩けなくなりました。楽しさが少し途切れたものの、Aさんたちは協力して友達を助け、公園のベンチで休むことにしました。


 公園には灯りがなく、目が慣れません。周りにはちらほら人影が見えますが、十メートルも離れていれば知り合いかどうかもわかりません。
 その中で、たった一人でいる、浴衣姿の女の子がAさんの視界に入りました。背丈はAさんと同じくらいで、顔が見えないため年齢は不明です。

 なぜかAさんは、その女の子が気になりました。ただ一人、姿勢を変えずに佇む女の子の姿が目に焼きついて離れません。
 友達が話しかけてくれるのに、Aさんはうわの空で相槌を打つばかりで、気は完全にその女の子に向いています。女の子は微動だにせず、まるで時間が止まっているかのようでした。

 次第に友達の声が遠のき、話が頭に入ってこなくなります。

 ふと気づくと、自分の足が勝手に女の子の方へ向かっています。引き寄せられるように、まるで操られているかのように、一歩一歩近づいていきます。何を思っているのか、足は止まりません。

 彼女の背後に立つと、その後ろ姿は異様に近く感じられ、浴衣の布地がすぐ目の前に広がっていました。自然と手が伸び、冷や汗が背中を伝うのを感じながら、ゆっくりと彼女の肩に触れました。

 その瞬間、心臓の鼓動が速くなり、呼吸が浅くなったのを感じます。


 彼女は、ゆっくりと振り向きます。

 徐々に見えてくるのは、見覚えのある顔で。

 それは、Aさんの顔でした。


 短い悲鳴を上げて手を引っ込めました。確かにそれは毎日鏡で見る自分の顔です。その顔から目が離せません。目の前にいる彼女はニヤリと笑って、Aさんを見つめています。

 突然、背後から名前を呼ばれました。振り返ると友達がこちらに駆けてくるのが見えます。声も出せずに立ちすくんでいると、友達はAさんの横を通り過ぎました。まるでAさんが見えていないかのように。

 私の名前を呼んでいるけど、その声は私と同じ顔へと向けられています。私はここにいるのに、目の前には私がいるのです。

 Aさんは一瞬、目の前が真っ暗になって立ちくらみました。しばらくして目を開けると、目の前には誰もいませんでした。後ろから友達が駆け寄ってきて、近くのベンチへ連れて行かれました。
 話を聞くと、四人で話していたところ突然Aさんがいなくなり、公園中を探して見つけたときには倒れていたそうです。


 始めに述べましたように、お盆の時期にはご先祖様を、あの世からこの世へお迎えします。しかし、ご先祖様がこの世に来る際に、それに便乗して、あの世からナニカが一緒に来てしまうそうなんです。

 そのナニカに、Aさんは触れてしまったのかもしれません。



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